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CosMOS  作者: 螢音 芳
Chapter.4
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8. ノトス首都にて

 アルファ小隊の隊長のカエデに救援要請が届き、ノトス・サザン境界線の戦闘が中止され、30分が経過。

 すでにノトスの首都は惨憺たる様子となっていた。

 強襲型、飛行型、土地浸潤型と今までエイジスが遭遇してきたケイオスが各所で暴れまわり、建物のいくつかが破壊され、火災が発生している。

 首都にケイオスが発生したことを受け、先にエイジスのフェアリスによるプローム部隊が出撃し、応戦していた。

 ウコンが迫ってきた4足歩行のケイオスを斧を使って切り伏せる。

「ここも多いのう!」

「泣き言いうな、ウコン!若はこれ以上のケイオスと戦い、戦線を維持したというではないか!」

 サコンが鎖鎌を振るって、遠くから突貫しようとしてきた飛行型を地面に引きずり落としていく。

「若もすぐ来る、それまでの間、皆、無様な真似は見せるな!」

「「「応!」」」

 他のプローム機がサコンの激に武器を掲げて応じる。

 そこへ、上空を1機の飛空艇が過ぎ去っていくと、直後、上空から3機のプロームが降ってきた。

 3機のうちの1機、ウコンよりもやや細身の戦斧を持った青に白の装飾ラインのプローム機がスラスターを利用して地面へと危なげなく着地する。そして、頭部を持ち上げたかと思うと、急加速してサコンに襲い掛かかった。

「くっ!?」

 いきなりの突撃にサコンが鎖を束にして受け止める。だが、戦斧の先端の槍を利用した連撃が休む間もなく襲い掛かる。

(なんという連撃!しかし……)

 一撃一撃に他のフェアリスのプロームと模擬戦したときでも感じるような気迫を感じない。そのことをサコンは不気味に感じた。

「リク、止せ!」

 カーキ色に迷彩柄のプロームが制止を呼びかける声を発する。

 それでも戦斧の持ち主は止まらない。

 そこへ、サコンと戦斧のプロームの間に紺に赤の装飾パターンの機体が素早く割り込んだ。

 その機体は、刀を逆手に掲げて、真新しい鞘の部分で戦斧をうけとめていた。

「リク少尉、これは救援にきた味方だ、落ち着け」

 カエデの言葉を受けて、ぴくり、と戦斧の持ち主はようやく攻撃を止め、武器をおろした。

 攻撃が止まったことに合わせて、サコンも緊張を解く。

「サコン!ウコン!」

 声をした方を受けてみると、ファーヴェルとエニエマが駆け付けてきたところだった。

「「若!」」

「お待ちしておりました!」

 サコンとウコン、およびエイジスのプローム部隊が嬉しそうに反応する。

 エイジスの部隊が無事なことにハルカは安堵しつつ、状況がつかめずに3機のプロームを見た。

「五月雨、スモーキングF&F、そしてアクアカプリス」

 機体名を呟く。3機とも元チームメイトだ。

(この状況はどうしたんだろう?)

 今は何故か五月雨、カエデの機体がサコンをかばうようにアクアカプリス、リクの機体の前に立ちはだかっているように見え、ハルカは疑問に思った。

「先ほどの戦争を止めたエイジスの機体ですね。救援感謝します」

 カエデが体勢を直しつつ、3機を代表するように言った。

「ノトス共和院所属、アルファ小隊特務官カエデ、五月雨です」

「同じくアルファ小隊特務官ハヤト、スモーキングF&F」

「……アルファ小隊少尉リク、アクアカプリス」

 カエデ、ハヤトがそれぞれ挨拶し、そっけなくリクが言った。

 リクの今の様子と記憶の中での様子の違いにハルカは困惑する。

(確か、3人は幼馴染でリアルでも一緒にいる仲。その中でもリクさんって人見知りなカエデさんをフォローするように明るい性格だったと思うけど……)

