少女の日常と出会いの日
水瓶が空になっていたのに気が付いたのは、眠気を飛ばすのに顔を洗おうとした時だった。
「あ、あぁ?」
何時もなら、金髪の女がそこに居るはずなのに、今日はどこに行ったのかしら?
しばらく目をしばしばさせ、水瓶の中を覗き込んでいた。そんな朝。
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「どっ、こいしょー!」
どでかいホースが必要だ。2mのそれなりに重いホースを軽トラに載せ、荷物をチェックする。
ポンプ、良し。そもそも軽トラに元から載せっぱなし。充電も完了。
タンク、良し。中も綺麗だった。
ホース、良し。今載せた。
軽トラは、……。
「ガソリン……」
メーターは残り最後の1メモリよりも少ない。ぎりぎり足りるかもしれないが、足りないかもしれない。
車も電気で動けば良いのに。世の中にはそういうものもあるらしいけど、うちのオンボロは高価な油しか受け付けない。
「ザリ爺に貰ってこよ。あ、でもお使いも頼まれそうだなあ」
それは面倒。
「じゃ、ユウさんとこかな。ちょうどガソリンが切れたことに気づいた体で、うん」
そうと決まれば早速行こうすぐ行こう。エンジンを回し車を進める。
ユウさん家は村の端、一番川に近い家だ。この村の結界は比較的広い。村の守護天使様がスゴクエライからだとザリ爺が言っていたが……。
と、そんなことを考えているうちにユウさん宅に到着。
「ユウさーん、おはよーございまーす」
「……おはよ、ライラ。なんかした?」
今の今まで眠っていたのだろう。ぼさぼさの長髪をそのままに、ユウさんが扉を開けた。
「ガソリンちょーだい?」
「えぇ……」
ユウさんは肩甲骨を掻きながら呆れていた。
豊かな胸元を惜しげもなく晒しているというのに、色気がない。不思議だ。
「良いけどさ、ちょっくら充電していってよ。もう充電なくなりそうなんだよね」
「まあ、それくらいなら。でも一昨日やったばかりだし、バッテリー交換したほうがいいかもですね」
「あ、そう? じゃあ変えといてよ」
「了解でーす。昼頃持ってきますね」
「昼ぅ? もう少し早くできない?」
「うーん、じゃあ今のバッテリーに充電しときます。それなら昼までは持つかと」
「そ、じゃあそれで。バッテリーはいつものとこね」
「はーい。ガソリンもお願いしますねー」
思わぬ所で仕事が出来てしまった。ユウさんのとこが古いとなると、ガルさんとこもまずいかもしれない。
(あの人はちっとも気にしないからなぁ)
何故疑問に思わないかが不思議である。
「んーと、こっちがプラスだから……」
2つの電極を握り、電気の流れをイメージする。魔力をイメージに乗せ、呪文を唱えた。
「スパーク」
充電されているかは、正直よく分からない。取り付けたメーターだけが頼りだ。優れた術師ならば可能だと言うが……。
しばらくイメージがパチパチと弾けて消える。
「ん、こんなものかな」
掛かった時間は20分程か。ほぼ空だったことを考慮すると、かなり劣化しているように思える。
「お疲れ」
「ひゃあ!」
首筋に鋭い冷気が刺さる。思わず上げた声と共に振りかえる。
ユウさんがジュースを持って立っていた。
「これはおごり」
「うぐ、ありがとうございます」
文句の1つも言いたかったが、それを口にしてしまえばジュースは消えてしまうだろう。
受け取ったジュースを口に運ぶ。やはりというべきか、村特産のミカンジュースである。
「冷えてるでしょう?」
ユウが言った。
それはもう肌で感じましたと言いたかったが、彼女の朗らかな笑みを見て飲み込んだ。
「あなたが電気をくれるから、冷えたジュースが飲めるのよ」
別に、タダであげているわけではない。私は電気を生み出し、そして売る。それが私の、爺ちゃんから引き継いだ商売なのだ。
「……いえ、まあ」
でもとっても照れくさい!
どうして今更まっすぐに感謝の言葉を述べたのだろう。
「照れてるのかなあ?」
「う、うるさいな! 私もう行きますからね!」
車に転がり込むように乗り込み、エンジンを掛けた。
ガソリンは満タンだった。これは、流石に貰い過ぎだ。バッテリーを割引しなくてはならない。
結界に沿って車を進める。今日は小石もなく、絶好のドライブ日和です。
川に可能な限り近づけ車を止める。
川は一部結界内に収まっているので、お陰で水汲みも安全だ。
デモ面倒くさい。愚痴がぼそりと口をついて出た。
「……井戸でも掘れば良いのに」
水脈の問題で、村の近くには井戸が掘れないらしい。たまたま結界内に川があるために、『必要ないのでは?』と時の村長が言ってしまったとか。
お陰で濾過が必要なので、一村人にとってはいい迷惑である。
ホースを取り出そうとして、手を止めた。
「顔、洗ってなかった」
一応タオルで拭いたが、どうせなら冷たい水が良い。
水を掬った。しばらく山の方が雨だったから、泥で濁っている。
「……なんか、嫌」
顔を洗うのは諦めよう。ホースを川に浸け、ポンプの電源を入れた。水がタンクに溜まっていく。
ぐわんぐわん水を吸っていたのだが、突然ズゴ、と。ホースが音を立てて詰まらせた。岩でも吸おうとしたのだろうか。
「よいしょ」
引っ張ってみる。岩ならこれで――――
「――――――――え?」
ホースにくっ付いてきたのは、布――服。そして
「ど、どざえも~ん!?」
人が水底に沈んでいた。
思わずホースを落とし、"それ"も再び水底に沈む。心臓はバクバクと脈打って、手も足も中々動かなかった。
「え、えと、えと」
引き上げなければならないのだろうか。
水死体、どういうものなのだろうか。一瞬だけ見えた腕は、まるで生きているかのようだったが。
「う、うう……」
1人で来たことを猛烈に後悔した。
「うううう……!」
でも、やらなきゃいけないんだろうな。大きく息を吸って、ホースに手を伸ばした。
「…………あれ?」
ホース、さっきよりも持ち上がっているような。
気のせい――いや今も持ち上がっていって
――――水しぶきをあげ、水死体が立ち上がった。
「え――――?」
水死体の口から水があふれ出す。せき込んでいるようだった。これは
「生きてんじゃん! ビックリしたあ!」
「ゲホ、ゴホ! ――――え、何?」
男の人が、私と同じように驚いていた。




