2、現実をみてみよう、否、止めよう
さて、そろそろ現実を見てみようか……否、まだ認めたくはない。
異世界転生、異世界転移でのつきものは正に恋愛フラグ。
いやいやいや、私もう26だからね?女子高生や若い女の子が乙女ゲームをしてきゃっきゃ言っている年齢ではなく、現実的な年齢だ。否、26でも乙女ゲームの類いは結構好きだ。ただバーチャル世界と現実世界を織り混ぜて目を背け続けるのにはそろそろ痛い年齢だと言うこと。
こういう世界での攻略キャラと呼ばれる登場人物はそれはもうキラキラしていて若いことが多い。そんな攻略キャラ達が自分で言うのも悲しきかな、対して取り柄もない見た目平凡の其なりの年齢の私を娶ってくれるか否か…
いやいやいや、第一に私はまだこの見知らぬ異世界で生きていこうとは考えていない。転移あるあるフラグからするに、もう元の世界には帰れません。がつきものだが、そこはこの際気付かなかったことにする。どうにかしてこの見知らぬ異世界から元の世界に帰る方法を考えなくては…
「でもどうやって…?」
試しに自分の両手を見てみる。
転移あるあるその1が異世界での恋愛フラグ。その2が元の世界には帰れません。そしてその3は元の世界に帰れない主人公の救済措置ともいえる不思議な力、だ。
きっと私にもそういった類いの力が救済措置として備わっているはずだ。
そう思い両手をまじまじと見る。見る、見る、とにかく見る。次に念じる。念じる、念じる、とにかく念じる……も、何も発動しない。
「え、ちょっと待ってよ。何の救済措置もなく普通異世界に放置しちゃう?なんて無責任なのよ…」
一体誰に文句をつけて良いものか…悪態をつける相手がいるわけもなく、私は1人項垂れる。
それにしても
「この世界ってどうなってるの……?」
よくある転移物語だと、乙女ゲームの世界だったり…否、その場合は転生のほうが多いか。転移物語だと魔法の使える世界だったり、争いの絶えない世界だったりとかで、とにもかくにも何か事件が起きるのだ。そしてその事件やらに巻き込まれた主人公を守るべく攻略キャラが主人公を迎えにくる…これがあるあるの流れ。
のはずなのに……
「なんであるあるのお決まり通りに進まないのでしょうね…」
目の前に広がる不思議な光景。
地面や建物、風景が定期的に変化し続ける不可思議な光景。
それはぐにゃぐにゃと形を変えていっていると言うのが一番伝わりやすいだろうか…粘土で作った作品をもう一度捏ね直して新な形を作るーそんな感じで今も尚変化し続ける地面や建物、風景に、だんだん酔ってきた。
元々乗り物酔い、臭い酔いが激しい私にとってこのぐにゃぐにゃ世界は厳しい……
「どうしてこんな世界に私を転移させたのよ…」
誰にも届くことのない悪態が無情にも口から出た。
「そりゃあ現世での恋は諦めた、来世に期待って言ったけどさ、だからってこんな訳のわからない世界に転移とか、ほんと聞いてないから……」
一度出た悪態は、更に拍車をかけるかのように出てくる。
「なんなのこれ、夢オチ?夢オチなの?夢オチならさっさと目を醒ましなさいよ自分!こんな訳分からない世界に何時までも居たらダメよ!三半規管が悲鳴をあげてるから!」
こんなにも叫んでいるのにも関わらず誰も見向きもしない。
それ処か
「なんであの人達の顔がぼやけてるの?」
この世界に住む人達、通称モブと呼ばれる人達の顔は、顔であると認識は出来るものの、ぼやけており目や鼻、口等が見えなかった。
「なんでなんでどういうことよ…」
気持ち悪い、目が回る、頭が痛い……
いっそそのまま気を失ったらどんなに良かったか。
だが無情にも私の身体は無駄に丈夫で、気持ち悪いものの倒れる前兆が1つも起きない。
「とにもかくにも、此処にじっといても始まらないし、気分転換も兼ねて歩こうかな、酔うけど…」
今にも吐きそうな程酔いが回って気持ち悪いが、このままじっとしていても始まらない。
そう、物語は始まらないのだ。仮にこの異世界の主人公が私だとして、主人公が動かなければ物語も動きはしない。思い通りに進まないこの世界において、私は考えられるフラグを1つ1つ回収していかないといけない。
1つ1つ回収をしていけば、いつかこの世界の理に気付くかも知れない。そうすれば私がこの世界においての存在理由が見つかるかも知れない。
そう自分に叱咤して鈍る足を進める。
願わくば元の世界に帰れますようにー
この願いが叶えられるのか否かはまた後日にでも……