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CosMOS  作者: 螢音 芳
Chapter.2
23/144

3. 未確認少女、接近遭遇

カクヨム始めました。詳しくは、活動報告をご覧ください。


 ノトス・サザン合衆国の西海岸の港街。港に近い公園では、夜にも関わらず煌々とした明かりが灯っていた。

 というのも、先程まで公園ではライブイベントが行われていたためだ。

「ユイさん、お疲れ様でした」

「ありがとう」

 着替えて自分の荷物を整理していると、周りのスタッフから声をかけられ、ユイが笑顔で答えた。

 周囲のスタッフが慌ただしく片付けていく中でユイは興奮冷めないまま、ふう、とため息をつく。

 いろいろと葛藤していることはあるが、ライブ中のパフォーマンス自体は悪くなく、自分の中ではやりきったという達成感があった。

 ライブの余韻に浸っていると、その時、公園の裏側、そこに面した路地を一台の高級車が走っていった。

 すれ違った一瞬、車の中に乗っている人物が見え、ユイの目が驚きで見開かれる。

「ユイさん?」

 訝しげにスタッフが問いかけるがユイの視線は車道の先を見つめたままだ。

「ごめんなさい、ちょっと行ってくる」

 それだけ言うと、ユイは腰に下げたある物の感触を確かめてから、走りだした。

「ちょ!?」

 慌てるスタッフをよそに、ユイは走っていってしまった。



 一方その頃、ライブ近くの機材設営場で一人の少年と一人の少女が機材の後片付けを行っていた。

「何とか無事に終わったな」

 ヘッドホンを首に下げた少年、レンがやれやれと言った様子で傍らの少女に話しかける。

「そうだね。シュウさん、サキさんもいないけど何とかやりきったし」

 褐色肌の健康的な少女、ミナが苦笑いに近い笑みを浮かべて返した。

 シュウやサキはレンとミナが所属する特殊上位部隊の隊長の副隊長だ。特殊上位部隊とは言ってもその実はサザン貴族院主席一家の親衛隊に近く、主席一家を護衛したり、こうしてユイの広報活動の補助を行っている。

 広報活動の時にはレンはコンポーザー、ミナはメイク担当をしていた。

 ちなみに、シュウとサキはノトス主席との会談があるアナンの方の護衛にまわっているため、不在だ。

「正直、護衛の方はそんなに心配してなかったんだ。ユイもプローム乗れるから。最悪、私たちもプロームを使えばいい」

 ただ、とミナが続ける。

「ユイになるべくニュースとか余計な情報を入れさせないとか、そっちの方が気を使っちゃう」

 ミナの意見にそうだな、とレンが同意する。

 ユイの母であるサリの失踪の件はノトス・サザン双方で連日トップニュースとなって扱われており、その内容は虚実入り交じって混沌としている。その内容は根も葉もない憶測や当事者のことをまったく考慮しない無礼なものもあった。

 ユイが聞いたら憤慨するだけではなく落ち込んだり、精神的に不安定になることは想像に難くない。

「アナン主席は、その辺もろに表情に出て広報活動に支障が出るからってニュースとか聞かせないように言い渡してたけど、本心は不安にさせたくないんだろうな」

 レンが険しい表情を浮かべながら言った。

 アナンはユイによく厳しいことを言うが、それは愛情の裏返しだというのは特殊上位部隊をはじめ周囲はよく理解しており、ユイ自身もわかっている。

「特に、最近のニュースは聞かせたくないだろうし…」

「だね。聞いた時、私も何それ、って思った。ただ聞かせないようにするのも限界がきてるし、ユイの焦りも酷くなってる」

 ミナとレンはユイと年齢が近いため、よく傍にいる。それだけにテレビのニュースやら新聞やらから話題を逸らすことに苦慮していた。

 反対に情報が乏しいユイは直接自分から探りに行こうとしており、その様子は見ていて危うい。シュウもサキも護衛につけない際に、ユイが飛び出して行かないかを危惧していた。

