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4、怒らせてはいけません

「落ち着いた?」

「…はい。お陰様で…何とか…なってないですけど何とか…」

「はははっ。これはどうやら思考パニック中かな?」


何が楽しいのか、垂れ目の男はふにゃりと笑いながら右手を宙にかざす。すると突然何もなかったそこに一冊の分厚い本が出現した。


……もう何も驚かないぞ……


心を無にして目の前で繰り広げられる摩訶不思議なことを流す。


そんな私を余所に、垂れ目の男は突然出現した分厚い本を開くと、何のためらいもなく本の中に手を突っ込んだ。


もう、何も驚かな…


「えー!!?」


訂正、やっぱり摩訶不思議な出来事に対応出来る程、私はまだこの世界に馴染めていないようだった。


「ん?ああ、そっか。召喚されたキミにとってはこんな些細なことも衝撃的なことなんだね。でもちょっと待ってね。こちらも色々と手続きが必要なんだよね。」


驚く私を余所に垂れ目の男は、さも当然のように本の中に吸い込まれた…と表現して良いのだろうか、とにもかくにも本の中に入ってしまった手を何やらごそごそ動かしながらブツブツと独り言を洩らす。


「それにしても最近召喚者が急上昇中だなあ。この世界もいよいよ崩壊かなあ。」


またサラリと知らない情報を洩らす垂れ目の男、否、垂れ目。そして同時にこれまたサラリと怖いことを言ってのけた。


「世界が崩壊って……?」


突然訳も分からず召喚されたこの世界。

なのにこの世界が崩壊したとすれば、この世界にいる私は一体どうなるのだろう…


「ん?そのままの意味だよ。世界が崩壊する、つまりこの世界が消滅するってこと。此処に住んでいる者が皆消滅する。勿論ボクもキミも、ね。」


「………ははは、」

渇いた笑いしか出なかった。


どうやら突然召喚された世界で私は消滅する、らしい。


「私の人生、思ったり短かったな……」

「いや、まだ消滅するって決まったわけではなー」

「あー、こんなことなら異世界だろうが恋するべきだったなー。」

「いや、だからまだ消滅するってきー」

「転移出来たんだもの。転生だって出来るよね、きっと、うん、そうだよね。願わくば来世に期ー」


「ねえ、そろそろ怒って良いかな?」


何でだろう。幻覚かな?垂れ目から何やら黒いものが見える…それになんだか急に寒くなってきたぞ…笑っているのに笑っていない目。黒い笑みに

先程とはまた違う震えが身体を襲う。


本能的に危険だと、この垂れ目を怒らせてはいけないと告げる。


「す、すみませんでした…」


条件反射で謝罪の言葉が漏れる。

さすが思いやりの国、日本のもと住人。


ガクガク震えながら垂れ目を見る。

垂れ目は尚も黒い笑みを浮かべながら


「ヒトの話はちゃんと聞こうね?」


と、それはもう諭しているようで諭していない。

絶対的で逆らうことが出来ない威圧感。


私はというと、ただただガクガクと頭を縦に振るしか他なかった。


「ふふ、分かれば良いんだよ、分かれば、ね?」


これが乙女ゲームなら綺麗なスチルが入るんだろうな…と現実逃避にそんなことを考えてしまった……


私、この世界でちゃんとやっていけるかな…?きて早々、自分の立ち振舞い1つで世界が崩壊する前に、自分が先に消えてしまう…とそう思わずにいられなかった……


「ーと、よし。手続きOKかな。」


そんなことを考えている私を余所に、垂れ目は先程のことなんかまるで何もなかったかのように、また自然と振る舞い始めた。


分厚い本から手を抜き出す。

その手にはまたもや分厚い本が持たれていた。


マトリョーシカ?そんな下らないことを考えながら取り出された分厚い本を見る。


黄色い重みのある表紙の分厚い本。垂れ目はその本を事も無げに私に差し出してきた。


「はい。キミの本だよ。」

「…………。はい?」


脳内花畑宜しく脳内?畑だ。

この垂れ目は何を言っているんだ?


「あー、そこからかあ。この世界の理を話さないといけないのかあ。ボクそういう説明苦手なんだよね。うーん、でも仕方がないかあ。うん、仕方がない。仕方がないんだよ。」


何やら自分に言い聞かせるように垂れ目は独り言を溢すと、一度目を閉じ、深呼吸をした。そして次に目をあけると、あのふにゃりとした笑みを浮かべながらこの世界の理を話し始めた。







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