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連絡先を手に入れよう①

梅雨のジメッとしたこの空気は不快以外の何ものでもなく、シャーペンを動かす手も億劫になる。誰一人私語をしない教室には文字を書く音だけが絶え間なくなっていて、窓の外を見れば曇天が空を覆いしとしとと小雨を降らせていた。

壮太が目を落とせば机の上には解答を埋めた答案用紙が広がっている。もう一度問題と解答をチェックするがおおよそは間違っていなさそうだ。今回のテストに限って言えばそれなりに勉強してきたため、その成果が出たようで高校に入ってからのテストで一番手応えを感じている。

全科目のテストが終わり長いようで短かったテスト期間が明けた。帰る支度をしている壮太のところへ武司がげんなりした顔で近づいてくる。

「帰ろーぜ、壮太」

「はいよー」

鞄を持ち教室を出れば同じように帰る人でごったがえしている。

「テストどうだったよ?」

「まあまあ。ヤマが当たっただけだけど……。武司は?」

「俺の方は死んだ。赤点が回避できてればいいレベル。追試になったら一緒に受けよーぜ」

「まあ、俺は追試じゃないから一人で頑張ってくれ。それはそれとして鏡花が一緒じゃないって珍しいな」

二人が付き合いだしてからほぼ毎日一緒に帰っていた。お菓子と食玩の関係のように常にくっついて行動していた。

「ああ。鏡花、今日は合コンなんだよ」

「合コンっていいのかよ? 行かせて」

「ま、鏡花にも交友関係があるからな。『人数が足りない』って懇願されて断れなかったんだよ」

彼女が出会いの場に向かうというのに武司は全く気にした素振りを見せない。本当に信頼しているのだというのは伝わってくるが、それはそれでただイチャつくだけのバカップルを見ているより腹立たしい。

「なんだ? 鏡花に用でもあったのか?」

「用って言うほどの用でもないけどな」

テスト期間が始まる前、月乃を家に送っている途中、¨兄との関係が良くない¨と月乃から聞いた。そのときの顔がどうにも気になっていた。

他人の家庭環境に無闇に立ち入るべきではないのは理解している。だから聞いたところで何かできるわけじゃないだろうが、心の中でしこりのように引っ掛かってしまう。

「武司は確か兄弟いたよな?」

「なんだよ、藪から棒に。兄貴がいるぞ」

「兄貴とは仲良いのか?」

「普通…… だな。良くもないし悪くもない」

「もし、兄弟間が険悪だったらどうだ?」

「どーだろうな。¨友達¨じゃなくて¨家族¨だからな。色々難しいだろうな」

武司も上手く想像できないでいる。友人関係と違い¨絶交だ!¨の一言で簡単に断ち切れるものじゃない。どれだけ嫌っても戸籍には兄弟として登録され消せないし、一緒に暮らしていれば嫌がおうにも顔を会わせる。たとえ大人になって別に暮らしても顔を会わせないといけないときもあるし、場合によっては協力し合わないといけない時だって。 それだけ家族という繋がりは重く、こじれてしまうと非常に厄介なものだ。

「なんでそんなこと聞くんだよ?」

「なんとなく、な。兄弟ってどんな感じなんだろうって思ったんだよ」

このとき始めて壮太は¨豊城月乃¨という人間を見ていた。可愛いや清楚、お淑やかといった学校のアイドルとしての評判など関係ない一個人としての豊城月乃を――。

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