連絡先を手に入れよう②
七月に入り夏休みが迫る。目前に迫った長期休暇に生徒諸君は夢を馳せていた。花火に祭り、海に水着と楽しいことは盛りだくさん。そしてそれを誰と過ごすかも重要になってくる。
狩人の目をした男子生徒の視線を浴びた月乃が教室の後ろで鏡花と談笑していた。
「やっぱり花火大会ははずせませんよね?」
「そだねー」
「りんご飴や綿菓子も魅力だけど、あつーいたこ焼きとか最高ですよね? こう……ふぅふぅってして天野くんにあーんしたいですよね? 」
キラキラと輝く目で月乃が語る。冷めた目で見られていることなど全く気にも止めずいた。
「その後は花火! 夜空で綺麗に咲くのを天野くんの肩に寄りかかったりなんかして!」
「うんうん。楽しそうだねー」
「あとは海も行きたいですよね? 男の子って水着が好きみたいですし、天野くん好みのを着て一緒に泳ぎたいです」
「ハイハイ」
「反応、冷たくないですか?」
何を語ってもスマホを触りながら適当にあしらう鏡花に月乃が頬を膨らませる。
「冷たいよー。妄想を繰り広げる前にまずは壮太と友達になろーよ?」
「うっ……」
「それに壮太のバイト先に行ったあの日以来、話せてないでしょ?」
「そ、それはテスト期間があったからでして……」
「言い訳しない!」
「ごめんなさい。それでその……お願いがあります……」
スマホを操作する手を止めると、呆れた顔で首を横に振った。どうせ「天野くんと遊びに行きたいからセッティングして」とかだろう。
「夏休み、天野くんと遊びに……行きたい、の」
鏡花の予測は正しかった。これ以上話を聞く必要はないと判断した鏡花は月乃の言葉を遮ってスマホを目の前に翳す。
「連絡先」
「なに?」
「夏休みに入るまでの残り十日で壮太と連絡先を交換しなさい! そしたら遊びに行く段取りはやってあげるから」
鏡花からの命令にポケットから取り出したスマホを強く握り絞める。この中には異性の連絡先がたくさん登録されているが、ほとんど相手から聞いてきたものばかり。月乃自身から異性に連絡先を聞いたことはあまりないし、ましてや恋愛感情を抱く相手に聞くなど生まれて始めてだ。
「あっ! メッセージアプリの連絡先はNGね」
「なんで?」
「みんな使っているからよ。私も壮太と連絡取るときはメッセージアプリだから。私やその他大勢と同じじゃなくてちょっと違う存在になりなさい!」
「了解です!」
クラスメイトと話す壮太の背中に眼差しを送ると壮太の横が空いている。そこへ立つために、そこを取られないための一歩を踏み出す。




