5. 初めての対人戦
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回は、エピソードの最後に短い小話を幕間として挿入しています。
新しく話として投降するには短すぎるため、このような形をとりました。
幕間の話についてはあくまで箸休め的な意味とキャラを掘り下げるために入れているものなので、
ストーリーに大きく関係するようなことはなるべく無いようにしたいと思っています。
場合によっては、話のペースの妨げになったり、余韻をぶち壊す(ここ重要!)
おそれがありますので、シリアスな雰囲気を壊したくないという方は飛ばしていただいて大丈夫です。
では、どうぞ続きをお楽しみください。
「そこまでです、エース!」
黄色い機体と青い機体が戦闘する中、突然別の箇所からの音声が割り込んだ。
風を切るような音が聞こえたかと思うと、そこには、もう一機、今度は見慣れないプローム機体が浮いていた。
「ドュエ、いいところなんだから、邪魔しないでよ」
「見たところ、そちらに戦闘意欲はないようです。これ以上の戦闘続行は無意味と判断します」
「なるほど、戦闘意欲、ねえ」
不満が混ざり嬲るような声で、ツインハックがB3のことを見た。
機体越しでありながらも、対人戦に対する戸惑いを読まれているかのようだ。
その時、ツインハックの上腕部が予備動作もなく翻った。
がぎん、という鈍い音がしたかと思うと、500メートルほど離れたトレーラーに突き刺さり、火柱があがっている。
え、と間抜けな声が耳に届く。
それが、自分から出たものとハルカが気づいたときには、トレーラー全体が燃え上がっていた。
「なんか見に来てたうるさい羽虫がいたから、思わず投げちゃった♪」
あははは、という甲高い笑い声が通信スピーカーから響く。
「エース!」
「聞いた? ドュエ、え、だって。中に知人がいたのかなあ、だったらごめんねえ、殺しちゃったあ」
スピーカーから聞こえるやり取りを遠いもののように感じながら、ハルカは硬直していた。
死んだ……? いや、この世界では死なないって言ってた。けど、燃えたら肉体も再生できないんじゃ? そしたら、どうなる?いや、蘇生したとしても、それはもとの家族なのか?
いろんな思考が駆け巡る。
「ハルカ! ハル! しっかりしてください!」
「そうですぞ、若君! 目の前の奴らに集中せねば!」
ノインとサコンが警告する声をあげるが、ハルカには聞こえていない。
「なんだ、仲間を攻撃したらやる気になってくれるかと思ったんだけど、戦意を喪失させちゃった? 意外とおこちゃまだったんだね」
落胆したように目の前の黄色い機体が告げる。
「じゃあ、キミもどっかいってよ」
冷徹な声とともにツインハックがB3に襲いかかる。
そのとき、破裂音と、がきん、という音が同時に響き、ツインハックの手斧が上にはじかれた。
「戦場でぼーっとするんじゃない!」
叱咤する母の声にハルカがはっと顔をあげる。
トレーラーの影から一つの機影が滑りでた。
黒を基調にした赤いプロームで、手の平には何かをのせるように上にむけられている。そこにはライフルを構えたケイトの姿があった。ライフルからは煙が立ち上っている。
「こちらの心配は無用です」
イツキの声が響くと、黒と赤のプロームは飛空艇に横づけした。そこから、イツキとナノ、ケイトが手のひらから降りる。
トレーラーに乗っていた人が全員降りてくると、ノインはあれ、と疑問の声をあげた。
「え? それではあのプロームは誰が操縦を?」
「おいです」
声とともに、モニターに熊のアイコンが表示された。
「おお、ウコン!」
嬉しそうにサコンがぴこぴことしっぽを揺らす。
「それでは、イツキ殿は技術を完成させたのか?」
「いいえ、違います」
割り込んだのは、ノウェムの声。
