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本当の勇気

「えと、こう?」

「ちょっと刺々しいかな」


 ライラが放出した魔力に順がダメ出しをする。今は魔力コントロールの練習中だ。

 しかしやはりというべきか、魔力が見えないのでは捗らない。


「はあ」


 ライラは手を止めた。


「私、才能ないかも」

「そんなことないさ」


 いいとこまで行った時もあったのだ。


(でも、全体的に電気っぽいんだよな)


 これが適性というやつなのだろう。さしずめ雷魔導士と云ったところか。

 時計の針ががカチリと動いた。見ると短針がちょうど正午を指している。俺は手を叩き、一区切りの合図を入れた。


「んま、そろそろ休憩しようか」

「お昼にしましょう!」


 ライラは立ち上がり、電熱コンロの電源を入れた。


(オール電化か)


 ガスはないそうだ。

 電気ガス水のうち、電気だけしかない。本当に文明が偏っている。

 これも古代文明とやらからカンニングしている影響なのだろう。真っ当な発展をしていないこの世界に興味がわいた。


 鐘がなった。

 何かと思ったが、インターホン代わりの鐘だ。ここはアナログである。


 ライラには俺が出ると告げ、扉を開ける。


 外に居たのは、目元に傷のある男だった。扉を勢いよく開け放たれる。


「あ、何だてめぇは?」


 いっそ「お前がなんだ」と言ってやりたい態度だったが、こちらは昨日来たばかりの男だ。


「俺は順。ライラに魔法を教えてるんだ」

「で、この家のやつはどこいんだ?」


 残念ながら、俺には興味がないようだった。中を覗こうとするので、反射的に遮った。

 男は明らかに苛つき、俺の肩を殴るように押した。


 だがこれでも魔力覚醒済み。半端な力では魔力で強化された肉体はピクリとも動かない。


「んだてめぇどけや!」


 相手はあくまで高圧的だ。しかし力で勝ると分かれば余裕が出てくる。

 だからこいつは力押しから威嚇にシフトしたのだと良くわかった。単に苛ついているのではなく、脅しというものをよく理解しているが故の態度だ。


 だが大声はいけない。ライラに無用な心配を掛けしまう。


 だから口を塞ぐ。相手のあごを掴むように手のひらで覆った。

 力加減は、どのくらいだろうか。力み過ぎれば握りつぶしてしまうだろう。


 改めて思う。魔力の有無は明らかな一線を引いてしまう。


(魔力覚醒者に、支配されているコミュニティーとかあるのかな)


 あるいは、目覚めていない者が差別されていたり。


 と、今はそんなことを考えている場合じゃない。掴んだまま前進し、後ろ手で扉を閉める。

 彼女にはもう気づかれているだろうが、直接見られていないならいくらでも誤魔化せる。


(……誤魔化せるか?)


 湧いた不安は黙殺。大丈夫大丈夫。


 手を離すと同時に突き飛ばす。相手は尻餅をつき、俺を見上げた。その両目には恐怖の色が浮かぶ。


(今まで魔力持ちと会ったことないのかなあ)


 ネイチャラントではそこそこ居たと思うが、お国柄というのもあるか。特にあそこは文明の利器がないから色々大変だ。


「で、用件を聞こうか?」


 こちらがそう問いかけると、男は恐怖の色をやや落とし、卑屈な笑みを浮かべた。対するが怪物から、対話可能な人間に変わったからだろう。


「い、いやあ。ちょいと家間違いちまいして。へへ、ダチと同じようにやっちまいました」


 決して友達にするような態度ではなかったと思う。意外にも立ち直りの早かった男のようで、言い終えるやいなやそそくさと立ち去ってしまった。


(追いかけるか?)