 プロームから感じる殺気だった雰囲気といい、名乗ったときの様子といい、怜悧な印象を受けた。

 ノトス側の自己紹介を受けて、エニエマが進みでる。

「サザン貴族院所属、ユイ、エニエマです。先ほどの戦火を交えた状況ではありますが、事態が事態だけに救援に参りました」

 ユイが名乗った以上、自分が名乗らないわけにはいかないのでハルカも名乗る。

「エイジス諸島連合皇国所属、ハルカおよびノイン、ファーヴェルです。よろしくお願いします」

 2機の紹介を受けて、五月雨がうなずく。

「貴族院の令嬢に、エイジスの皇子、上の者自ら戦場に立つその心意気、感謝します。どうかお力添えを。精鋭のみノトスの高速飛空挺で戻ってきましたが、それでもケイオスの数が多く、この窮地には対処しきれないでしょうから」

 カエデが静かに言うと、五月雨が振り向きながら、居合抜きで一閃した。

 脇から迫ろうとしていたケイオスが五月雨の斬撃を受けて崩れ落ちる。

 いつの間にか、周囲を強襲型のケイオスに包囲されていた。

「ユイ、いいの?」

 こっそりとハルカはエニエマにだけ聞こえる通信で問いかける。

 本当だったら母を捜索したほうがいいのではないか、そう思ったのだ。

「ううん、よくはない。けど、ノトスの人たちに罪はないもの。私はこの国の主席の娘だから、この現状を見て民衆の命より私情を優先することはできない」

 そう言うと、エニエマは二丁拳銃を構えた。

「なら、さっさと片づけてお母さんを迎えに行くまで」

 強くて、気高い。

 その在り方を眩しく思いつつ、ハルカも剣を構えた。

「ハル、今まで戦ってきたケイオスが混在しているのです」

「今までのデータをもとに戦う。ノイン、サポートよろしく。他の機体にもコアの位置とか情報をまわしてあげて」

「了解なのです」

 ノインとハルカがうなずきあったと同時に、プローム部隊に向かって、ケイオスの群れが殺到した。



 首都街区から離れた区画にて。

 イリスが潜入した施設、ケイオスの研究施設の前に一つの車両が到着した。

 中から降りてきたのは、軍部総長のゲンとサザン側の歩兵部隊、そして軍用の防弾性能をもったコートを羽織ったイツキ、ケイトである。

 久しぶりにケイトはケートス奪還作戦で使用した自動小銃を持ってきていた。

 首都街区の方を見れば、プローム機がケイオスと戦闘しているのが見える。

 官邸では、政府高官やノトスの部隊が動き回っていた。おそらく、政府機能を守るのに必死になっているのだろう。

 先日見たサザン首都と逆の立場になったということだ。

「今、ここはもぬけの殻ってことですね」

「おそらくはね。降りる前にケートスから衛星に発信させて調べてもらったけど、ここの区画にケイオスの反応はないみたい。全て街の方へ降りたということね」

 イツキ、ケイトの研究施設の状況の情報を受けて、ゲンがなずいた。

「これより、研究施設への潜入を開始します。我々が先行しますが、陛下、皇妃殿下ともに十分に気を付けてください。ケイオスがいなくとも、中に残党がいるかも知れませんので」

