3、やっぱり現実逃避したいです
酔いと闘うこと数10分。
私なりに分かってきたことがある。
それはこの世界においてのモブの存在だ。
顔に霧がかかっているかのようにぼやけてるモブの顔。試しに私の顔がどう見えているのか、近くの建物の硝子に映る自分の顔を見る。
そこには見慣れた平凡な顔が映し出させていた。
いや、さ?そこは分かっていたことだけどさ、どうせなら主人公補正として可愛くなったりしなかったのかな?
でも、まあモブ=顔がぼやけてる
が正しいのなら顔がぼやけていない私は少なくともモブより上の存在だということだ。
それだけでも大きな収穫だと言っても良い。
と、いっても私が勝手に顔がぼやけてる人=モブと定義着けているだけで、本当のところはこれが正解なのかすら知らない。知り得ないこと。
ならば次なる課題は顔がぼやけていない人物を見つけ出すこと。顔がぼやけていない人とぼやけてる人の違いが分かれば、更なる課題にへと繋がるはずだ。これを繰り返していけばこの世界の理も理解出来るはず…
今はそう信じて行動する以外為す術もなく、私は尚も歩きだす。
未だ世界はぐにゃぐにゃと変形していく。
この世界の住人達は良くもまあ歩けるものだ。と1人感心しながら歩いていると、いつの間にかぐにゃぐにゃと変形しない場所に移動していた。
「ここは…?」
目の前に広がる景色。
地面や建物、風景がぐにゃぐにゃと変形しないこの場所は幾分身体が楽だ。
だが、どう転んでもこの世界は異世界。
そう、現実めいてはいない世界なのだ。
だから例え箒で空を飛んでいても、背中に羽が生えて空を羽ばたいている人がいても、鎧兜やあからさまな黒のローブを着ている人がいても、ドラゴンが炎を吹き出していても可笑しくはないのだ。
そう、可笑しくはない。可笑しいのはこんな世界にやって来てしまった私という存在だけだ。
「これ、本格的にこれからどうしたら良いのよ…」
目の前で繰り広げられる不可思議な光景。
喜ばしいことに、この場所にいる人達にははっきりとした顔がある。
私の仮説が正しければ、この人達はモブではない主要人物であるということ。
悩んでいても仕方がない。ここは玉砕覚悟で尋ねてみるか……
主要人物であろう人達なら、少なからずこの世界の理を知っているかも知れない。モブの人達に尋ねることが出来なかったことも、ここの人達なら聞けるかもしれない。そう自分に叱咤して一歩前へ進みだそうとしたその時
「そこの人?勝手に入国するのは禁止されているはずだけど…どうして入っちゃったのかな?」
突然後ろから話掛けられた。
物腰柔らかそうな男の人の声だった、それなのに何故だか恐怖を感じてしまう。
身体が動かないとは正にこのこと。
よくホラーものの主人公って、お化けや怪物らと遭遇した時に動かず固まってしまっているとこが多いが、私にとってはそれが不思議でしかなかった。
固まるからお化けに殺られるのだ。
そう思ってた、でも実際この立場に置かれると否応なしに固まってしまうものだな。
「………。」
「ねえ?聞いてるの?おーい。」
聞いてます!聞いてます!
心の中ではそう言えるのに口からは何も発することが出来ない。
カタカタと震える身体に鞭打って後ろを振り向く。まるでからくり人形になったみたい…心の中で苦笑いをしながらゆっくり、ゆっくりと振り向く。振り向いた先にいたのはー
「あれ?驚いた。0(ゼロ)の国からの不法入国者なのに顔がある。」
目を丸くしても格好良さが損なわれない創りの綺麗な男が立っていた。
長髪の黒髪をうなじで1つくくりにしているこの男。男なのになんでこんなにサラサラキューティクル艶々の髪してるのよ。なんて悪態を心の中で呟きながら男の目を真っ直ぐに見据える。
少し垂れ目なこの男。右頬に黒子がある、わけでもなくサラサラ艶々な黒髪が男の頬をつたう。
……あれ?そう言えばあのタロット占い、全然当たってないじゃないか。
占いによれば175センチ、3人兄弟次男、右頬に黒子、つり目、お金持ちだったはず。
だが、目の前にいるこの綺麗な創りの男は、つり目処か垂れ目であるし、右頬に黒子もない。身長は確かに175センチはあるかもしれない。だがぱっと見ただけで何センチなのかは理解出来ないし、ましてや見ただけで3人兄弟の次男なのか、お金持ちなのかという点については確認をとることが出来ない。
こんなことなら課金して有料版も読んでおけば良かった……
そんなことを思いながら男を見る。
綺麗な創りの男は、これまた綺麗な笑みを私に向けて投げ掛けてくれる。
あ、駄目。目の保養を飛び越えて目の毒ね。
「ふーん。成る程…キミは0(ゼロ)の国の住人ではなく、召喚でこちらに来たわけか…成る程ね。」
「ーっ!?」
さも当たり前のように、私が知り得たかった情報を洩らす。
「え、え?え!?ちょちょ!どういうこと!?」
突然のカミングアウトに、私の頭は遂に機能停止してしまいました。