 当然走れば間に合うが、それほどのことだろうか。


(うーん。大した相手でもないしなあ)


 ライラも魔力覚醒済みだ。暴力に訴えられても問題はないか。


「ありゃあ、カタギじゃねえな」


 腰の曲がった老人が唐突に現れて言った。あまりに突然だったので心臓が大きく跳ねる。

 この人は隣家の、ええ、と――


「ザリ爺? どういうこと」


 そう、ザリ爺だ。家から心配そうに顔を出していたライラが、不安の残った顔のまま言った。


「言葉通りだわ。脅し透かしが奴らの仕事。おまいさん、何しでかした?」


 言葉に詰まる。目的はライラなのだ。説明を考えるより速く、ライラが目的は自分だと告げた。それを聞いたザリ爺は「ははあ」と納得し、次いで険しい顔をした。


「電力機構の差し金か……! 時代と共に恐怖も押し流されたか!」


 言うや否や。老体とは思えぬ素早さで家へと帰っていった。


「な、何?」

「分かんないけど、止めたほうが良い気がする」


 きっと昔にも同じようなことがあってぇ。

 法律の許すギリギリ(いや越えてたかも)のことやってぇ。

 電力機構とやらが手を出さなくなったのかなぁ、って。


「ところで電力機構って何?」

「俺も知らない。でも多分、ライラの同業じゃないかなあ」


 1つの村ならまだしも、大きな街では電力事情を個人だけでは賄えまい。

 事業が拡大し、こういった村にも手を伸ばし始めたのだ。


(昨日の奴らは、そのことを話していたんだな)


 納得がいった。あの時首を突っ込んでいれば良かった。


「ザリ爺さん家、静かになったな」

「そうだね、そろそろ止めに行く?」


 ザリ爺さん家から響いていた音が止んだ。いよいよ準備完了ということだろうか。

 のろのろと進む。あの人頑固そうだから説得大変そうなので嫌だ。


 ライラと先手を譲りあいながら家に入った。うめき声に顔を見合わせる。


「ザ、ザリ爺!?」


 ライラの叫びに、うずくまったザリ爺さんが顔を向ける。

 その顔は青く、汗ばんでいた。いかにも苦し気な表情である。


「どうしたの!?」


 絞りだすような声で、「こ、こし」と返答した。

 急に動いたもんだから、腰をやってしまったらしい。


「よっしゃ――いやザリ爺さん歩くのもツライだろ。ベッドまで運ぶよ」

「な、なんのこれし、――――――ッッッ!!!」


 暴れようとし、そのたびに痛みで悶えるザリ爺さんを運ぶ。

 ベッドに寝かせてひと段落。他人の不幸を喜ぶのはどうかと思うが、これで彼の暴走を止められたのだ。


 ライラの家へと戻り、お茶を飲みながら話す。


「さて、電力機構とやらはどうするかね?」

「何もしなくてもいいんじゃない?」


 ライラはそう言うが、事体はどんどんエスカレートしていくだろう。


(いっそのこと焼き討ちでもできればな……)


 まあ、流石にそれはない。


「いやまあ、とりあえず村長に話をしておこう」

「えー」


 大事にしたくないのだろう。ライラは否定的だが、こういうのは大人が大人の対応で解決するべきなのだ。


(俺も所詮、部外者だしなあ)


 話し合いで解決できればそれでよし。

 もしも、相手が暴力に訴えてきたのなら、その時こそ勇者候補(おれ)の出番だ。




 *********




 事はどんどん大きくなり、緊急集会がその夜開催された。


 俺はその集まりには参加せず、ライラから電力機構のこと、対策について翌日聞いただけだ。


 当然と言えばその通りかもしれないが、被害にあったのはこの村だけではない。むしろ、ライラが居たために、後回しにされていたのがこの村だ。


 被害にあった村というのが、元々電気とは無縁の暮らしをしていた人々だ。


 セールスマンは言葉巧みに電気の利便性を説き、家電を格安でレンタルしたのだそうな(最も、相場をその村の人々は知らないので実際はそうでもないらしい)。

 だが当然家電の使用には電気が必要。彼らは同時に電気の契約を行った。

 最初は彼らも払える値段だったらしい。だがどういう訳か、良くわからない理由で(ライラが理解できなかった訳ではない。村人達がチンプンカンプンだったので、そう言うしかない)、値段がどーんと上がった。

