表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
CosMOS  作者: 螢音 芳
Chapter.1
19/144

11. あきらめていた願い

「少年よ、遥かなる高みを目指せ!」

 そう言った騎士姿のアバターはポーズを決めた。エフェクト効果で伸ばした指先がきらーんと光る。

 一瞬、周囲が、空気が沈黙する。

「言いたい、だけ?」

 12歳のハルカが騎士姿のアバターに声をかけた。ちなみに、こちらは黒い狼の獣人青年を模したアバターだ。

(ああ、これは…)

 ハルカは夢を見ながら思う。CosMOSの前に遊んでいたゲーム、グランクエスト。オール職種のトーナメント戦で一位を取ったときの記憶だ。

「うん、言いたかっただけ」

 そう言うと、騎士装のアバターはポーズをやめ、隣に体育座りをした。

「お兄さん、特撮ヒーローに憧れて、役者目指してるんだけどさー、悪役の端役しかもらえないの…。こんな格好いいセリフ、一度でいいから言ってみたくてさー」

 騎士装にどんよりとした感情エフェクトをまとわせながら、ぶつぶつと呟く。何やら、苦労しているようだ。

「しかし、まさか決勝の相手がこんなに若いとは思わなかった。すごいなあ、君は」

「えへへ…」

 純粋な感心と賞賛に、ハルカは照れくさそうにはにかむ。

「だから、先ほど言った言葉に込めた思いは本物だぞ。君はまだまだ高みを目指せる」

 騎士のアバターはメニューウィンドウからアイテムボックスを開くと、装飾の施された白い長剣を取り出した。それは、決勝でも使っていた剣だった。

「どっちにしろ、引退を決めていたから。託すには君がいい」

 そう言うと、白い騎士のアバターは剣をハルカに差し出した。

「これって、かなりレアアイテムなんじゃ…」

 剣のステータスを見ると、数値の高さ、そして付与されたバフ効果の高さから相当な一品とわかる。

「そうとも、このゲームに一品しかない品だ。とは言っても、俺も譲り受けた品なんだけど。その時にそのアバターから言われたんだ。高みを目指せって」

「こんなの、もらえません」

「いいや、受け取ってほしい。思いを継いでほしいから。武器を受け取ることで思いをつなげてほしい」

 騎士装のアバターはもう一度立ち上がり、ポーズを決めると高らかに叫んだ。


「少年よ、遥かなる高みを目指せ!

 己を高め、周りを高め、

 戦場の中心にありて安心と勇気を与える、そんな勇者を目指せ!」


 その騎士装のアバターは後々調べたら、滅多にランク戦に出ないプレイヤーだった。レイド戦を主にプレイしていて、難易度の高いクエストのレイド戦では、彼なしで攻略はあり得ないと言われている程の有名なプレイヤー。まさに言っていたことを体現していたのだ。

 その時、12歳の自分にはその在り方がとっても格好よく思えた。

(自分を高めて周りを高められるような、そんな頼もしい存在に、なりたいと思ってはいたのだけど…)

 結局グランクエストは運営会社の不手際で突如サービス終了となり、代わりに根幹のプログラムが同じというCosMOSの舞台で体現しようと頑張った。ステータスは継がなくてもいいから、せめて形だけでも再現したくて、剣のデータを構築した。

 再会したチームメンバーでチーム戦の戦績も安定したところで、どのくらい自分の技量があるのか試したくなった。けど、オール武器種は自信がなかったので同一武器種のランク戦で。そしたら、一位をとることができたが、決勝の対戦相手がこの剣のことを知っていた元グランクエストのプレイヤーだった。その剣、前のデータをそのまま引っ張ってきたんじゃないのか、バフ効果とかもあったはずだ。そういろいろ言われてチート扱いされた。運営のとりなしと、チームメイトのおかげで疑いは晴れたけど、それでも他のプレイヤーからのバッシングは続いた。

