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CosMOS  作者: 螢音 芳
Chapter.1
12/144

4. 曇天の空に

 ある区域の上空、雲よりも高い位置を4つの影が飛行している。

 真下の雲には人型に飛行機のような機械的な翼を足したような独特の形の影を映していた。

『こちらブラボー小隊、ウノ、各員応答を』

『こちら、ブラボー・ドュエ、問題なし』

『こちらブラボー・トレス、異常ありません』

 規則正しく応答が返ってくる中、遅れて無線の返答が返ってくる。

『…ブラボー・エース、退屈』

『エース!!』

 やや若い女性の、明らかにやる気のない声にトレスからの叱責が飛んだ。

『かまわん。実際、試験飛行の任務は退屈だろう』

『さすがは、隊長。話がわかる』

 ひゅー、という軽い口笛の音が各機の通信機に響く。

 そこへ、ががっという混線したような独特のノイズ音が混ざった。

『どうした、エース?』

 トレスの声にくくっというエースのくぐもった笑い声が返ってきた。

『こちらエース。異常を検知した。少し偵察してくる』

 告げるや否や、応答も聞かずに黄色い機影が雲の下へと降下していく。

『貴様、隊長の許可もなしに!』

『隊長、補佐してきます』

 怒るトレスの声に対して、ドュエが隊長へ冷静に進言する。

『ドュエ、随行を許可する。エースを頼む。身勝手だが、うちには無くなられると惜しい人材だ。くれぐれもロストさせるな』

『了解』

 機影がまた一つ、仲間から離れると、雲海の先の地面。本来なら領土ではない列島の中心部へと降下していった。



 ウコンとサコンと出会ってから3日。

 家族4人と精神生命体4人の珍妙な一行はトレーラーで旅を続けていた。

 トレーラーの後部座席で揺られながら、ハルカが窓から外を眺める。周囲は建物など特に何もなく、木々と岩がならんでいるだけで寂しい景色が続く。

 もう少し経てば今日の野宿先を決めないと行けない頃合いだ。

 空は暗く陰り、今にも雨が降り出しそうな天気となっている。

「よくない天気だな…」

 ぽつりとハルカが呟いた。

こういう日は視界が不良になるので、あまり戦闘になりたくない、そう思う。だが、なんとなくだが胸の奥底がざわざわするような嫌な予兆を感じていた。

「ハルカ」

 隣に座るノインがハルカに呼びかけた。見ればしっぽが膨らんでいる。ノインも嫌な予感を感じ取って緊張しているのだ。

「ノイン、もしかしたら出ることになるかもしれない、心の準備しておいて」

 ノインがハルカにうなずいた。

 それとほぼ同時。上空で爆発音が聞こえ、車体が音の余波で振動した。




 トレーラーを停め、運転席から降りたイツキが上空を確認する。

 ぽつり、という水滴が眼鏡のレンズの上ではじかれる。そのレンズ越しに見えたのは、一機の小型の飛行機が墜落してくる光景だった。

 ケイトも降りて、状況を確認する。その手には以前、ノウェムに頼んで作らせた双眼鏡があった。

「プロペラのところがやられたみたい、煙をあげている」

「あれは、飛空挺ですな」

 何事かを確認しにケイトの側に現れたウコンが告げる。

 ケイトがさらにズームをして、飛空艇内部の様子を探るために窓の中を見る。そのとき、車の真上を飛空艇がとおりすぎた。

 一瞬、窓から泣き叫ぶ子供の表情が肉眼のイツキの目にもはっきりと見えた。

「イツ君!」

「ええ!」

 ケイトの呼びかけにイツキが素早く反応した。2人とも急いでトレーラーに戻り発進させ、慌ててウコンも中に戻る。

「お二方、何事か!?」

 ぬいぐるみ状態のサコンが問いかける。

「子どもが乗った飛空艇が墜落するのが見えたんです。救助に向かいます!」

 迷いなく決断したイツキの言葉に、ウコンとサコンが体を震わせた。

 助手席からケイトが後部座席に向かって叫ぶ。

「ハル! 聞こえてる!?」

「聞いてた、出れるよう準備できてる!」

「なら、先行してください! できればフォローと状況の報告を!」

「了解!」