「了解したわ。それよりも……」

 ひきつった表情を浮かべたケイトはゲンに近づくと、その頬を引っ張った。

「その呼び方はやめてくださいって言いましたよね?そして、こちらに来る前に私たちの腕前はすでにご存知のはずでは?」

 ケイトはにこにこと微笑みながらも表情には青筋が浮かんでいる。

「し、失礼しました、ケイト様…たたたたっ」

 様呼びされてケイトがさらにゲンの頬をつねる。ケイトとしては、フェアリスからはどうしてもと言われて妥協しているのだ。これ以上むずがゆくなる相手を増やしたくない。

「わ、わかりました。ケイトさん、イツキさん、許してください!」

「なら、よし」

 そう言うとようやくケイトはゲンの頬から手を離した。

 二人の様子を見て歩兵部隊がひそひそと話す。

「すげえ、鬼の総長が手玉にとられてる」

「ここに来る前にお二方が同行されることに反対したそうだが、ケイト皇妃が総長を組み手で抑えたらしい」

「マジか、いったい何者なんだ……?」

 ひそひそと話す兵士をゲンがじろりとにらんで黙らせる。びくりと兵士達が黙ったところで、号令を発した。

「では、突入開始!」

 速やかに歩兵部隊が先行して内部に突入すると分散し、研究所内を制圧していく。その後ろからイツキ、ケイトが続く。

 研究所内はケイオスが暴れまわった後であり、ひどく荒れていた。

 いくつかの培養機器が破壊され、通路が崩れ落ちている箇所もある。

 部屋をまわりつつ、生きているコンピューターはないかとイツキは探していく。

 制圧しつつ内部を探索していると、ある一つの培養機器のところでゲンが立ち止まった。

 そこには、土地浸潤型、と明記され、一つの培養機器の中にいくつかの実験体を培養できるような仕組みになっていた。

 培養機の脇には一台のコンピューターが置かれている。スイッチを入れると即座にモニターが表示された。

「イツキさん、ここに土地浸潤型の培養機器とコンピューターが」

 ゲンに声をかけられ、コンピューターに近づきイツキがキーボードをいじる。

「良かった、このコンピューターは生きてるみたいですね。いろいろ暗号化してますが、このぐらいでしたら、フェアリスの手を借りなくても何とかなりそうです」

 素早くプログラムをいじり、あっさりとセキュリティを解除すると、モニターにいくつかの情報が浮かびあがった。

「土地浸潤型……その培養過程ですね。僕が以前作成したレポートのデータがある。それを参考に環境的に負荷をかけて進化を促した。だから、予測していたよりも早い進化過程が生まれてしまったわけですか」

 表情を険しくさせながら、イツキが呟く。アナンから、ノトスの主席とレポートのデータを共有していたと伝えられていた。アナンもこんな形で悪用されるとは思ってなかっただろう。

「やっぱり、このケイオスは電気と金属に好んで反応するように調整されています。だから、電波塔と人の生存圏で主に繁殖したんでしょう。さらに今後の運用先についてのデータもあります」