 バッシングを受けるうちに、継いだものを汚してしまった気がして、逃げるように剣のデータにB3のデータを上書きしたのだった。


 島の中の岩場の崖の下、うまく大木にひっかかる形でB3は落下からの衝撃を免れていた。ただ、プロームは半壊状態でまともに駆動できない状態だ。

「何をやってるんですか」

 コクピットのモニターからノインが怒りをにじませながら言う。

「ごめん、無理矢理突っ込んで思いっきり喰らった」

 気絶から回復したハルカが申し訳ない声で返す。ロストしないで生きているのが不思議なぐらいだ。

 やれやれとため息をノインがつくと、話し始めた。

「あなた、本当はチーム戦苦手なのでは?」

 ノインが言っていることは、この間話していたことの続きだ。

「……前はさ、チーム戦もうまくできてたんだ。連携とったりとか、呼吸するように自然に。けど、個人戦でチートだって言われてから自信がなくなって。技術もなくてチートやチームにぶら下がってるだけの奴だって言われて。一人で頑張ろうとして、それから戦績が不安定になった」

 チートなんてしていない、実力だと否定したくて、がむしゃらに頑張って、一体でも多くケイオスや他のプレイヤーを倒そうとした。

 でも、結果には繋がらなかった。

 だから、自分は弱いのだと思ってさらに頑張ろうとして、いろんな戦術を身につけようとした。が、どれもうまくいかなかった。

「馬鹿ですね」

「そうだね」

「馬鹿なのです」

「うん」

「あなたが弱いわけないじゃないですか」

 ノインが呆れて言う。

 でなければ、ここまで来ることはできなかった。単騎の力で、列島のほとんどを鎮圧したのだ、強いノトスのエースも倒したのだ。

「あなたは周りが見えてないだけなのです」

「でも」

「あなたは強いからでこそ、本当だったら周りを冷静に見ることができるはずなのです。周りを見て、的確に判断すればもっと大きなことができるのです」

「けど……」

 それでも、ハルカは納得できずに、否定する。

 ノインがもどかしそうにしつつ、言葉を紡ぐ。

「だったら、私が教えてあげるのです。見えなかったら、ハルのことを私が補うのです」

「うん……」

「だから、あなたは全力で駆け抜けてほしいのです」

 そうノインが言うと、B3が光りだした。

「機体を再構築します。イツキが考えてくれたものに比べて弱くなってしまいますが、それでも復帰できるはずです」

 B3が機体を変えていく。青を基調としたものから、白へと。

「名前を教えてください」

「え?」

「あなたが継いだ剣の名前を」

 ノインから言われてハルカが面食らう。

「なんで、ノイン、それを……」

「さっき気絶したときに、あなたと少し精神を共有してしまったみたいです。精神生命体だから仕方ないのです、不可抗力なのです!」

 抗議するようにノインがしゃーっと怒りながら言う。

「わかった! わかったから」

 慌ててハルカが言い、一息吸って呼吸を整えると、告げる。

「ファーヴェル……遥か果てを目指す剣」

 少年の言葉を受けて、光が機体に収束していった。



 洞穴内部をイツキとケイト、ヤナギ、追従するプロームが進んでいく。

 予想どおり、洞穴内部にケイオスの姿はない、巨人として形作ったために、手薄になっているのだ。

 洞穴内部が天然の岩壁から徐々に人工的な機械の壁に変わる。誘導灯のついた白い廊下を駆け抜け、エレベーターを乗り継ぎ、最奥へと進む。

「イツキ殿、ここです!」

 そう言うと、ヤナギが終点の廊下の奥の扉を指さした。扉の周囲には黒カビ、あるいは黒い蔦のような黒い物体がまとわりついている。

「扉を破壊してください」

 イツキがプロームに頼むと、プロームが扉まで進み、持っていたハンマーで扉をたたいた。

 扉の内部は、さらに黒い物体に浸食され、中心では今までみたものよりも黒みの強いコアが浮かんでいた。

「イツキ殿、どうすれば」

「おそらくコアにダメージを入れれば、周囲のケイオスを呼び寄せようとするでしょう。だから、一回でコアの表面にダメージを与えて僕が内部にこれを入れます。ケイトさんは、周囲の警戒を」

「了解」

「わかったわ」

 プロームが配置につき、イツキがコアのそば、しかし攻撃の邪魔にならないところに移動する。

「3、2、1…!」

 0でプロームのハンマーがコアを叩き、内部を露出させる、そこに赤黒い血管のような物質に取り込まれた小さい集積回路が見えた。だが、コアはすぐに修復をはじめようとする。

