10. ケートス奪還戦
翌日、島に上陸し、プロームの大群が、ケイオスを駆逐していく。
昨日の失敗を受けて、今回は分散せずに、そのまま一点突破でいくことになった。
殿をつとめるハルカがプロームを走らせる。
先頭がほぼ蹴散らしているので、ここまでケイオスが回ってくることはない。
正直手持ち無沙汰な状況だった。
(なんで父さん、こんな配置にしたのだろう?)
本来であれば戦力の高い自分が先頭を務めたほうが、部隊全体の消耗も少ないはずだ。
考え込んでいると、通信が入った。
『どうして殿なのか、疑問に思ってます?』
「別に」
イツキの問いかけにぶっきらぼうに答える。
嘘だ。本当はとても気にしていた。
ハルカの声にイツキが少し沈黙する。
『ハル、これは君がやってきたゲームとは違います。周りに君の元仲間がいるわけではない』
慎重に言葉を選びながらイツキが話す。
「わかってるよ」
『うん、だからでこそ、今までの戦い方では厳しくなる。君が突出しているからでこそ、君が頑張るのではなく、仲間を活かす戦い方をしないといけない』
「???それって…」
ハルカが問いかけようとした時、島が激しく振動した。
「なっ!?」
昨日の山が鳴いているような感じではない。
大きい振動が止むと、ズン、ズン、とリズムを刻むように地面が振動を始めた。
まるで巨大なものが歩いているかのように。
山から、それは顔を覗かせた。
黒く形成された頭部、巨大な体躯、まさしく巨人と言える威容。
だが、よく見ると、身体を構成しているひとつひとつが昨日戦ったケイオスで形づくられている。
「父さん…」
たじろぐように、ハルカが言う。
『ちなみに、ハル、あのケイオスに見覚えは』
「ないよ!あんなもの!」
「そうだと思います」
ハルカとイツキの会話にノインが割って入る。その声は焦燥を帯びていた。
「なぜなら、私達もこんなのに出くわしたのは初めてですから」
構成したケイオスの身体をボロボロとこぼしつつ、その巨人は、生まれ落ちたことを喜ぶように、鳴いた。
その叫びを聞いて、B3が飛び出す。
『ハル!』
イツキが制止させようと呼びかける。
「あれに押されたら終わりだよ!島を奪還したらアイツを倒せるんなら、父さんはさっさと行って!」
しょうがないじゃないか、今の戦力でやりあえるのはたとえ弱くても自分だけなのだから。
ハルカは自分の力量の足りなさを実感しながら突貫していった。
一方で、伝えきれなかったイツキは唇をかみしめる。
(そういうことではないというのに…)
しかし、周囲を見れば、あの巨人を形成するために島にいたケイオスをほぼ利用したようだった。裏を返せば、潜入しやすいのは確かだ。早くアイツを倒すなら、島の機能の奪還が先決、その論も正しい。
「ハルを囮に、潜入を断行します。僕とケイトさん、そしてプローム一機で潜入。ナノは離れた丘からフェアリスの支援を。ノウェム、頼みます」
「わかった、早く終わらせるんだね」
「うん、頑張るよ。お父さんとお母さんも気を付けて」
「了解です、イツキ。ナノ、よろしくお願いします」
それぞれイツキの指示にうなずく。
『あの、イツキ殿…』
『我等はどうすれば…』
置いて行かれたウコンとサコン、フェアリスが操るプローム部隊だ。
「すいませんが、うちの馬鹿息子をお願いします。あんな息子ですが、それでもロストさせたくないので」
そう言うと、イツキが頭を下げ、ケイトも同じく頭を下げる。
『承知!』
『任されたでござる、者ども、行くぞ!』
ウコン、サコンが先頭に立ち、意気揚々と地面を疾走していった。
B3が巨人に肉薄し、並走する。一歩、いや、わずかに動くだけで島が振動する。
下手に触れれば、それだけで弾き飛ばされ、プロームが破損してしまう。
「まずはその足を止める」
そう言うと、B3のアームからワイヤーを伸ばし、岩に向けて飛ばす。
そのままワイヤーを伸ばして、巨人型ケイオスの周囲を疾走する。
森ということもあって、合間を縫いながら走るのは至難の業だが、恐るべき反射神経と技量で疾走していく。
(すごい、ですが…)
本来であれば、こんなことをする必要はない。
ノインに頼めば、少し演算処理が落ちるが、周りの木々を必要なだけ元素変換させて別の物質に置換し、走りやすくなることが可能だからだ。何だったら、合流した部隊に頼めば、障害物を構築するのも可能だろう。
考えてみれば、昨日の単騎での出撃も、別に一体一体全部をいちいち相手どる必要はない。
非効率、ともいえる方法だ。
(イツキ、もしかしてあなたが言いたかったことは…)
ノインは先ほどイツキが言いかけたことを推測する。
B3がカーブし、岩と反対側にたどり着くと、思いっきりワイヤーを引っ張った。
岩に括りつけられたワイヤーが直線に伸び、巨人の足元を捉える。
巨人の足がワイヤーに引っかかり、巨人の力がB3にかかった。プロームが持っていかれそうになり、中が振動する。
「っ!」
「うう!」
中で急負荷がかかったノインが悲鳴をあげる。
「こんの!」
脚裏のスラスターを逆噴射させ、後退する挙動をとり、こらえる。
プローム全体が悲鳴をあげ、ミシミシ言う音が聞こえた。
機体のあちこちでエラーが発生し、その情報の洪水にノインが飲まれそうになる。
「~~!」
「ごめん、ノイン、もう少しだから!」
そんな綱引きを続け、根負けをしたのは巨人の方だった。
足をとられ、巨人の身体が前に倒れると、山を激しく振動させる。
その機を逃さない。
機体に無理をさせ、今度は急発進、巨人の頭部にコアがあるのは見えていた。今であれば、届く。
岩場の高台を疾走して跳躍、巨人の身体に対して、弧を描くような軌道で巨人の頭部に躍り出る。
(もらった!)
一瞬、ハルカはそう思った。
その瞬間、倒れてこちらが見えてないはずの巨人の手がひらめいた。
B3の方へと。
「早い!?」
空中で回避行動もとれないまま、B3は巨人の振り払いをもろに受けて、吹き飛ばされた。
破損したパーツを撒き散らしながら山間の崖へと落ちていく中、ハルカは思う。
(やっぱり、俺だと足りない、届かない、のか…)
そして、意識が暗転した。
遠くの高台からその様子を見ていたナノがハッとし、叫ぶ。
「おにい!」
「そんな、姉さん!」
ウコンとサコンの部隊もB3が吹き飛ばされる様子を見ていた。急停止し、叫ぶ。
「若――っ!」
「そんな、間に合わなんだとは…」
最強の戦力を失い、ウコン、サコンだけではなく、フェアリスのプローム達は立ち尽くし、途方に暮れた。
一方、昨日の洞穴にたどり着いたイツキとケイトが空を見上げた。大きく振動してから、巨人の姿は見えない。でも、地面は微かに揺れている。
「イツ君…」
嫌な予感を感じて心配するケイトの声に対して、イツキは洞穴に向き直った。
「行きましょう、ケイトさん」
自分の残酷な推測を振り払うように、イツキは洞穴へと歩を進めた。
今回短くてすいません。次の投稿は3/12を予定しています。




