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CosMOS  作者: 螢音 芳
Chapter.4
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5. 境界線上の葛藤

 ヤムナハがサザン救援を宣言して翌日。

 ノトス・サザンの領土境界線上ではノトス共和院側とサザン貴族院側、双方のプローム部隊がにらみ合いをしている。

 その様子をケートスからエイジス諸島連合皇国ことワタセ家の面々が眺めていた。

 避けられない衝突になることがわかっていつつも、悲しそうに。

「戦争、になるんだね」

 寂しそうにナノが呟く。

 ワタセ家としては、自分たちを抜かして初めて見る各勢力間での人同士の争いだ。

 地球に転移してきた人類であり、ノトス側は戦争を行うよう突き動かされている、という背景を知るからでこそ起きてほしくない衝突だった。

 しかし、経緯がわかるゆえに止めることもできないのも事実だ。

 サザン側陣営に並んでいる黒曜、エヴァーレイク、エニエマ、ディザスター・ロア、フォロカルの機体、そしてノトス側に見える元チームメイトの機体を見てハルカが拳を握る。

「ハル」

 諫めるようにイツキが言う。

「わかってる。今回は手が出せない」

 エイジスの武力はケイオス駆逐のためにある。そして、今回エイジスはどこからも攻撃を受けているわけではない。一昨日のように勝手な判断で出撃をすれば、この勢力は何の信用もないテロリストと変わらない勢力となってしまう。

 そのことをハルカも理解していた。が、それでもやり場のない感情にぐ、と奥歯を噛む。

 戦争において負けた側は、その勢力の言いなりになる。特に、ノトス側勢力にサザン側が負けた場合は自由意志も許されなくなるだろう。

 決死の思いで先日戦ってサザン側を守ったのに、次は戦争。

 どこまでも理不尽な流れに少年の中で怒りがわく。

 その様子を見守るイツキ、ケイト、ナノも複雑な表情だ。ハルカの思いも痛いほどわかるからでこそ、かける言葉がなかった。

 その時、ケートスに新しく配備した衛星通信担当フェアリスが何かに気づいた。

「イツキ様。あの、衛星から変なものを感知したのですが」

 報告に対して、イツキが訝し気な表情を浮かべる。

「映像を映して場所を教えてください」

「はい。ノトス共和院官邸のある、ノトス首都の外れのところです」

 モニターにノトス首都の地図が映し出され、管制官が示した地図の箇所ではケイオスを示す黒い点が点滅していた。

「ケイオスかと思われるのですが、反応があやふやで……」

 黒い点滅する点、それを見てイツキが目を細める。

「ハル」

 鋭く言った父の言葉にハルカがぴくり、と反応する。

「プローム部隊に連絡。出撃に備えておくように、と。ただし、君はこのままここで待機。いざとなったら動けるよう心構えしておいてください」

 父が何を意図しているのかわからない。だが、確信をもって指示したとには意味がある。

「わかった。ノイン、みんなに通信開いて」

「了解なのです」

 イツキのことを信じてハルカはノインとともにエイジスのプローム部隊へと連絡していく。

「イツ君……」

「風向きが変わるかもしれません。ただ、予測が当たっていたら、それはそれでかなり不愉快ですが」

 声をかけたケイトに、イツキが険しい表情で答える。その視線は、点滅する黒い点を鋭く見つめていた。



「なんで復興活動にやる気をだした翌日にこんなことになるんだろう」

 はあ、とユイがエニエマのコクピットにて、特殊上位部隊にだけ聞こえる通信でため息をついた。

 もちろん軽口だ。内心は疲弊しているところに攻めてきた怒りと、母とのことも込みでの恨みがある。そんなのは一度吐き出せばきりがないことをはわかっていた。

「そうね。復興ライブのこととか、スケジュールを立ててたのに、大幅に崩れたから。文句を言いたいところだけど、相手さん通信復旧したにも関わらず聞いてくれそうにないのよね」

 サキがやれやれと言った様子でユイに調子を合わせる。

「ご丁寧にプロームの緊急通信も切っているんだろうな。どこまで事態を正しくわかってる奴らがいることやら」

 シュウの指摘していることは、ノトス側のプローム乗りがどこまでフェアリスの干渉を受けているか、ということだ。

 ヤムナハの主張はかなり矛盾点がある。人に感染して操るケイオスの発生の真偽、通信ができない時点で軍を編制して救援に来なかった理由、そして境界線に侵略するといわんばかりにプローム部隊を集めていること。それでもこうして部隊が動くということは、ヤムナハの言を無理矢理信じ込まされている可能性が高いということだ。