 イツキがコアに近寄り、集積回路を内部に取り込まれて融合している集積回路のそばに当てると即座に距離をとった。離れたときには、コアが元の形に戻る。

「ヤナギ、呼びかけてください!」

「ツバキ!聞こえとるか!聞こえたなら避難しろ、早くそちらの方へ!どうか、わしを、イツキ殿を信じてくれ!」

 昨日のように返事はなく、聞こえたかどうかはわからない。

 直後、コアが震えた。

「炭素半導体」

 イツキがぼそりと呟いた。

「ケイ素と同じ周期族の炭素で作られた半導体です。これならば、あるいは」

 その直後、一瞬コア内部が光ったかと思うと、一つの集積回路を吐き出した。

 慌ててそれをケイトがキャッチする。後ろから、ずしん、ずしん、と何かが複数走り迫ってくる音が聞こえる。ケイオスが迫ってきている足音だ。

「ほ、本当にこれでだいじょうぶなの?」

「ケイト殿!それをどこでもかまいませぬから壁に埋めてくだされ!」

 ヤナギに言われて、浸食されていない一か所の白い壁に集積回路を押し付ける。すると、水面のように壁は集積回路を受け入れ、横に沈んでいった。

 こんな方法で本当に大丈夫なのだろうか、とケイトは不安に思う。そのとき、ケイオスがコアのある部屋までたどり着いた。

 駄目だったのか。そう思っていると、壁備え付けられた銃の一つが光った。

「ケイトさん!」

 イツキがケイトの頭を抱えて地面に伏せた。

 しかし、銃口が狙ったのは人ではなく、

 赤いレーザーの火線がコアを貫いた。

 そして、レーザーは次々とケイオスの身体を貫き、消滅させていく。

「まったく、間一髪だったわ」

 穏やかな老婦人の声が部屋に響く。

 すると、部屋にヤナギに似た、毛でおおわれたネズミのようなぬいぐるみが現れた。

「ツバキ…」

「困った人ね、でもうれしいわ」

 そう言うと、フェアリスの夫婦は抱き合い、再会を喜んだ。

 それを見て、イツキとケイトも微笑みあう。

 喜んでいる矢先、突如、振動が建物を揺らした。

 イツキがはっとする。そうだ、和やかな気持ちになっている場合ではない。

「ツバキ、お願いがあります」


 外では、ハルカが転ばせた巨人型のケイオスが完全に起き上がろうとしているところだった。

「ど、どうする!ウコン!」

「聞くな、サコン!」

 2人があわわ、といわんばかりにプロームをわたつかせる。

 部隊も浮足だってしまう。

 洞穴から出てきたイツキたちも巨人が起き上がろうとしているのを見ていた。

 そして、巨人が再び、手を持ち上げて振り下ろそうとする。

 突如、振り下ろそうとしたその手に巨大な木の杭が巨人の手の平に刺さった。

「「「えっ!?」」」

 ナノ、イツキ、ケイト、ウコン、サコン、島の各方面で驚きの声が上がる。

<ノウェム!聞こえますか!?>

 ノウェムの耳に姉の声が響く。

「姉さん!」

 ナノのそばにいたノウェムが叫んで返事する。

<ナノ!聞こえてる!?>

「おにい!だいじょうぶ!?」

<何とか生きてる!ウコンたちがどこにいるのか教えて!いや>

 そこでハルカが言葉を切った。近距離通信しか積んでこなかっため、そばにいないとやり取りできないようになっていた。けど、今回はそれでは難しいし、ナノを仲介するのでは、タイムロスにつながる。

