このクラスには大和撫子がいます
今年もまた夏がやってくる――。
「世界、滅びねーかな……」
教室の窓の一番後ろの席で天野壮太が恨めしそうな目でぼやいた。
「朝っぱらから物騒だな」
壮太のぼやきをため息混じりに一蹴したのは市井武司。壮太の数少ない友人だ。
「言っておくけど、一番最初に滅んで欲しいのはお前だからな?」
「おいおい!親友に向かって何てこと言うんだ? 俺は壮太に恨まれること何もしてないぞ?」
「ほーう……理由がわからないと?」
壮太が口を開く代わりに指を指すとその方向から一人の女子生徒が小走りで寄ってくる。高校生にしては小柄で、子犬が寄ってくるような印象を受ける。その女子生徒――七峰鏡花が武司の肩に抱きついた。
「おっはよー武司! ついでに壮太も」
「俺はついでかよ……。まあ、分かったろ? 俺が武司に滅んで欲しい理由が」
「なに! 壮太は私から武司を取り上げるつもり?」
人目も憚らず肩に顎を乗せたまま鏡花が睨んだ。
「どうやら壮太君は彼女が欲しいらしい。それが無理なら世界に滅んで欲しいらしい」
肩で乗った鏡花の髪の毛で手遊びしながら武司が憐れみの目で壮太を見た。
「やめろ! そんな目で見るな! あぁーーどうして夏になるとカップルが繁殖するんだぁ」
「そりゃあアレだろ! ¨恋人と過ごす夏休み¨に憧れてるからだろ?」
海に山に祭りに花火。それからバーベキューや肝試しにプール。夏の長期休暇は恋人たちが思い出を作るためにあるようなもの。これを一人で過ごす寂しさは口では言い表せない。カップルで賑わう世界で一人寂しく過ごすくらいならば一層世界なんて滅んでしまった方がいい。
壮太は机に伏して頭を抱えた。その姿を呆れ顔で見る鏡花が声をかける。
「彼女が欲しいなら、あそこに極上の特売品がいるじゃない?」
鏡花に言われて顔をあげると丁度教室の反対側の席に座る豊城月乃と目があった。水晶のように美しく透き通った容姿に加え文武両道。大和撫子と言う言葉がピッタリ当てはまる美少女。
「ありゃ無理だろ。俺とは住む世界が全然違う」
なんたって、あそこにいるのは五つ星の最高位。比べて壮太はせいぜい三つ星止り。壮太自身客観的に見てそれくらいだろうと納得しているので評価に不満はない。不満がないからこそ三ツ星の自分が五つ星の女性相手に夢を見ても無駄だと考えている。
「お前なぁ……」
武司と鏡花は素っ気ない壮太の態度に顔を見合せ盛大にため息をついた。
「他校にまで会員がいる¨月乃ファンクラブ¨が存在するって知ってる?」
鏡花の質問に尾ヒレに背ビレついでに胸ビレまでがついた噂を思い出した。
「この学校の男子全員が入会してるってヤツ?」
壮太は入会した覚えがないのでデマである。
「そっ。入会にはSAT並みの特殊訓練が必要なやつ」
運動神経の良い生徒や体を鍛えている生徒もいるが特殊部隊並みかと聞かれれば疑問を抱かざるを得ない。そもそも特殊部隊に入隊できるレベルの人間がワンサカいるような学校じゃない。
「まあ、噂はともかくとしてファンクラブがあるのは本当だぜ? 非公式だけど」
壮太もその存在が実在しているのは知っている。確か『中秋の月を慈しむ会』と名乗っていてこのクラスにも所属している奴がいるのだから。
「ファンクラブが存在ほどツーちゃんオモテになるわけだけど壮太はどうなの? ツーちゃんと付き合いたいとは思わないの?」
壮太が鼻で笑い飛ばした。
「世の中『分相応』に収まるものだろ? 過度な期待してもムダムダ!」
手を振ってあしらう。壮太は無駄な望みは抱かない。恋人にしろ何にしろその人にはその人に見合ったものがあると思っているから。