 イツキが言いつつトレーラーのスピードを緩め、後部ハッチを開けた。

 トレーラーの後部に振り出した雨の水滴が入ってくる。

 B3の武装である長剣をそのまま小さくしたような物体をハルカが握りしめる。

 長剣の形をしたそれは、プロームの素体であり中にそのままB3の機体が保存されていた。

 降りることができるよう体勢を整えるハルカの背中へ、サコンがひっつく。

「待たれよ! 某もついていけば、先行して墜落する先を平地にできまする」

「わかった!」

「おにい、気を付けて!」

 ナノの声を聴きつつ、駆け出し、トレーラーの外に出ると同時に叫ぶ。

「アクティベート!」

 空中に放り出されながら、ハルカが叫ぶ。持ち主の声を受けて素体が輝き、少年の身体を取り囲むように、プロームが形成、復元されていく。

 人型の機械の姿が完全に露わになり、機械の脚で地面を滑り、勢いを殺す。そして機体の向きを変えると、飛空艇が降りてくる現場に向かうべく、脚部のスラスターが激しく光を放った。


 加速。


 B3の速度は軽くオフロードカーの最高速に近い領域に達している。最初の機体のスペックを考えたらあり得ない速度だ。

 だが、繰り返された学習と強化、そして得られた素材から試行錯誤を重ねた結果、ゲームの頃とは比べ物にならない性能を生み出していた。

「なんと、速い!」

 ハルカの背中で、サコンが驚きの声をあげる。

 荒地を走っているのに、これだけの速度で走っていても、衝撃や揺れが少ないことも驚嘆に値する。

「サコンって、さっきの話だと、元素変換で物を作り出したりするのは得意なんだよね?」

「そうです」

「だったら、道路を作れる? なるべくカーブの少ない、イメージは高速道路みたいなの」

「あいわかりました!」

 森と岩場の道では追いつけない。それに、燃費もわるくなってしまう。

 ハルカに頼まれ、イメージに近い道をサコンは抽出する。

「サコン、飛空艇の墜落予測地点をモニターに出します、そこまでお願いします」

 ノインがモニターに地図を表示させ、それを見てサコンがうなずいた。

 サコンの体が光ると、B3の足元が光り、要望どおりのアスファルトの舗装された道ができあがる。

「予測地点まで道をつなげましてございます!」

「ありがとう! 今出せる最高速を出すからしっかりつかまってて!」

 B3の背部、脚部のスラスターが青白く光り、その加速がいっきにあがった。

「お、おお!?」

 周囲の景色が先ほどよりも数段も速く、背後に流れていく。

(な、なんなのだ、これは!?)

 サコンが、予測もつかない速度に内心で悲鳴を上げた。舗装された道を走っているからとはいえ、こんなスピードがプロームで出せるなんて聞いたことがない。

「ノイン、父さんたちにメッセージ送って、道路作ったことを教えてあげて」

「もうノウェムに送って伝えているのです」

 2人でこの加速を何事もないかのように話していく。

 救助するという使命、そのことで集中しているようだ。

(いやはや……)

 サコンはフェアリスと人間が協力する、その様子と意味を2人を見ながら考えさせられた。



 飛空挺内部では墜落寸前の状況でパニックに陥っていた。

『なんとか高度保てるか!?』

「いや、無理だ、プロペラがやられて維持できない」

 飛空艇を操縦している16、17歳ぐらいの少年が外で戦う仲間に対して返す。表情は険しく、汗が滴っている。

「周囲に降りれそうなところないよ!?」

 飛空艇の管制機、レーダーを見ながらミドルボブの少女が叫ぶ。

 飛空艇の内部は子供たちの阿鼻叫喚の声で埋め尽くされていた。

「リュウ、戦況は?」

 操縦している少年が無線機を通じて飛空艇の重火器関係の操作席に座る少年に尋ねる。

「よくない。相手は、プロームに飛行ユニットをつけてるみたいだ。飛空艇の上でケンジとアヤメが応戦してくれてるけど、ほとんど意味はない」

「ちっ陸地戦に持ち込めれば勝機はあるのに……!」

 泣き叫ぶ子どもたちの声と状況の深刻さから思考がせまくなっていく。

 (どうすれば……!)