「ノトスの人たちは扇動されてるって噂は聞いたことあるけれど…」

 ミナが呟きながら、ノトスと共同作戦をした時のことを思い出す。

 トリガーハッピーのようにオーバーキルを重ねていく兵士達が戦場を蹂躙していた。それを見て、ミナはたまらなく背筋が寒くなったものだ。

「情報の流し方でもまた変わるからな。それに最近の偏向報道だとヤムナハの方が人道的性格持ち主だ、と捉えられててもおかしくない」

「やだ、冗談きついにもほどがある……」

 レンの言葉にユイはげんなりした表情を浮かべた。

 父の性格は、まあ……百歩譲ってもいいとは言えないのはわかってる。それでもヤムナハに比べればかなりマシだ。

 ユイではなくとも、サザン側の部隊はアナンにつくことができて感謝している。

 少なくとも、こうして戦闘奴隷のように、精神を操作してまで無理矢理戦場に追い立てるようなことはしない。

 ケイオスの災害の後で疲弊している中でも境界線上の防衛が成り立っているのは、それぞれプローム乗りが自分の故郷を守りたいと決死の思いで立ち上がってくれているからだ。

「じゃあ、行くか」

 シュウの言葉にサザン側の全プローム機が動き出した。




 ノトス・サザン領土境界の平野にて開戦したころ、イリスは、ノトス首都近郊のとある施設の前に辿り着いた。

 その施設は、先刻、ケートス内部で示された黒い点が点滅していた場所でもあった。


 イリスの仲間内から、土地浸潤型のケイオスがどこからもたらされたものか情報を辿っていったら、この場所へとたどり着いたのである。

 なるべくほかのフェアリスに気づかれないようにイリスは慎重に施設内に潜入する。

 基本的にフェアリスはどこにでも入ることができる。そのため、各国の機密に関する箇所には立ち入らないという協定が成されていた。だから、他のフェアリスに感づかれれば、まずいためだ。

 イリスは見つかることなく、潜伏したまま施設内を進んでいく。周辺にはコンピュータや小部屋が並び、白衣を着た人間が歩いていることから、研究施設であることが伺えた。

 先へ先へと進んでいき、広いスペースへと到達すると、イリスはある物を見て戦慄した。

 巨大な密閉された縦型のガラス管。その中で培養されていたのは、ケイオスだったからだ。

「これは……」

 イリスが声を殺して呟く。そこへ人が近づく物音が聞こえて、慌てて気配を察知されないよう、部屋の隅に移動する。

「例の実験は無事に成功したようだ。あの進化予測のレポートがなければ、こんな短期間で成果は出せなかっただろう」

「ああ、試しに近い環境を作ってみたら、時間はかかったが、予測どおりの個体が出来上がったからな。誰が作ったのかはわからないが、まったく、感謝したいくらいだ」

「今回のデータを洗い出して、さらに襲う相手を選別できるようになれば、より効果的な平気運用もできるな。今のままでは、せっかくの工場などの生産施設も破壊してしまうし……」

 2人の研究員が話す言葉を聞いてイリスは怒りで震える。

(ケイオスを兵器運用……? イツキが作ったレポートに、アナンが同国の民衆のためだからと渡したのに……!)

 それをこんな形で悪用するとは、どこまでここの人間は。

 イリスはぶるぶると頭をふって、怒りを無理矢理振り払う。

 怒りに呑まれている場合ではない。今、境界線ではユイ達が戦争をしているのだ。

 研究員達が部屋を出ていったのを見計らって、イリスは1つのガラス管に近づいた。

 そこには、強襲型とラベリングされた四足歩行の獣型のケイオスが培養されていた。

(この培養器を元素変換して、解放すれば……)

 力を込めようとした矢先、突然イリスの精神体にノイズが走り、硬直した。

「きゃあっ!」

 声のする方を見ると、アルマジロのような形のぬいぐるみが浮かんでいた。

「いけないなあ、自分の管轄外のところまで見に来るなんて」

「ルボル……!」

 悔しそうにイリスが言うと、ルボルは下卑た笑みを浮かべる。

「君だってわかるだろ? これを破壊したら、どんな大惨事になるか。自国の人間を不幸にしたくないだろう」

「その口で何を……土地浸潤型、ケイオスをサザンにけしかけたのは、あなた達なのでしょう!?」

「人聞きが悪いなぁ、どこにそんな証拠があるっていうんだい?」

 くすくすと嘲る笑みを浮かべるルボル。だがイリスには確信があった。

「ふん、まあ、いいさ。決まりを破ったフェアリスは封印される。わかってるよね」

 ルボルが言った直後、イリスの身体が徐々にぬいぐるみ化、人が触れることができるように具現化し始めた。

 それがフェアリスにおける封印。肉体の檻に封じ込めて動きをできなくし、思考も制止させる拘束方法だった。

 その時、愉悦の笑みを浮かべるルボルの背後で培養器のガラスが、ビシリ、とヒビが入ると、割れた。

「なにっ!?」

「話、過ぎ……。変換するには十分だった」

「まさか、抵抗するよりも、変換を優先しただと!?」

 ルボルが叫ぶと同時に、イリスは完全に白いうさぎのぬいぐるみへと変わった。

 薄れゆく意識の中で、イリスは願う。

(エイジスの皆さん、ノイン、ノウェム……。どうか、サザンの皆を助けて……)

 割れた培養器から液体が飛び散るとともに、解放されたコアが輝き、一緒に眠っていたケイオスが目を開け、研究員に襲い掛かっていく。あっという間に研究所は未曽有の大混乱となった。

 その光景を眺めながら、イリスの意識はふつりと途切れた。



次の投稿は4/12を予定しています。

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