「気持ちはわかるな……。母親だし、それにサリさんが居ないことは俺もしんどい」

「うん……だからでこそ、サリさん自身から居なくなったなんて考えたくないね」

 ミナもレンも特殊上位部隊のプローム乗りとしての地位が確立した頃、ふと顧みれば両親という存在は居なかった。そんな時、親代わりをしてくれたのはアナンであり、サリであり、兄姉がわりをしてくれたのはシュウとサキ、そしてユイだ。

 家族のようなそんな関係だったのだが、サリが居なくなった今、互いの関係もぎこちないものになっていた。

 考えれば考えるほどネガティブな感情が湧き上がってしまうので、ミナが話題を変えるべく首をふる。

「エイジス海域の件で各国間で緊張が走ってることはユイも流石にわかってるだろうし、無茶な単独行動はさすがにとらないんじゃないかな…」

「だよ、な」

 ミナの話に合わせるようにレンが相槌をうつ。その矢先、スタッフが血相を変えて二人のもとへ走ってきた。

「すいません!ユイさんが車を見かけていきなり走って行ってしまったんですが……!」



 ユイは車を追いかけて路地を走っていた。ライブ直後のため、付近の道路は混雑しており車の速度はゆっくりと走行しているため、何とか足でも追いかけることができている。

 走りながら追跡し路地を抜けていくと、港街の格納庫が並ぶ区画に車は入っていった。

 このまま侵入しようとしても入れないため、ユイはあえて回り道をしてフェンスの抜け穴からこっそり区画に忍び込み車を探す。

 すると、すぐに一番巨大な格納庫のそばに止められている車を見つけた。

 車の中を探ると、すでに人は降りていて空だ。

 気づかれないように格納庫の周辺を歩いて、格納庫内の様子を確かめていく。

 格納庫には一隻の飛空艇が止められていて、人が乗り込む様子が見えた。

 そして、その人の列には。

(お母さん…!)

 ユイの母親、サリの姿があった。

 どうしよう、とユイは思案する。腰のところをなで、二丁拳銃、自分のプロームの素体の感触を今一度確かめる。

 自分は顔も、そしてプローム乗りとしても名が売れすぎている。ここで無理に引き留めれば、アナン、父の立場を悪くしてしまう。サザンの平穏を維持するためには、それはなんとしても避けなければいけない。

 だが、母のことを確かめるチャンスを逃したくはなかった。

 悩んで他の格納庫を見ていると、あるプロームのパーツが運ばれてくるのが見えた。

 それは、ノトスで試作されたもので、先日テスト飛行をしていたところ、プローム乗りが2名、事故にあってロストしたため、お蔵入りとなったものだ。その事故の真相を知っているユイは、パーツが移動にのみ特化し、戦闘に向かないものの、十分有用であることを知っている。