 解約しようにも、違約金が高すぎる。電気代は高いが、何とか払えるものだったし、ようやく電気の"楽さ"を知ったのに手放すのもなあ。ということで、現状維持を選んでしまった。


(家電のレンタル。ちょっとした傷でもぼられるんだろうなあ)


 とにかく、電力機構が悪者だという共通認識が村人の間に築かれたのである。


 肝心の対策は、絶対に相手の話を聞かない。徹底的に無視してやれば相手も懲りるだろうとのことだ。

 この消極的な案に、一部の老人と血気盛んな青年が猛反対したが、最も発言権の強い層が上記の消極案をごり押したのだそうな。


(どうにも、血気盛んな案がやばすぎたというのも原因だと思うが)


 ザリ爺さんが出撃できなくて本当に良かった。


(でも――――――)


「おら達の村はおら達が守るんだ!!!」

「そうだー! 電力機構がなんぼのもんじゃい!!!」


 うおー、と決戦思考の村人達が騒ぐ。

 どうせ消極案を採用するのなら、きちんと彼らを説得してほしいものである。


「大変だねえ」


 ユウさんがのんきに言った。

 この人、ストッパーみたいな立ち位置に収まっているが、後ろで煽っていたのを俺は見逃さなかった。


「これ、まずくない?」


 ライラがそう言うのも無理はない。どう考えても実力行使が通用する相手とも思えないし、この国で法律が機能しているなら、しょっ引かれるのは間違いなく彼らである。


(これは、もう、本当に)


 どうすんだよ……。


「た、大変だあ!」


 村の若者が転がり込むように部屋へと入った。上手く息ができないのか、ぜひぜひと呼吸音だけ漏らしながら、外を指さす。


 そこに居たのは、魔力を持つ男。


 青年がようやく言葉を紡ぐ。


「よ、よそ者がライラを出せって……!」


 ……予想できた筈だろう。魔力の有無は圧倒的だ。

 ならば、次は魔力持ちを寄こすはずだと。


 青年の肩を叩き外へと出る。


「俺が行く。お前らはライラをしっかり守れよ」


 さあ、話し合いで済むかは、結局俺の手の中に収まってしまった。ここは勇者として、気張ろうではないか。




 *********




「大した魔力だな」


 男は開口一番そう言った。


「ああ、自慢の魔力さ。あんたは電力機構の人間で間違いないか?」


 男は頷いた。


「お前は、ライラじゃないな。何者だ?」


 さて、ここは勇者であると名乗りたかったが、戦略的にはおいしくない。

 不死性は意表をついてこそ真価を発揮するものだ。


(勇者候補の不死身の力。適切に切らなきゃな)

「ライラの先生をさせてもらってる男だ。名前を名乗ろうか?」

「いや、いい。そうか、”先生”か。ということは、お前は魔法使いだな」

「どうかな。護身術の先生かもよ。最近物騒だものな」


 男は鼻で笑った。ちょっと失敗したかも。


(いや、どうにも魔法使いだと確信しているようだ。見た目で分かるものなのか?)

「そろそろ本題に入ろうか。用があるのはライラという少女だけだ。お前じゃない」

「”用”の内容次第かな。用心棒でもあるからな」

「何、ちょっとした話し合いさ」

「その話、俺にも教えてくれよ」

「部外者には話せない」

「本人が俺に用件を話せとさ」

「駄目だ。直接でなければならない」

「じゃあ合わせられないな。帰ってくれ」

「……頑なだな」

「お互いさまで」


 俺は、話の上手いほうではない。丸め込むのは案の定失敗し、このままでは平行線を辿りそうだった。


「仕方がないな。では用心棒としての実力を見ておこうか」

「そうかい。ちなみに用心棒ってのは嘘だ」


 相手は懐からナイフを取り出す。対し俺は風の魔法を発動。

 男は両腕を交差させ、正面から受け止めた。


「堅い奴だな!」

「前衛タイプだ。初級呪文でダメージなど負わないさ!」


 男は意図せずだろうが、俺にはどうすることもできないと言った。


(んな訳ねえだろ)