 イツキは即座にデータをコピーし、自分の持っているノートPCと、ディスク型の記録媒体に移して記録媒体の方をゲンに渡した。

「これでヤムナハ主席の責任を追及できるでしょう。後の対応はお任せします」

「すみません。ありがたく頂戴します」

 ゲンがうやうやしくイツキから情報媒体を受け取った。

「では、我等はこのまま政府官邸に乗り込もうと思います。おそらく、そこに奥方も囚われていると推測しますので」

「なら私もそっちの方について行こうと思う。イツ君はどうする?」

 ケイトに問いかけられ、イツキは悩みつつ答える。

「僕はこのままもう少し調べてからそちらの方に合流しようと思います。ノウェム」

 イツキが呼びかけると、即座に白猫の少女が姿を現した。

「ノウェムは僕のサポートをお願いします。ナノはケートスで待機してますよね?」

「はいなのです。通信手段役と、ケートスのサポートとしてツバキとともにブリッジに残っているのです」

 ノウェムがうなずくと、そのそばにヤナギが現れた。

「では、官邸の方にはわしが同行しましょう。精神束縛の技能の勝負ならば、わしの方がお役に立てると思うので」

 ヤナギの申し出にゲンがうなずいた。

「それはありがたい。実は、今日になってイリスに呼びかけても返事がなくて困ってたのです」

「イリスが?」

 ノウェムが首を傾げる。あれだけサザン側を心配していたのにも関わらず、いないのはおかしい。

 訝しんでいると、何かがざわり、と動く気配を感じてノウェムの耳がぴん、立った。

「そこ!誰がいるのですか!?」

 ノウェムが呼びかけると、物陰に隠れていた何者かがひぃっと声をあげる。

 そして、即座に消えそうになった気配が何かに阻まれたかのようにバシン、と音を立てて止まった。

「逃げられるとまずいので、フェアリスにしか効かない壁を張らせていただきました」

 ヤナギが手を突き出しながら言い、ノウェムが音のした方に近づくと、そこには目を回しているアルマジロのぬいぐるみの形をしたフェアリスがいた。

「ルボル、何をしてるのですか!」

 ノウェムに問われ、ハッと気づいたルボルが後ずさる。

「な、なんでここにお前らが来るんだよ!本来だったら救援に来たんじゃないのか!?」

 わめくように言うルボルに対して、イツキがため息をついた。

「ここが発生源だったので原因を調べにきたんです、当然でしょう? かといって証拠隠滅も満足にできてなかったようですが」

 イツキの言葉に、この人間たちはノトスの決定的な証拠をつかんでしまったと、ルボルは気づいた。

「し、仕方ないだろう! ケイオスが暴れだしたんだから! なのに、こんな状況下で人の事情を探るなんてお前ら鬼か!」

「それは、自分から自国の領土にケイオスをけしかけた挙句、弱っているところを攻め入ろうとした輩に言われたくはないわね」

 ケイトがいつになく険しい表情言う。まわりの歩兵部隊、ゲンも同感というようにうなずいていた。

「な、なにを言う! それを言うなら、そもそもここのケイオスが暴れ出したのはイリスのせいなんだ、あいつが培養器を壊したりしなければ…!」

 イリスと聞いてノウェムがはっとする。

「イリスが?それで、あなたはどうしたのですか?」

 ノウェムの問いかけにルボルがきしし、と笑った。

「他の勢力に他のフェアリスが立ち入ることは基本的に禁止。そういう協定だったはずだ。その協定を犯したから封印処理をした。あいつは今、官邸にいるはずだ。まったく、馬鹿な奴だ。こんな派手なことをすれば、ばれるに決まっているだろうに」

 ルボルは下卑た笑いを浮かべてイリスを貶す。

 対して、ヤナギとノウェム、イツキとケイトとゲンは、なぜそんなことをしたのか理解した。

 イリスはエイジスを動かすためにノトスの研究施設に単独で潜入して、培養機器を破壊したのだ。

 ヤナギが顔を伏せると静かに問いかける。

「……ルボル、お前、イリスが培養機器を破壊するのを見たと言っていたが、それはこの施設がどんな意味をもつ施設なのか理解していた、ということなのだな」

「そんなの決まってるじゃないか、ケイオスを兵器として活用……」

 ルボルが言ったところでくわっと顔を上げヤナギが声を荒げた。

「この馬鹿者がっ! 脅威を自ら強化するとは何事ぞっ! その行為の方が惑星そのものを危険にさらす裏切り行為となぜ思わなんだ!」

「そ、それは……っ」

 ルボルはそこでようやく気付いた。戦争に興じ、自国の勢力を高めることに追及したあまり、本来の目的から矛盾する行為をしてしまったことに。

「フェアリスの首長として告げる。ルボル、お前は重大な違反行為を犯した。よって、封印処理を行う。ただし、意識の凍結はせずに。しばし、動かぬ体で反省せい」

 そう言うと、ルボルの身体が端から実体化し、ぽん、と音を立てるとぬいぐるみが床に転がった。

 ケイトがアルマジロのぬいぐるみを拾いあげる。

「これが、フェアリスの封印処理……」

「はいなのです。おそらく、イリスも同じような状態になって官邸にいるはずなのです」

 ノウェムが説明すると、ゲンがうなずいた。救出するべき存在がもう一人追加されたまでだ。

「では、やはり我々は官邸に向かいます。主席への責任追及。および、奥方とイリスの救出に。念のため、護衛のために数人部隊のものを残していきます」

「ありがとうございます。軍部総長。そちらもお気をつけて」

 ゲンとケイトと別れると、イツキはさらに調査すべく、研究所内の別のコンピューターを調べ始めた。


次の投稿は4/15を予定しています。

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