 パーツを見て、ユイは目を細めた。

 数分後、エンジンを温め終わった飛空艇が格納庫から飛び立っていく。

 その後を追うように、飛空艇に比べたら、小さな影が追跡するように夜空へと飛び立っていった。




 夜明け前の海上、地球の世界地図に当てはめると、日付変更線付近にて。サザン港街を飛び立った飛空艇が移動していた。

 飛空艇内部は、現存する飛空艇の中でも屈指の豪華な内装となっており、高級ホテルの一室を思わせるようなシャンデリア、ソファーなどの家具が置かれていた。

 安楽椅子に座りながら、飛空艇の持ち主である人物は向かい側に座る人物を眺める。

 清楚なデザインのドレスに、波打つ亜麻色の髪、意志のない瞳はすみれ色、整った相貌のとても美しい女性であった。

 男性は眺める、舐めるようにただただ眺める。そうすることによって、自身の所有欲を満たすかのように。

 その時、扉がノックされた。

 眺めていた男性の眉が不機嫌に寄ると、感情を口調に隠さずに言った。

「構わん、入れ」

「失礼します」

 一礼すると、スーツ姿の男が入り、安楽椅子に座る男に近づく。

「先ほど、この飛空艇を追跡するプロームを検知しました」

「ほう…?どこの馬鹿だ」

 それが…と言いづらそうにしながらも、スーツ姿の男が続ける。

「エニエマです」

 それを聞いて、男は驚いたあと、笑いだした。

「なるほど!あのじゃじゃ馬娘が追ってきているのか」

 男性は立ち上がり、ソファに座っている女性に声をかける。

「愛されているようだ。情愛が深いのは貴方譲りだな」

 だが、男性の言葉に女性は表情も変えず、反応もしない。

 それに対して、ふん、と男性は言うと、後ろの男に告げる。

「歓待してやれ、なんだったら、落としても構わん。どうせ、その時はおとなしく国に帰るだけだからな」

 男の命令はつまるところ、ロストしても構わないから撃ち落とせ、そういうことであった。



 飛空艇を追跡するように飛んでいたユイは焦りを感じていた。

(一体どこまで飛ぶのよ!?)

 聞いていた情報だと、飛行パーツはシーナ大帝国まで飛行できたということなので、エネルギーはまだ持つはずだ。

 だが、夜だった空はいつの間にか白んできている。

 これでは、追跡がばれる。

 そう思った矢先だった。

 飛空艇からいきなり銃弾が飛んできた。

「んっ!」

 慌てて回避する。

 懸念していたとおり、相手がユイのことに気づいたのだ。

(やばい、こっちの飛行パーツは移動用で回避できるほど性能は良くない)

 手元の二丁拳銃を見る。が、応戦したら母を撃ち落としてしまう。いくらここでは死の概念がないとはいえ、母に対してそんなことはしたくなかった。

 エネルギーを消耗してしまうが、仕方ない。

 ユイは、エニエマの特殊武装、シールドを展開した。

 プロームは、基本エネルギーを犠牲にしてシールドを張ることができる。が、動きが止まってしまうので機動力を優先した戦い方をするプローム乗りでは使用しない者もいる。ユイの場合は、特殊武装として積んでいるので、動きを止めないとシールドが使えないというデメリットを克服していた。

 とはいえ、シールドで防げるのは小型のケイオスと銃弾攻撃ぐらいだ。シールドを展開すればそれだけ、エネルギーの消耗の増加は避けられない。

 そのまま銃弾をかわしつつ、飛行すること1時間。

 さすがに、エニエマのエネルギーが尽きてきた。

 本格的にまずい。ロストしたら今見ている情報、サリが移動している、という情報が失われてしまう。

 せめて避けるために陸地を、と思いコクピット内から見回す。

 そして、視界の先で陸地を見つけた。

(やった!)

 ユイが喜んだ瞬間、コクピット内が振動した。

 飛行ユニットが煙をあげている。飛空艇からの銃弾を喰らったのだ。

 悔しい気持ちを抱えながら、ユイは向かう先を陸地へと変更した。

 しかし、容赦なく飛空艇はエニエマを落とそうと銃弾の雨を降らせてくる。

(お願い、陸までもって!)

 ようやく陸地に入り、地面にエニエマの影が映る。

 同時に、飛行ユニットにもう1発銃弾が当たった。

 衝撃でプローム内部が大きく揺れ、ユイの頭が激しくコクピットの操作台に打ち付けられる。

 エラー音を鳴らしながらエニエマが墜落する。反対に、飛空艇はエニエマが落ちていくのを見ると、その高度をあげていく。その上空になにか建造物が見えた。

(飛空艇?ううん、もっと大きい)

 だが、落ちていく自分に確かめる方法はない。

(お母さん…)