「ミスト!」

「む!?」


 放つは霧の魔法。白いスモックは瞬く間に視界を塞いだ。男は距離を詰めんと走るが、この距離ならば俺は魔法をもう一度発動できる。


 しかし裏を返せば、距離を完全に詰められれば俺の負けだ。接近戦では肉体強度が物を言う。

 俺が選ぶ魔法は――


「エアカッター!」


 放つは不可視の刃。

 目に見えない攻撃は一見して脅威だが、実際はそうでもない。魔力で作られた以上、魔力感知により例え背後であろうとも、目視ほどではないにしても認識される。

 先の風の魔法も、当然のように防がれたのも感知能力が原因だ。


 魔力により生み出された魔法は、例外なく魔力感知される。

 つまり、視界に広がるミストの魔法も感知されるのだ。


 思い出すのは、山で降った魔力を含んだ雨。あの雨により、2人の感知能力がイカレてしまった。

 これはその再現。感知能力を潰すことで、不可視の刃はその真価を発揮する。


 ダン、と地面が力強く蹴られる。男が大きく上昇した。

 風の刃は空気を裂き不発に終わる。男は遥か高く、ミストの範囲圏外に移動した。


 だがそれは距離が離れたことを意味する。次の一手は俺が再び――――――――


「まっず!」


 男は真上に飛んだのではないことに。

 俺に攻撃するのではないことに気が付いた。


 放物線を描く跳躍が向かう先は、ライラだ。


 大きく手を振り、全力で駆ける。

 魔法は発動できる。だが、動く標的に当てられる距離ではない。


 ――もし、広範囲の攻撃魔法。中級魔法が使えれば!


「フリーズ!」


 狙うは家屋。僅かでも良い。氷の膜を作り、一秒でも多く時間を稼ぐ。


「――――ッ!」


 まだ間に合う。足を止める余裕なんてない。だから呼吸を荒らす叫びは、下唇を噛んで飲み込んだ。口内に鉄の味が広がった。


 果たして男は家屋を背に着地し――――


(―――――――あ、やば)


 ――そう。こちらを向いていたのだ。それはつまり、あいつの狙いは元から。


 足を止める。だが全速力からの静止だ。土埃をあげて滑る。その間にも加速した敵は、ついにこちらを射程範囲に収める。


 心臓が跳ねる。絶体絶命だ。


 ――故に(・・・)、最大のチャンスでもある。


(心臓、首、即死は避けろ! だが致死の攻撃は喰らえ!)


 勇者候補の力、勇気の加護は不死の力。それは相手が思いもよらない戦略を可能とする。




 ナイフが脇腹に突き刺さる。鋭い痛みが全身を巡り、吐き気を催す。


 それら全てを堪え、手を伸ばす。


「待――――――!」

「フレイム!」


 ゼロ距離からの、顔面への炎の魔法。いくら魔法で強化された肉体であろうとも、鼻や口から入り込む高温のエネルギーは、殺傷に十分な攻撃だ。


 男は吹き飛び、その拍子にナイフが抜けた。血が噴き出して力も抜ける。


「い――ぎ、ぐぅ……」


 歯を食いしばり、隙間から息を吐く。男が立ち上がる様子はない。痙攣しているので、生きてはいるのだろう。


「ふ、ふ、ふぅぅ……」


 しばらく休めば、誰かが来てくれるだろう。

 それまでは、痛みを堪えることだけを考えよう。




 *********




「はい、治療終わり」

「う、ふあぁ」


 止めていた呼吸を再開する。

 脇腹の傷は重傷だが、致命的ではなかった。それでも絶対安静ではあるのだけれど。


(ミスったかな……)