 そのとき、がががが、という無線音が入った。

『……ま、か……! 応……答を! 聞こえますか!?』

 通信機から音声が流れる。それは自分たちとかわらない少年の声だった。

「聞こえてます、どうぞ!」

 通信管制している少女が操縦している少年の代わりに答える。

『良かった! そこから北東の方向、えっと、飛空艇も北を向いているから、2時の方向、20km先に平地があるのが見えますか!?』

 通信機から届く少年の声に通信管制の少女がレーダーの範囲を広げる。降りしきる雨で視界は悪いが、赤い光がライン状に続く平坦な場所が見えた。

 さっきまではなかったはずなのに、と少女は戸惑うが、これほどうれしい状況はない。

「カナタ! 2時の方向、滑走路がある!」

「ルイ、見えてる! そこ目指して着陸させる。リュウ、ケンジとアヤメに近づけさせるなって連絡送ってくれ!」

「了解!」

 リュウと呼ばれた少年が無線を外で奮戦しているプローム操縦者に飛ばした。




 機体のコクピットにて、漏れ出た飛空挺内の通信内容を聞いて、ハルカは驚いていた。

「リュウ、ルイ、ケンジ、アヤメ、それにカナタ……??」

「どうしたんですか?」

「いや、たぶん考えすぎかもしれないけど」

 自信がなさそうに話しつつも、ハルカの心臓は早鐘をうっている。

 その名前は、ゲーム“CosMOS”でチームを組んでいたチームメイトの名前だったからだ。

「もしかしたら、知り合いかもしれない」

 少年の言葉に、ノインの表情がモニター内でぴくり、と震えた。

 その様子を見て、サコンが言わんこっちゃないというようにぬいぐるみの首をふる。

「い、いやそうかもしれませんが、ですが、それは……」

 歯切れの悪いノインの言葉にハルカが首を傾げていると、遠かった飛空艇の機影が近づいてきた。

 B3を走らせ、滑走路の終点に立ち、そして信号弾をうちあげる。着陸の体勢に入れ、という合図だ。

 信号弾の意図を察して、飛空艇の機首が下に下がる。飛空艇の下から車輪がおり、アスファルトの地面につく、雨でややスリップするがバランスをとる。

 イツキが見たら、なんと質の悪いタイヤだ、と憤慨しそうだが、操縦者の腕で補い、見事にバランスをとって飛空艇は滑走路に着地を決めた。

 飛空艇の上部には、見覚えのある緑とベージュの機体が見える。

「風招に、マックスガイツ……!じゃあ、やっぱり」

 見覚えのある機体を見てハルカが喜んだのもつかの間、いきなり通信が入った。

『そこのプローム、気を付けて。攻撃が来る!』

 警告が飛んできたのと同時。

 B3が居た箇所に何かブーメランのようなものが飛来し、横っ飛びにかわした。

「今のは……!」

『へえ、僕の攻撃を投げた後に気づいてかわせたのはキミが初めてだよ』

 通信機に入った別の声。それと同時にモニターに新たなプロームの出現を示すマーカーが映し出される。

 B3が視線を向けると、そこには手斧のような武器を握る黄色いプロームが飛行ユニットにささえられ、飛んでいた。

 その機体にもハルカは見覚えがあった。

「ツインハック……!」

 ソロで有名なプレーヤーであり、範囲攻撃も可能な手斧を武器にしつつ、縦横無尽に攻撃してくる強いプレーヤーだ。

 だが、このプレーヤーが最も名をあげているのが、対人戦、それもオーバーキル気味のプレイヤーキル行為からだ。手斧がユニオン内の同盟プレーヤーに当たるのを意にも介さず、ケイオスを殺しまくり、そして、敵対ユニオンのプレーヤープロームを戦闘不能な状態でも切り刻む。