「姉さん、ごめんなさい。ナノと契約を交わしました。それにより、感応能力を得て、ウコンとプロームを紐づけしたんです」
「なるほど、そういうことですか……」
感応能力、と聞いてノインが納得するようにうなずいた。
「若、心配なされるな、この先の戦闘、おいがかわります。同族殺しなんてするもんじゃあない」
そう言うと、背中からツインハックよりも大きい斧、両手斧を構えてウコンが操るプロームが白い煙をあげた。
やる気らしい。だが。
「だいじょうぶ、ウコン」
沈黙していたハルカが静かに告げる。
躊躇していたが、今まで、大切なことを理解していなかったことにようやく気付いた。
目の前の《《あれ》》は同じ人間であっても、敵、だ。
「やれる」
静かな闘志をたたえた少年の瞳がコクピットの中で煌めいた。
「ノイン、今から対人戦闘に切り替える。サポートを」
「っ! 了解!」
「サコン、ゆれるからウコンの方へ、そして救助を手伝ってあげてって伝えて」
「しょ、承知した!」
淡々とした声に本気を感じ取って、サコンの姿が掻き消えた。
「ははっ! やる気になってくれたんだね、うれしいよ!」
歓喜の声とともに再びツインハックがB3に迫る。
B3が脚部を光らせて加速しつつ後退する。まるでフィギュアスケーターが滑走するように綺麗な曲線を描いて滑走路を滑り、飛空艇から距離をとるようにする。
「まだ逃げるつもりなの?もう飽きたんだよ!」
そう言って、ツインハックがいっきに距離をつめて襲いかかる。
滑走するスピードを落とさないまま、B3が振り向いた。
ツインハックの斬撃をB3がバックフリップでかわしつつ、したたかにその顎を足でけりぬく。
同時にがきん、という音が響いた。
ツインハックが衝撃をうけ、飛ばされながら、切断されたドュエの機体が落ちていく様子がモニターに映る。
「エー…す?」
なぜやられたのかわからない、そんなドュエの声が聞こえたかと思うと、爆発音が響いて無線が切れた。
(いつの間に、斬撃を?)
ツインハックが驚いていると、蹴飛ばされた機体に追いつくようにその上にB3の機体が覆いかぶさる。その手元に青いダガーのようなものが飛来しておさまる。よく見れば、雨に濡れた紐のようなものがB3の手元に見えた。
「まさか……!」
雨という視界の悪さを利用して、さっきのすべるような滑走をしてターンしていた時に機体で隠すように刀身を横投げし、ワイヤーで切り裂いたというのか。
(そんな曲芸じみた技が……!)
ツインハックは見落としていたのはそれだけではない。そもそもかわしていたときの動き、バックフリップの挙動、こうして追いついてくるスピード、跳躍力といい、明らかに自分の操縦するプロームと性能差があったのだ。
「投げるのがあんだだけの芸だと思うな」
少年の声がツインハックの操縦者の耳に届いた直後、黄色い機体は青い刀身に貫かれていた。
(なんだ、こんなの……、リアルロボットでスーパーロボットに立ち向かうなんてそんなの無理ゲーにもほどがあるじゃないか)
内心で吐き捨てるように思考が走る。そこで、違和感に気づく。
(リアルロボットにスーパーロボット? ……僕は何を考えて……)
乗り手のその思考を最後に、ツインハックの黄色い機体が爆散した。
◇
『隊長!エースとドュエの機体がロストしました』
上空を飛んでいた、ブラボー小隊がツインハックとドュエからの信号が失われたと知り、慌てる。
『知っている』
『急ぎ戻って救援を!』
『トレス、このまま帰投する』
『しかし、隊長!』
『落ち着け、トレス! エースとドュエを倒した機体に我らが敵うと思うか!』
ウノの叱咤する声にトレスが歯噛みする。
『このまま帰投して報告するぞ。戦闘データは得られなかったが、無所属の脅威が存在すると報告しなければ。そして、ロストから復活するドュエとエースのフォローにまわるぞ』
『了解』
