02
「ただいまー。」
「お帰りなさ……ってあれあれ?友達~?」
「いや、ちょっと色々あってね。」
「あらそっかー。取り敢えず上がって行ってよ。お茶位出すからさ。」
「「お邪魔します。」」
そのまま三人は、玄関から二階の拓斗の部屋へ向かう。
「さっきのおじさんは、拓斗さんのお父さん?」
「ううん、違うよ。元は親戚の叔父さん。」
「両親は外出中なのか?」
「それも違う。幼い頃、両親は事故で亡くなったから……。」
「あっ……。ごめんなさい。辛い事思い出させてしまって。」
白服の女は黒服の男の脇腹に重い一撃を喰らわせた。
「グフっ!!?」
「ん?どうかした?」
「いえ何でもありませんアハハ。」
そうこう話している内に、部屋に辿り着いた。取り敢えず部屋に入ると、女は空いてるスペースに姿勢良く、正座をし、男はベットに座った。
「君、意外と初対面なのに、自分の部屋みたいに使うね。」
「君じゃない。俺の名前は、獅子野恭司。」
「あ、ごめん。えーと……恭司って呼んでいい?」
「好きに呼べ。」
「それから君は……」
「私の名前は、花谷結菜です。」
「じゃあ、花谷で……」
「何で私は名前じゃないんですか?」
「いや、いきなり初対面の女性に対して、呼び捨ては……」
「大丈夫です。別に私、気にしないので。」
「でも……」
「名前で呼んで下さい。」
「……はい。」
結菜から見える謎の「名前で呼んでください。」オーラに、気が弱くなってしまい、名前で呼ぶ事になった。
「取り敢えず、まずは俺達、二人の知る信崎拓斗について話す。まずは結菜、お前からだ。」
「何か言い方引っかかるけどまぁいいや、えーとですね。私の知る拓斗さんは、この時代から数か月後に、ある敵と出会います。そして数年に渡って決着が着きます。ですが、まだ残党も残っていて、拓斗さんは私の居た時代でもなお、活躍し続けています。」
「じゃあ、その敵の残党狩りを、僕は君の時代で行っていたんだね。」
「はい。ですが、時間を遡って来て、こんな言い方は適切では無いかもしれませんが……」
「何かあったの?」
「実は最近、未来の貴方が、敵と闘った時に得た力を、制御出来なくなってるみたいなんです。」
「そう。でもそれは、まだ確信になってる訳じゃないみたいだし、置いておこう。」
「じゃあ次は俺だな。」
恭司は、腕を組みながら腰を落とした。
「うん。お願い。」
「俺の知っているアンタは、さっきその女が話した通り、この時代から数か月後に生じる敵を倒す。だが、何時からか。いきなり街を壊滅させた。次第にそれは広がり世界規模になった。世界中の軍隊はアンタを本気で殺しに掛かったが、核でさえ、アンタを倒せなかった。」
「それは何ていうか、怖いな。」
「怖いのはこっちの方だ!この時代に比べて、人間の人口の六七割りが減少したんだ……。殆どがアンタに殺された。勿論、俺の仲間も!」
恭司は怒りを顔に出し、興奮のあまりか、その場に立ち上がった。
「待ちなさい!まだ話は終わっていません!貴方の時代の今現在の拓斗さんは、何をしているのか、説明して下さい。怒るならその後でもいいでしょう。」
「分かった。此奴は、俺の時代で現在日本の何処かに住みついてる。そして生き残っている人を……殺し続けている。」
悔しそうに強く拳を握り、喋る恭司の様子を見た拓斗は、彼の気持ちを察した。自分が彼に対して、謝り切れない程の辛い事をしてしまった。
「そっか。二人共、有難う。特に恭司、君には本当に辛い思いをさせたみたいだね。」
復讐の相手からの同情に恭司は怒りが抑えきれなくなり、拓斗の胸倉を強く掴んだ。
「止めなさい!恭司。」
「うるさい!!此奴は、此奴にだけは同情されたくない!俺は元々お前を殺す為にこの時代に来たんだ。お前の事は、俺にとって復讐対象でしかない!そんな奴に、何故同情されなくちゃいけないんだ!?」
彼の目を拓斗は、じっと見つめた。そして理解した。彼は憎しみ囚われ、動いている事に……。
彼を如何したら少しでも、憎しみから解放できるだろうか?
そして自分なりに答えを見出した。
拓斗は、胸倉を掴んでいる彼の手に、自分の手を重ね、口を開いた。
「恭司。そんなに僕が憎い?」
「ああ。今すぐ殺したくて溜まらなく憎い!!」
「じゃあ、殺していいよ。」
「は?」
「拓斗さん!?」
「ただ、ほんの少し……ほんの少しでも、憎しみ以外の感情があるなら。もう少しだけ待ってくれないか?」
「何故だ?殺してもいいなら今すぐ……」
「見極めてほしいんだ。僕が本当にその最悪の魔王に成るのかどうか……この時代からまだ数か月は残っているのだろ?だったらその闘う時、見て、決めてほしい。もし、殺すという結論に至ったのならば、その時は、抵抗せず、君に殺されると誓おう。」
真っ直ぐに彼の目を見つめる拓斗に対し、恭司は我に返り、手を放そうとする。
だがその手を拓斗は、決して離さない。そしてただ只管見つめてくる。
その瞳をしばらく見つめると、恭司は理解した。この人は、本当に死ぬ覚悟を持ってると……。
「分かった……。今、この時代のアンタを殺すのは止めた。」
「恭司。」
「勘違いするな。俺はこれからアンタが力を手に入れる時代、此処から三か月後の時代に行く。そして結果が変わったか見てくる。変わってなければ殺す。」
拓斗が手を離すと、そのまま直ぐに部屋から出て行った。
「拓斗さん。私も未来がどうなっているのか見に行かなくちゃ……。」
「うん。じゃあね。」
「はい。また未来で。」
別れを告げると結菜も続いて部屋に出て行く。
さっきまで少しだけ煩かった部屋が、静かになった。
拓斗はベットに飛び込む様に横になる。
自分の未来の結末。敵を倒して英雄に成っている自分。
もう一つは世界を滅ぼす魔王。
正直、全然ピンと来ない。
だが全ての始まりは、三か月後。そこで道を間違わなければいいだけだ。そうだ。
そう自分に言い聞かせ、睡眠に入った。