理想の夏休みは始まりません
午前中で終業式が終わり夏休みが始まった。毎年陰鬱な夏休みだけど今年は違う。壮太の連絡先を聞くというミッションを達成したことで、報酬の¨一緒に遊びに行ける権利¨を手に入れた。具体的な日付や行き先などはまだ決まってないけど、鏡花が段取りをつけてくれることになっている。
家に帰ってきた月乃は玄関に飾られたカレンダーを見る。
「八月二十日……」
この日、隣町で大規模な夏祭りが開かれる。ここだけは何としてもと鏡花に念を押した。長い長い夏休みで、顔を拝めない日が多いのは辛いけど、その分楽しみに思う気持ちが強くなる。
「服、新調しようかしら」
夏祭りは浴衣をレンタルするとして、それ以外の日に遊びに行けることになれば少しでも可愛いく見てもらいたいと思うのが女心。
買うか買わないかは置いておくとしても兄の陽太郎と一緒にいる時間は極力減らしたいので服を見に行くことに決めた。この時間、兄はまだ会社で仕事をしているはず。その証拠に家のなかは静かで月乃が階段を昇る音だけが鳴っている。家にいるのは一人だと思いこんだ月乃は警戒心を解き油断していた。陽太郎の部屋の前を通った時、扉が勢いよく開き間髪入れずに腕を掴まれた。
「兄さん、どうして? 会社は」
「半休を取ったんだ。それより話しがある」
大の男に引っ張られた月乃は脚をもつれさせた。どうにかバランスを取り直し転けることはなかったがそこはもう陽太郎の部屋のなか。壁や天井には月乃の写真が引き伸ばされ貼られている。しかも、その写真のほとんどは際どい格好で縛られたもの。当の本人がここにいて気分が良いはずがない。
「まだ男と仲良くしてるようだな」
「ごめんなさい。でも……」
陽太郎の平手が飛んでくる。反応することも出来ず月乃の頬が叩かれた。その瞬間、沢山叩かれたときの恐怖が痛みと共に甦ってくる。逆らってはいけない、大人しくしていれば嵐は過ぎる。月乃は抵抗をやめた。
「反省してないなら罰を与えないといけないよな?」
陽太郎が縄を取り出した。ベッドに座らされた月乃が心の動作を止める。これから辱しめられるのだ。通常の精神でいたのではもたない。
感情の消えた月乃の体を縄が締め上げた。細身の体に食い込む太い縄が月乃から自由を奪っている。抵抗出来なくなった最愛の妹の姿を見て陽太郎が下卑た嗤いをする。
「やっぱり月乃は最高に綺麗だ。今まで会ったどんな女よりも魅力的だ」
陽太郎がカメラを構えると陽太郎の、陽太郎による、陽太郎のための撮影会が始まった。
色んな角度からシャッターを押す。体勢を変えさせるとまたシャッターを押す。その繰り返し。同じような写真ばかり撮って何がいいのか月乃にはわからない。こんな姿の写真のどこがいいのかわからない。それとも男はこういうのが好きで天野くんも好きのかなと考えていると電話の着信音が響いた。月乃のスマホではない。陽太郎のだ。電話に出た陽太郎がみるみる不機嫌になっていく。会話から相手は上司で急遽呼び出しをされたみたいだ。
「くっそ! 今日は半休だっつうのに。あのポンコツ上司が」
陽太郎は悪態をつきカメラを片付けだした。漸く解放されると月乃が安堵したのも束の間。陽太郎が新たに鎖を取り出し右足に触れた。
「夏休み、終わるまで家の外には一歩もださないから」
そう宣告すると足首に鎖を巻き南京錠をかけた。反対側も同様にベッドの柵に巻くと南京錠をかける。
「やだ! 兄さん、お願い!」
脚をどれだけ動かしても鎖がジャラジャラなるだけで外れそうにない。
「ダメだよ月乃。君を他の男には渡さないから」
陽太郎は鎖の巻かれていない左足を握ると爪先にそっと唇をつけた。引き締まった脚に絡ませた手で靴下を脱がし白く絹のように滑らかな肌に舌を這わせた。舌が触れるたび言い知れぬ悪寒が電気となって月乃の背中をかけぬける。
「やめ……て」
嫌悪感で月乃の顔がメチャクチャになる。気の済むまで舐めた陽太郎は出社の準備を整えるとドアに手をかけた。
「すぐ帰ってくるから良い子で大人しく待っているんだよ」
手も脚も縛られた状況では何も出来ない。指の間まで陽太郎の唾液で侵された脚がベタベタして不快感を催す。部屋中一人残された月乃の頬に涙が伝った。
その夜、鏡花のスマホに連絡が届く。ノートに英単語を書く手を止めてスマホの画面を見た。
【ごめんなさい。急遽、両親の元に行くことになりました。帰国は始業式前日になります。遊ぶ段取りを組んでくれているのに本当にごめんなさい】
「そっか。ツーちゃん海外か。それはそれで羨ましいけど……こっちは勿体ないなかったね」
入れ替わりに壮太からメッセージの返信が届いた。七月の終わりに皆で遊ぼうと誘っていたのに対する回答で壮太からの返事は「O.K.」。
二人に返信すると勉強へ戻った。