 その残虐な行為は嫌われつつも、ダークヒーローのように一定のファンを獲得していた。

「あれ?僕のこと知ってるの?うれしいなあ、もしかして僕のファンだった?けど、キミの機体、見たことないねぇ……見たところ、所属も書いてないし」

 ツインハックがB3に機体の頭部に当たる部分を向ける。獲物を舌舐めずりしながら、見定めているような印象だ。

 覚えがなくてもしょうがないかもしれない、互いにサーバーが違うので対人戦では当たったことはないし、それにゲームの時とは明らかにB3の外観も変わっている。

「まあ、いいや。簡単に獲物が落ちちゃったからつまらないと思ってたんだ、相手をしてよ!」

 ツインハックが、飛行ユニットを引きちぎるように飛び降りると、脚部のスラスターを光らせ、一目散にB3に襲いかかってきた。



 迫り来るツインハックの左右の手斧の連撃をB3は機体を傾けてかわしていく。

 右、左、斜め、横、左斜め。

 縦横無尽の連撃だ。

「あっはははは! すごい、すごいねえ! この速さについてこれるんだ!」

 ツインハックの操縦者の嬉しそうな声がコクピット内の通信機から聞こえる。

「ねえ、本当にどこの所属なの!? ユエルビア? シーナ? それともサザンの貴族院?まさかノトスって言わないよねえ?そしたら戦えなくなっちゃう!」

 話しながらも斧の連撃は止まることなく追い詰めていく。

 相手の攻撃をかわしつつ、ハルカは相手の話を聞くが、そのどの名称も聞き覚えはない。

(なんのことを言ってるんだろう?)

 戸惑うハルカをよそに、ノインもサコンも沈黙を貫いていた。




 滑走路にトレーラーが到着し、車を降りずにイツキ達は様子を見る。煙を上げている飛空挺の脇で、B3が他のプローム機体と戦闘をしている際中だった。

 戦況を見ると、B3からは攻撃せず、かわすのみにとどめているようだ。

「負けるような戦いじゃない」

「ええ、ですが、初めての対人戦です」

 ケイトとイツキが戦況を見つつ、呟く。

 息子の技量を2人とも信じてはいる、が、この世界で相手してきたのはケイオスだけで、対人戦は初めてだ。

 この世界では死ぬことはないことはフェアリス達から聞いている。しかし、今生きている場所は、決してゲームではない。

 それゆえ、対人戦であっても躊躇して攻撃に踏み出せないのかもしれない。そうとなればB3では勝てないだろう。

「おにいが、負ける……?」

 ナノの声に、イツキもケイトも沈黙する。それは、娘の言葉を肯定することを意味していた。

「そんな……」

「ナノ……」

 ノウェムもB3が戦う様子を見ているが、その戦況は芳しくないとわかる。

 もし、自分たちがあらかじめこの惑星の事情を説明していれば、ハルカも迷わず戦えたのかもしれない。

 けど、そんなのはたらればの話であって、今はなんの慰めにもならない。

「せめて、おいが出られれば……」

 ウコンが落ち込むようにうなだれる。

 本来、フェアリスは不干渉を貫いてきていた。しかし、このように地球人同士が争うよう仕向けたのもフェアリスなのだ。望まぬ争いを止めるためならば、罪をかぶるのも辞さない。

 けど、身体のない彼らには介入する方法がない。

 悲痛なウコンの声。

 それを聞いて、決意するようにノウェムが顔をあげた。

「ナノ、お願いがあります」

 ノウェムがナノの顔を見ながら問いかけた。

「私と、精神を重ねてくれませんか?」

 ノウェムから突然言われた言葉に、ナノが首を傾げる。

「ナノ、私には精神を伝達させる、思念伝達が得意という特徴があるのです。そして、この力は人と精神を重ね合わせることで強力な力に変化させることができる。それを私達の間では感応能力というのです。その力を使えば、精神体同士でしか伝達できないという制約を超えて、フェアリスが無機物を動かすことができるようになる。フェアリスでもプロームに乗ることができるようになるのです」

「感応能力……」

 ナノがつぶやくと、ノウェムがうなずく。

「感応能力は、私達にもどうしてそのような反応が起きるのか不明で、本当だったら、精神を重ね合わせたことで得られる力は予測がつかないものになるのです。でも、意図した能力を得る方法が一つだけあるのです」

