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連絡先を手に入れよう⑥

非常にマズイことになったと月乃が震えあがった。確かに壮太の隣に座らせてほしいと鏡花にお願いをしていた。だからといってこれが予想できるだろうか。壮太と月乃が見下ろす座席……否、見た目は完全に二人がけソファー。ここはカップルしか座ることを許されない聖なるシートだ。

「自分たちがカップル専用シートに座りたいからって俺たちの分までカップル専用シートにするなよ」

ここに座るということはカップルだと公言しているようなもの。壮太はこんな自分があの豊城月乃の隣に座っていいものかと悩んで立ち尽くしている。その横にいた月乃が意を決して座った。柔らかいシートに体を沈め、空きスペースに壮太を促す。

「新しくチケット買うのももったいないですし、座りませんか? それにもう始まりますし、ね?」

尤もらしい

「いいの? 周りから変な噂たてられるかもしれないよ?」

同じ映画を観に来ている生徒もいるようで会場内で、二人の動向を観察する目がいくつも泳いでいた。

「私、天野くんとなら噂されても良いですよ? 」

むしろ、噂してほしいというのが月乃の本音。「二人は付き合ってるの?」って冷やかされたいし、「ひゆーひゅーラブラブだねー」とからかわれたい。付き合っていない今だからこその楽しみ。

「じゃあ、迷惑かけるかもしれないけど」

壮太が座ると反動でシートが揺れた。僅か二十センチの距離。肩が触れそうで触れない絶妙な距離感に二人の体が強張る。

「なんだか、暑い……ですね」

緊張に負けた月乃が手を団扇代わりに扇いだ。

「そうだね。ちょっと冷房弱いかも」

壮太も壮太でこの状況に焦っていた。隣に座るのは学校で一番モテている美少女。彼女の熱を帯びた頬は普段よりも破壊力が強いうえ、良いにおいを漂わせている。このまま見ているとどうにかなってしまいそうで飲み物に手を伸ばしストローに口をつけた。レモン風味の冷えたコーラが火照った体をクールダウンしてくれる。

壮太が飲み物を口にしたのに合わせて月乃もストローを咥えた。柔らかそうな唇を小さく尖らせる姿はまるで……。

「ん? どうかしましたか?」

壮太にじっと見られていた月乃が恥ずかしそうに首をかしげた。

「あ、っと……何を飲んでるのかなって」

ここで「キス顔を想像してました」なんて言える強者は数えるくらいしかいないだろう。ましてや壮太は平凡な小市民。しどろもどろになりながら誤魔化すので一杯一杯だ。

「オレンジジュースですよ。天野くんは何を飲んでいるんですか?」

「僕はコーラ。今日みたいな蒸し暑い日って炭酸飲料を飲みたくならない?」

「分かります! 炭酸ってさっぱりして清涼感ありますもんね」

「そうそう。特にレモンとかライムがオススメでさ、飲んでみる?」

「えっ……?」

二人の時間が止まった。特にやましい気持ちがあった訳じゃない。普通に友達に勧めるような感覚で差し出してしまった。

赤い紙コップとストローを前にフリーズしたままの月乃。脳内では¨これを飲めば間接キスこれを飲めば間接キス¨とアクセルを噴かすが恥ずかしさから体がブレーキを踏んで動かない。

微妙な空気のままブザーが鳴り照明が落ちた。

暗闇に紛れた月乃が暗殺者の如くストローを奪う。凄く恥ずかしいけど全て闇が包んでくれるだろうと願い、アクセルを全開にしてトップスピードで駆け抜けた。

「本当に美味しい、ですね」

他の客の迷惑にならないように顔を近づけ、小声で伝えた。月乃本人も驚くほど大胆な行動。

間接キスのあとに月乃が唇を近づけてきたのだ。壮太が映画に集中できるはずもなかった。

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