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まずは声をかけよう④

天野くんが空いた食器を下げテーブルを拭いている。

天野がレジを打っている。

天野くんが食器を洗っている。

天野くんがコーヒーを運んでいる。

「だっーーー! 鬱陶しい!チラチラ見るな!」

「ふぇっ!? なんで分かったの……?」

「分かりやすすぎるのよ! 言っとくけど私だけじゃなくて武司も気づいてるからね? 」

月乃が武司を見れば苦笑いを浮かべ頷いている。

「で? いつになったら話しかけるの?」

「うっ……。私だって頑張ろうとは思ってますよ?」

「ファミレスでは普通に話しかけたじゃない。『私汗臭いよ』って」

「微妙にニュアンスが違いますけど……。隣に座るのに無口じゃ印象悪いじゃないですか」

あのときは勇気をだしたというより¨やらないといけない¨という義務感の方が強かった。あのときのことを思い出せば胸の奥が熱くなり、サンドイッチを含んで恥ずかしさを押し隠した。

「そう……。やらないといけないのならやるんだ」

鏡花が嗤う。その嗤う姿は小悪魔を見ているのと何ら違わない。

「待って……。何を考えてるんですか?」

月乃の背中に悪寒が走った。鏡花が小悪魔の嗤いを隠して普段通りの笑いかたをすると手を挙げ壮太を呼んだ。他の客を応対していた壮太が返事を返す。

「わ、私ちょっとお手洗いに……」

ここにいたら大変なことになると予感が走りこの場を離れようとした。けれど、いち早く月乃の行動を察知した鏡花が月乃の脚を自分の脚で挟んだ。

「おっと逃がさないよ?」

「ちょっ! 離して?」

「い・や! 武司、反対の脚も押さえて」

鏡花の指示に「了解」と武司が従う。月乃の脚に武司が脚を絡める。左右の脚を拘束され、逃げることはおろか立つことさえ出来ない。二人の脚を振り払おうとするが間に合わず壮太がやって来た。

「ご注文は?」

「ごめん、注文じゃないの。私と武司、もう帰るの。」

「奢らないぞ? 」

「そーじゃなくて、ツーちゃんを家まで送ってあげて欲しいの」

「き、鏡ちゃん! いっ……」

月乃の予感は的中した。突拍子もないことを言い出す友人を黙らせようとするが、脚に走る痛みが¨黙ってなさい¨と月乃を制する。

「ほら、物騒な夜の街に美少女を一人放り出すと誘拐されちゃうからってのは大袈裟だけど変な男とかナンパしてくるやつとかいるから」

一見友人を心配しているように見えるものの、月乃が悶えている姿を見ればテーブルの下で鏡花にイタズラされているのは二人の姿を見れば来たばかりの壮太でも一目瞭然だ。月乃がイタズラされている理由までは想像の付かない壮太にも分かることはある。悶える姿も含め月乃は¨可愛い¨を具現化したような存在。ナンパされる姿も想像するは容易い。

「バイトは十九時までだから。その後でよければ?」

「さっすがーー! 壮太ならそう言ってくれると思ってたよ」

壮太が了承すると鏡花が月乃に目配せした。目の奥から¨話しかけろ¨と言わんばかりの圧力が鏡花から発せられる。膝を擦り合わせその上で指をもじもじと動かし、震える唇を噛みしめた。

「い、いいの? 天野くん……」

「豊城さんがよければ」

「お願い、します……」

もう一度¨頑張れよ¨と脚を蹴られた月乃が複雑そうに鏡花を睨んだ。無茶苦茶なことをする鏡花に怒るべきなのか、帰宅イベントを作ってくれたことに感謝するべきなのか……。

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