しぶしぶながらもトレスは了解すると、2つの機影は日本にあたる島国の上空を通過していった。
◇
ツインハックを倒し、滑るように滑走路を移動し、飛空艇に近づいたところでハルカはB3の武装を解除した。
地面に降り立ったと同時に少年の体がよろめく。
飛空艇の救助をしていたイツキが気づいて駆け寄り、ハルカの身体が倒れる寸前でその体を抱きかかえた。
「父さ……ん」
「ええ、見ていましたよ、よくがんばりましたね」
「人を、殺し……」
「守ったんです、君は僕らを、そして彼らを」
何かを堪え、嘔吐くように話すハルカの声を遮り、イツキが声をかける。
父の身体ごしに飛空艇から降りてきた子供たちを見て、ハルカの目に涙があふれた。
視界が、雨と涙でにじむ。
とどめをさした手の感触はまだ残っている。
けど、一方で父の服を握り締める手から伝わる温かな感触も確かに感じ取っていた。
ひとしきり泣いたところで顔をあげる。
「ごめん、救助の方は」
「それは……」
「無事に時間を稼いでくれたから完了したよ」
ハルカの問いかけにイツキが答えようとすると、傍らからケイトが答える。そして息子の頭をなでた。
温かい感触にまた涙がこみあげるが、舌をかんでなんとかこらえる。
息子の様子を見て、ケイトが苦笑し頭をなでるのを止めた。
ハルカと共に降りてきたノインにノウェムが声をかける。
「姉さん」
「ノウェム、ナノは?」
ノウェムが視線を向けると、ナノが戸惑いがちに立っていた。
ノインが近づくと、ナノに頭を下げた。
「どうか、感謝を。あなたは同朋の力になり、そしてみんなを助けてくれた」
「わたしは何もしてないよ。がんばったのはウコンだし」
「いやいや、姫君の力がなければ逃げることもままならなかった」
プロームから接続を解除したウコンがそう言うと、がたいのいい体をゆらして笑った。
「ええ、姫君はその決断を誇るべきです。これで我等の選択肢が増えたのですから」
狐目を細めて上品にサコンが微笑んだ。
「なんだ、お礼合戦をしてるのか。それなら、混ぜてくれないか」
話しているところに新たに声が混ざる。
そこには高校生ぐらいの5人の少年少女が立っていた。
ハルカが5人を見て驚く。正確には、5人が持っているプロームの元である素体を見て、だ。
「アストラル、ディザスター・ケインに清澄……」
「なんで俺らの持ってるプロームの名前を知ってるんだ?」
ハルカの漏らした言葉にリーダー格の少年が問いかける。
「あちこち逃亡生活してるから名前広まってるかもしれないよ、カナタ?」
「リュウの言う通り、まあ、それもそうか」
側に居た少年リュウから指摘を受け、リーダー格の少年・カナタは頭をかいた。
「えっと、だけど、会うのは初めましてだよな、初めて見たけど、すごい戦闘だった。アストラルの操縦者のカナタって言うんだ、よろしく」
その言葉にハルカの表情が固まった。アストラルとカナタの組み合わせは間違いない、チームメイトのものだ。実際に会うのはたしかだが、リアルもおそらく高校生なのだろう。前にログで話したときも、よくチーム内の5人でリアルでもつるんでいると聞いていた。
「B3の、ハルカ……です」
おそるおそる言葉を発する。
名前と機体名、知っているならこれを話せば気づくはず。
言葉を受けてカナタはああ、とうなずいた。
続く言葉は半ばハルカが予想していたとおりであり、同時に聞きたくない言葉であった。
「初めてきく機体名だが、すごいスペックだなあ。操縦技術もすごいものだが」
それは素直に賞賛するものであったが、“CosMOS”で共闘していたことを知らないという証明であった。他の面々もうんうんと感心したようにうなずくが、そこに記憶のあるような素振りはない。
ハルカのショックを受けた表情から、イツキとケイトが訝しそうな表情をうかべ、ナノが事態を飲み込めず首を傾げる。
「あ、あの……!」