 ユイの意志を表すかのように、墜落するエニエマの手が空へとのびる。

 伸ばされた手は届くことはなく、ユイは意識を手放した。



「エニエマの墜落を確認しました。墜落先はエイジスの諸島、先日試験飛行していたブラボー小隊がロストした島です」

 その報告を受けて、飛空艇の持ち主が微笑んだ。

「なるほど、良い位置に落ちてくれたものだ。なら、追撃は不要だ。せいぜい、役立ってもらおう」

 そう言うと、飛空艇の窓から男性は外を眺めた。そこには、飛空艇の機構を利用して空に浮かべられた豪勢な建物があった。

「では、宴の準備をするとしようか」



 朝早くからハルカはノイン、イツキとともに例のパーツの試験運用をしていた。

「まだまだ運用には遠いなあ…もっと制御に慣れないと」

 B3のプロームを解除したハルカが息を切らしながら言うと、ノインが眉間に皺を寄せ、口をへの字に曲げる。

「よくないですよ、ハル。うまくいかない原因をいつも自分に見出そうとするのは」

「ええ、ノインの言う通りです。まだ左右のバランスが悪いですし、もっと出力の調整が細かくできるようにしないと。そして、ノインもそのために演算負荷に耐えられるようにしないと厳しいですね」

 ノインの指摘にイツキがうなずきつつ、分析を述べていく。

「イツキの言うことは、難しいのですが、頑張ってみるのです」

「フェアリスの演算能力は、スパコン並、そして成長の余地がまだまだある。ノインならきっとできますよ」

 イツキに手放しに誉められ、ノインの耳としっぽが嬉しそうにピコピコと動いた。

 穏やかなやり取りをしていると、突然ノインとハルカがハッと何か気づいた表情になった。

「ハル!」

「うん、何か聞こえる」

 2人の言葉に対してイツキが首を傾げる。イツキの耳には何も聞こえない。

 ハルカが斜め上空、東の空に視線を向けると、遠くから何かが飛んでくるのが見えた。

「あれは…プローム?」

 接近してくる何かは徐々に大きくなってプロームであることがはっきりしていく。飛んできたプロームは背後から煙をあげている。そして突然、大きな爆発音をあげると、背部のパーツが離れ、落下速度が増した。

 その時点で、イツキもプロームが墜落していることに気づいた。

「アクティベート!」

 走り出しつつ、ハルカがB3を復元し、疾走する。

「ツバキ、聞こえてますか!?僕らのいるところの重力を弱めてください!」

 イツキがケートスの操作を司るツバキに声をかける。

 即座に重力の支配が弱まり、プロームの落下速度が遅くなった。

 日の光を受けて、プロームの姿がはっきりする。メタリックピンクに二丁拳銃の鮮やかな色の機体だ。

「あれは、エニエマ!?」

 ハルカの驚く声を受け、イツキも目を見開いた。ハルカと通信で会話する。

『もしかしてチームメイトですか?』

「うん。エニエマの操縦者はユイっていう女の子だったはず」

「ハル、そろそろ跳べば、届くはずなのです!」

「わかった!」

 ノインの指摘を受け、B3を加速し、そのまま跳躍。重力の支配の弱い状態なので、5階建てビルの高さぐらいまで難なく跳躍すると、エニエマの機体をキャッチし、着地する。そのまま流れるような動作でエニエマを横向きに横たわらせた。

「ハル、プローム解除の緊急レバーの位置はゲームの時と一緒なのです。操縦者の意識がなければ、レバーは使えるはずです」

「わかった!」

 ハルカはB3を解除すると、生身で弱まった重力を利用して跳躍し、エニエマの背後にあった、レバーを引いた。

 すると、エニエマのプローム構築が解除されていく。

 光の破片をまき散らしながら解除されていくなか、そこから現れた人影を見て、ハルカは驚いた。

「え…?」

 それは、ノインも最近見た人物だった。

 落ちてきた人影をハルカが慌てて抱き留める。重力が弱いので重さはない。

 追いついたイツキがハルカに気づいて駆け寄る。そして、息子が抱いている少女を見て、驚いた。

「ユ…イ…?」

 茫然としてハルカがつぶやく。

 墜落してきた少女は、地球で活躍していたアイドルのユイであった。


次の投稿は3/17を予定しています。

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