<ウコンたちと離れてても直接リアルタイムでやり取りできるようにしたい!>

 ハルカの要望にどうしたらいいのか、ナノが悩む。

 ノウェムははっとしてハルカの言わんとするところに気づく。

「ナノ!私たちとウコンたちの部隊、そしてハルカと姉さんで共有できるネットワークを作るのです」

「どうすれば?」

「この島に透明な雲を作るのです。そこからみんなに糸を伸ばすようイメージするのです!」

「わかった!」

 すぐに雲をイメージして糸を伸ばしていく。

 つながった感触を感じてハルカが呼びかける。

<ウコン、サコン、みんな聞こえてる!?>

<若!?>

<ご無事だったのですか!?>

 声を受けつつ、ノインはさらにネットワークをもとに、ウコンたちの位置を割り出す。

「ハルカ、位置をモニターに出すのです」

「わかった、離れてないから今から合流する」

 そう言った直後、岩場の影から一つの機影が飛び出した。

 その機体をみて、さらに全員驚く。

 日の光を受けて光り輝く、白地に青いラインが装飾された機体だった。

 白い機体は、ウコンたちの居る草原地帯に着地すると滑るように近づいた。

<若、その機体は一体?>

 ウコンが聞くと、ハルカは内部で苦笑した。

<一発あいつからもらってプロームが半壊しちゃったから、ノインに作り直してもらった。昔使ってたプロームをイメージしてて、ファーヴェルって言うんだ>

 パーツは周囲の元素変換から構築してるので、強度やプロームの性能は下がっている。

 けど、なぜか不思議としっくりなじむような感触をハルカは感じていた。

 さて、と白い機体が巨人に向き直る。

 巨人は手に杭を打たれて怒っているかのように声をあげていた。

<ウコン、サコン、俺が囮になる>

<若、しかし、それでは先ほどと同じでは>

<ううん、違う。みんなにやってほしいことがある>

 そう言うと、ハルカは作戦を伝えた。


 みんなが散って、草原に白い機体は一機で佇んでいた。

「ノイン、さっきのあれを」

「はい!」

 そう言うと、そばにあった木を利用してノインは先ほど杭を打ち込んだ機構、弩弓を作り出す。

 できた弩弓をファーヴェルはそのまま打った。

 今度はさすがに避けられる。

 だが、巨人ははっきりと白い機体、ファーヴェルを捉えていた。先ほどの杭を打ったのが誰だかわかったのだ。

(これで、注意は向いた)