「それって?」

 ナノが問いかけるのに対してノウェムはちらりとイツキとケイトのことを見る。

「それは、私とナノで寸分の狂いもなく同じ力が欲しいと望むことです。そのために互いの精神を重ね合わせるだけでなく、完全に互いの心をさらけ出さないといけないのです」

「互いの心をさらけ出すって?」

「良い感情、醜い感情、恥ずかしい感情、それらをすべて互いに見せ合うことになるのです。それでも拒絶せず、受け入れて同じことを願う。口で言うのは簡単ですが、難しいことなのです。そして……」

 ノウェムは言葉を切るとうつむくが、顔を上げた。

「成功したとしても、感応能力を得た人間はそのあと、どんな変化が起こるのかはわからないのです。私の得意な力は精神体同士の精神的なつながりをもたせるもの。もしかしたら、その能力がナノの方に常に発現するかもしれないのです」

 ノウェムの言葉に対してイツキが思案する。

「もしかして、テレパスやサイコメトリーみたいな力を得る、ということでしょうか、だとしたら……」

 不意に人の過去が見えたり、人の精神を奥深く覗いてしまうかもしれない。それは、ナノが今後人付き合いをしていく上で大きく影響する、場合によっては障害となることだった。

 受け入れることはおろか、躊躇、拒絶するのも当然のことだ。

 しかし。


「うん、いいよー」


 友達の頼みを軽く引き受けるかのように承諾した娘の言葉にイツキ、ケイト、ノウェムはずっこけそうになった。

「ナノ、ちょっと待ちなさい!」

 流石に剛毅なケイトもこればっかりは目を剥いて止めに入る。

「自分の恥ずかしい感情をさらけ出すだけじゃなくて、超能力者になるかもしれないってことなんですよ?それがどれだけ重いことかわかってないんですか!?」

 イツキが珍しく唾を飛ばさんばかりの勢いでナノに言い、その様子にナノもおおぅ、と引き気味になる。

 対して、ノウェムは当然だ、というようにイツキとケイトの反応を見ていた。躊躇するのが本来普通なのだ。

 両親からの反対にうーん、とナノは悩むように唸ると言った。

「じゃあ、どんな気持ちだったら、ノウェムの話を受けていいの?」

 率直なナノの質問に、イツキもケイトも、気づいたように黙り込む。

「どれだけ重い覚悟を決めればいい? そしてそれをどうやって示せば納得してくれる?」

「そ、それは……」

 矢継ぎ早のナノの質問にイツキがたじろぐ。

「どんな覚悟を決めてもさ、どんなことを示したってさ、これって何の証明にならないと思うし、お父さんとお母さんを納得させきれないと思う」

 まっすぐにナノはイツキとケイトの目を見て話す。

「ただ、私はノウェムとだったら、だいじょうぶだって思ってる。見られても平気だし、ノウェムのことを知るんだから怖くない。超能力者がどんなことか想像はできてないけど。それはやってみないとわからないだろうし」

 そこで、ナノはちらりと傍らで戦闘するハルカのことを見た。

「おにいとノインが頑張ってて、お父さんがおにいを支えてて、お母さんがみんなを引っ張ってて、ノウェムが提案してくれてる。みんな自分ができることをやってる中でさ……」


「私だけできることを前にして逃げるなんてできないよ」


 はっきりと意思を示すナノは悲しそうな表情をしていた。この星に来てから、ナノ自身、自分が役に立てていないことはわかっていた。

 一番幼いから、そんなことで単に守られているだけは嫌だ。何もしないのも嫌だ。

 だから、選択肢があるのなら、選びたいと思ったのだ。

 イツキとケイトがナノの言葉に絶句しつつも、同時に思う。ああ、この理路整然とした言葉と物事の決め方は紛うことなく自分たちの娘だ、と。

 ノウェムも驚く中、ナノは微笑み、受け入れるように両手を広げると言った。

「おいで、ノウェム。私は、だいじょうぶだから」

 

次の更新は3/6を予定しています。

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