連絡先を手に入れよう④
放課後になり武司と連れだって教室を出た。青春を部活に注ぐ生徒の声は廊下まで届き、ふと外を見ればギラギラ輝く太陽の日差しに身を焼きながらグラウンドを駆け回っている。
「じゃ、行ってくるわ!」
「はいよ! 一回で合格しろよー?」
「おう! っとそーだ……」
武司が数学の教科書を片手に扉を開く。思い出したように振りかえると片手で合掌した。
「図書室で鏡花が待っているそうだから一緒に待っててくれるか?」
「ハイハイ」
壮太が図書室へ足を向ける。生徒の喧騒で賑わう廊下とは裏腹に図書室は静寂に包まれていた。紙の擦れる音がいくつも重なり合うなか窓際の席で鏡花と月乃が並んでいる。鏡花の手にはサスペンス、月乃の手にはファンタジー小説。壮太が入室したのに気がついた鏡花が手招きをして呼び寄せた。
「このあと映画行くんでしょ? 私たちもついていく!」
「いいけど……割とスプラッタ描写の激しい洋画だぞ? 鏡花はともかくとして豊城さんにはキツイかも」
「私は『ともかく』って何よ? 私だって女の子なんだけどなぁ……」
鏡花が口を尖らせる横で、月乃がページと壮太の顔を交互に見ていた。肘で小突かれ月乃が勇気を振り絞る。
「あ、あの……私もその映画が見たかったんです!」
「へぇー。ちょっと意外。豊城さん、スプラッタとかホラー苦手だと思ってた」
「実際体験したいとは思わないですけど映画として見る分には好きです。……変、でしょうか?」
「全然変じゃないよ? 豊城さんが平気なら一緒に行こう?」
「ハイ!」
机の下で月乃がガッツポーズをした。目的は壮太の連絡先を知ることだが、一緒に映画を観れるのは棚ぼたなラッキーだ。恋愛映画じゃないからムードは出ないだろうけど、暗い映画館で肩を並べふとした瞬間にひじ掛けに置いた手が触れ合う。ドキッとすること間違いない。想像するだけで月乃は頬をマシュマロのようにとろけさせる。
鏡花は隣で妄想を膨らませる月乃を現実に呼び戻すため彼女の脚を蹴り飛ばした。
「いったい! 鏡ちゃん、いきなり蹴らないで!」
「ごめん。でもツーちゃんの薄ら笑いに壮太がドン引きしてたから」
「ウソ……。私、そんな変な笑いかたしてました?」
「それはもう……ね? 壮太」
答えを求められた壮太が首を振って否定した。
「いやいや、鏡花が大袈裟に言ってるだけだから」
妄想で顔を緩ませてしまったのは失敗だと反省したが、とりあえず壮太に変な印象を持たれなかっただけマシだと月乃は胸を撫で下ろした。