 追いかけっこの始まりだ。

 全力でスラスターをふかして、草原を疾駆し、岩場へ移る。

 巨人が手を振り下ろそうとするが、じぐざぐ、旋回、直線、複雑に疾駆する機影に、手の挙動が追いつかない。

 巨人が白い機体を追って身じろぎする。

「ハル!そっちの方向ではまずいのです!」

 ノインが警告する。ファーヴェルの疾走する方向には何も障害物はない。

 だが、ハルカはノインの警告に従った。

 旋回して逃げてきた道を逆走する。

<若!すまないです!>

 直後にウコンから思念が飛んできた。巨人が振り向こうとした先にウコンたちの部隊がいたのだ。

<だいじょうぶ、現場についた?>

<間もなくでござる!着いたら5分と経たずにできます!>

<了解!頑張って>

 引き続き、今度は海岸線を疾走する。

<サコン!何を手間取ってるのです!?>

 ノインが突然話しかける。

<すまぬ、だが機構がよくわからなくて>

 サコンから返事が返ってくる。

「ごめん、ノイン、映像見せて」

 そう言うと、モニターには、サコンが弩弓を作りあげている様子が見えた。

 ただ、機構の一部で悩んでいた。

<サコン、発射口のところのパーツが一つ多いからうまく作れないんだと思う>

<なるほど!ありがとうございまする!>

<わからなかったら、おそらくその近くにさっき作ったのが残っているから参考にして>

<了解でする!若、どうぞご無事で!>

 サコンの通信を受けつつ、ノインが気づいた。

「ハル、真上!」

「だいじょうぶ!」

 バックステップをして、振り下ろそうとしていた拳をかわす。

 島の端に来ていたためか、そんなに島には振動が伝わらない。

<おにい、お父さんから通信!>

 ナノから思念が入り、直後にイツキの声が響く。

<ハル、君たちは何をやってるんですか?>

<実は…>

 ウコン、サコンたちと行っている作戦を告げる。

 それを聞いて、ケイトはイツキの傍らで口笛を鳴らし、イツキは納得してうなずいた。

<わかりました、こちらは奪還できました。なので、いつでも撃てます>

<ありがとう>

<だから、タイミングはハルに任せます。今、全体の動きが見えているのは君の方なので>

<了解!>

 父に任された実感から嬉しさ半分、緊張半分で返事を返した。

<若、準備ができましたでございます!>

<こちらもできましてでございます!>

 ウコン、サコンから通信が入り、うなずいた。

<わかった、じゃあ、反撃にまわる!>

 ハルカからの通信を聞いてイツキが嬉しそうに微笑んだ。

「まったく、いつの間に気づいたんでしょうか」

「さあねえ、男の子の成長って早いらしいから」

 ケイトも嬉しそうに微笑んだ。


 ファーヴェルを疾走させ、島の内部へと再び誘導する。

 木々をなぎ倒しながら進む巨人を背後に感じながら、手に汗をにじませる。

 ウコンが作ってくれたポイントは間もなくだ。

「ノイン、視覚化よろしく」

 そう言うと、モニターに新たな情報が追加された。

 そのまま、白い機体は何事もないかのように疾走し、山間の中の高原についたところで止まった。

 そして振り向くと、巨人が迫り、その拳を振り上げるところが見える。

 その巨体が、突然地面に沈んだ。

 巨人の足元には巨大な落とし穴、それも地面を水分で液状化させてぬかるませていた。

 ウコンの部隊が仕込んでいてくれたものだ。気づかれないように擬態もさせていて、こちらにはわかるようにノインにはセンサーで正しい地面を教えてもらっていた。

 少し白い機体を動かし、頭部の注意がこちらに向くようにする。

<サコン>

 静かにハルカが呼びかける。

<総員、撃てーっ!>

 サコンの呼びかけに応じて、木の杭が、白い機体と巨人の頭部に殺到する。

 木の杭が殺到する前にファーヴェルは跳躍して回避する。

 だが、巨人は他の箇所で見ていたかのように巨体にしてはあり得ない反応速度で頭部を動かしてよけた。

(やっぱり)

 さっき、迫ったときも、あり得ない反応速度でB3に襲い掛かってきた。

「ハルカ、やっぱりこいつ、個ではなく、集団のケイオスなのです!形成している個々のケイオスの感覚器官が生きているのです!」

 頭部があることに惑わされたが、全身で見ているならば避けられるのも道理だ。

 でも、擬態されているものは見えないはず。

<父さん!>

 声をかけた。

 ラグは2秒、山から光の線が走り、ケイオスの頭部を貫いた。

 巨人の頭部が煙をあげ、その巨体が斜めに傾く。

「やりました、か…?」

 イツキが呟く。

「いえ…」

 直後にツバキが否定する。

「エネルギーが足りなかった…!」

 煙が晴れていくと、頭部の周囲のケイオスは焼け焦げて、コアがほとんど露出しているのが見える。ヒビは入っているが完全に破壊されてない。これでは、修復される。

「ツバキもう1回…」

 言おうとして、イツキは悟る、間に合わない、と。

 その時、コアの周囲の組織を修復させつつ、ケイオスだけが気づく。

 先ほどまで周囲をうろついていた白い機体がいないことに。


 ノインからいろんなことを教えてもらった。

 みんなから協力を得ること、

 崩れそうなところを支えること、

 そして相手をよく観察すること、

(一人でたどり着く必要はないんだ…)

 総じて自分のことを見ているだけでは気づけないことだ。

「あのコアは、フェーズが進んでいた。ゆえに、今のケートスの火砲では壊れない可能性が65%」

 ノインが呟く。

 半分以上の確率なら、備えてないといけない。だから、父に発射タイミングを伝えた後、ノインにジャンプ台を作ってもらって空中に舞い上がっていた。巨人の真上、構成しているケイオスが焼かれたことで目がなくなってコアが露出した箇所。そこは、死角となって避けないようがない箇所だった。

「プロームの武装、刀身部分はこの惑星でも未知の硬度を持つ物質、私たちでも解明しきれていない物質ですが、それは確実にコアを仕留められるのです」

 ゆえに、プロームは近接に特化している。

 白い刀身をファーヴェルは掲げ、落下の勢いを利用して巨人のコアに突き刺し、その勢いのまま巨人の中を突き進む。

 巨人の身体を白い機影が突き抜けたと同時に、コアは破砕音を立てて割れ、巨人を構成していたケイオス全体が崩れ去る。

 後には、黒い砂の山と液体が残されていた。


次の投稿は、連続させて頂きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