いたたまれなくなって、ノインが声をかけようとすると。
「もしや、遭難者かな?」
一同に対して話しかける新たに声。
全員が驚いて視線を向けると、そこには一人の、顔を白い毛でうめた毛むくじゃらの老人が立っていた。
「まさか、首長!?」
ノインとノウェムが声をあげる。それに対して老人はちらりとノインとノウェムに意味ありげな視線を向ける。その視線を受けて、ノインとノウェムが沈黙した。
「こんな夜更けに難儀だったのう。幼い子供がたくさんいるようだし、よかったら屋根のあるところで休んでいかんかね?」
老人の提案にカナタたちは喜んだ。
「じいさん、いいのか?」
「かまわんよ。ケイオスがうろうろしている中で子どもたちを放置する方が問題があるだろうしの」
そして、戸惑うハルカ等の方を老人が見る。
「とりあえず、あれだけの闘いのあとだ。お前さんたちも休みに来るといい」
言葉を発しつつ、渡瀬家の4人の頭の中に同時に声が響く。
<ついて来れば、皆さんの疑問も多少は解決されるでしょう>
その声に、4人とも驚いた。カナタたちの方を見るが、老人の裏の声が聞こえた気配はない。
おそらく、ノインやノウェムの様子からフェアリスということは推測できた。
険悪な様子ではないし、悪いようにはしないはずだ。それに、疑問に対する答えを知りたい。
家族3人が戸惑う中、イツキは決断するように頷いた。
「わかりました、お世話になります」
☆幕間
首長というフェアリスに案内され、村のような場所に案内された。
気を遣ってくれたのか、その住居は日本式で、向こうで住んでいた4LDKの我が家を模している。
ハルカもナノも案内されるなり、精神的に疲れていたのか眠ってしまった。
ナノを自室に運び終えたイツキが寝室に来た。
そこではケイトがベッドに座って顔をしかめている。
「ケイトさん、どうしたんですか?」
「イツ君、ごめん、ここにかがんで」
真剣な声で言われ、ケイトの前に立って膝立ちになる。
座ったケイトに見下ろされる形だ。
「こう、ですか?」
イツキが問いかけると、突然ケイトがイツキの頭をなでくりまわし始めた。
「ちょっ、ケイトさん!? どうしたんですか?」
イツキが驚きの声をあげるか、ケイトは無言でわしわしと頭をなでる。
しばらくされるがままになっていたイツキだったが、考え込み、少し経ってから声をかける。
「もしかして、欲求が消化不良だったんですか?」
「うん。ハルもナノも自分で重い決断をして、行動したんだよ。えらいね、ってきちんとほめてあげたかったんだけど、ナノは早々に寝ちゃうし、ハルカはあんなこらえるような表情されたら、こんな感じでなでくり回すわけにはいかないし」
不機嫌なケイトの返答にイツキはようやく合点がいった。
「ナノはまあ、明日褒めるとして。そろそろその褒め方はハルの男としての沽券とか色々壊れるのでやめてあげてくださいね」
「わかってる! だからこうして我慢してるの!」
なで回されつつ、やれやれとイツキはため息をついた。
「ただ、そうなると僕の沽券はどうなるんでしょうかね?」
その言葉にケイトはぴたっと手を止めると目をきらん、と光らせた。
「別に今日示してくれてもいいよ?」
誘うケイトの目は妖艶でありながらどこか豹とか獅子といった肉食獣を思わせた。
妙齢の美女な上に30半ばでも、凹凸のはっきりとした魅力的な体型。それで誘われたら、いや、誘われなくても気持ちがどうにかなろうとしてしまいそうなことがある。
イツキが生唾をごくりと飲み込む。それと同時に自分の衝動も合わせてなんとか飲み込んだ。
さすがに今はそんな状況でないのはわかっている。
「狼になるのはまた今度にさせてください」
丁重にイツキが断ると、ちっとケイトは舌打ちをしたのだった。
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