 傷がすぐに治らないのは当たり前だ。しかし俺は、魔法の存在を下手に知っているせいで、どうにでもなるものだと考えていたのだ。


「しかし、これはどうしたものか」


 村の男が倒れているもう1人を指して言った。

 顔面に酷い火傷を負った、ナイフ使いの男である。


 彼は未だ意識が回復していないが、電力機構とやらの差し金であることは間違いなかった。


「やはり討って出るべきでは?」

「いや、しかし……」


 先ほどまでは血気盛んだった男達の声は小さい。

 魔力を用いた戦闘を見てしまえば、無理からぬことである。


 特攻を辞めてもらったのはありがたいが、俺が動けなくなってしまったのは最悪だ。


「私が――」


 声が上がった。

 それは決して大きな声ではなかったが、静まり返ったこの場では、十分に全員の耳に届いた。


 ライラだ。ライラが声を上げた。

 彼女は全員が注目したことに面食らいながらも次のように言った。


「ほら、元々私が原因だし、それに、私魔法使いだし!」


 魔法使い。魔力を操る人間。確かにそうだ、と村の者は言わなかったけど、表情はそう語っていた。


 俺はーー


 村の老人が声を張り上げた。


「いいや、お前さんに任しちゃおけん! これは村の問題だ! だいたいお前さん1人特攻させたら、あの世でガイにどう詫びる!」


 彼の決意に押されるように、そうだ、そうだと声が上がった。


 うおお、とまた雄叫びが上がる。


 結局、振り出しに戻ってしまったようだ。まったく血の気の多い人たちである。


 でも、俺の胸に広がったこの感情はなんだろう。


(ああ、そうか)


 思い出すのは、人狼事件のあったあの村。

 あそこでは。誰もがわが身可愛さに仲間を見捨てる選択をした。


 でも、ここでは違う。

 誰かひとりの仲間のため、全員が協力しようとしてる。


 特異なのはどちらかは分かる。

 俺はきっと力がなければ戦う選択ができないだろうから。


 でも、俺は思ってしまっていたのだ。

 どうして俺が戦っているのに、お前らは見ているだけなんだと。


 だからあの時は苛つきが絶えず、ここではこんなにも胸が躍っている。


 痛みなんて忘れて、戦う気力が、勇気が無限に湧いて来る。


 ここなら、きっと俺は自分に言い聞かせる必要などなく、本当の勇者になれる気がする。

 勇者というものを心から理解することができる。


「ちょっと良いですか!?」


 自分の声は傷口によく響く。ぐっと堪えて言葉を続けた。


「一昨日、何やら怪しげな男がそこの木の下で話しているのを見ました」


 誰か他に見ていた1人がいないかと思ったが、残念ながら見たのは俺だけのようだ。


「そいつが電力機構の人間だと?」

「ええ、おそらくそうでしょう。そして刺客とも関係がある筈です」


 おお、と感嘆の声が上がった。


「電力機構に殴り込むより、そいつを説得――」


 いや、言葉を変えよう。


「倒す方がよりスマートだと思えます」


 どうでしょう?と問うと、元より殴りこみは無理があると考えていた者たちから賛意が返される。


「それで、その男ですが――」


 口を紡ぐ。その男と話していたのは、きっとこの村の者だ。裏切者が居るなど話していいのだろうか。信じてもらえるだろうか。かえって俺が糾弾されることにならないだろうか。


 彼らに話すより、自分だけで探すべきではないか。勇者でない俺が進言する。


 深く、深く息を吸う。


「その男と話していた者の姿を見ていません。しかし、その人はこの村に入ってきました」


 彼らを信じよう。きっと、それは事件の解決よりも意味のあることだから。


「こ、この村に?」


 ざわめきが起こる。仲間を疑いたくないだろう。だが――


「うーむ、考えたくないが、それならライラを知っていたのも納得だ」

「しかしどうやって探し出す? まさか名乗り出るとは思えない」

「いや、どうだろう。ここまでの事体をそいつも想定してなかった筈。許せば名乗り出るのでは?」

「許していいのか」

「事情次第じゃろうなあ」


 彼らは、俺の言葉をすんなりと受け止めてくれた。


「汗かいてるよ、すこし横になったほうが良いんじゃない?」


 ライラが俺へと言った。


「いや、うん。そうさせてもらうよ」


 先行きは、もう心配しなくて良いだろう。

 次の出番まで、俺は身を休めることにした。

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