第98話
「……」
「本当にすいません! 忘れていた訳では――」
「いいのです。私の事など。エルミと仲良くさえしてくだされば」
「本当に申し訳ありません。ステンカ殿にもお土産はあるのですよ! 以前にも『お土産はダメだ』と言われておりますが、やっぱりお世話になっているので受け取って頂ければ……」
「気を使わないでください。ケンタ様はエルミと仲良く経営をしてくだされば」
土下座をする勢いで謝罪をしている健太に、ステンカが虚ろな目で答える。エルミやゲンナディー、ミナヅキの他に、屋敷にいた使用人達とケーキやシュークリーム以外にもお菓子を大量に出してスイーツパーティーをした健太達をステンカが出迎えていた。
最初は楽しそうに、その後の孤児院の運営話や、コーヒーの提供を始めた感触などを話していたステンカだったが、屋敷でスイーツパーティーが開催され、使用人達は呼ばれているのに、自分は呼ばれていないと知ると目に見えて落ち込んだ。
失態に気付いた健太が平謝りをしつつ、慌ててステンカに用意していたお土産を取り出す。取って付けたようなお土産話にステンカは不貞腐れていたが、健太から手渡された物を見て目を輝かせた。
「……。な! これは! 我が家紋が入ったコップではありませんか!」
「ええ。コップの他にもグラスや樽ジョッキもありますよ。あと、家紋のシールも作りましたのでお好きなところに貼る事も可能です。本当にお土産として用意してましたからね」
「はっはっは。実は気にしておりませんよ。それよりも孤児院の経営と、コーヒーの扱いを全て私に任せて下さった事に感謝の気持ちしかありません。あ。エルミと仲良くして欲しいのは本音ですよ。それとは別に、ケンタ様にお願いが。先ほど報告した在庫の話ですが……」
健太の表情を和らげようと軽い感じで答えるステンカ。本当に気にしていないと言われても、健太としては気になる事態であったが、気にしすぎもよくないと思い仕事の話をする事にする。
「そうでしたね。在庫が少ないとの事でしたが?」
「ええ。そうなのですよ。思ったよりも領民達が寄ってくれるようになりまして。ケンタ様にコーヒーと一緒に頂いた持ち帰り用コップが大人気です。破れない、透明で軽いコップですからな。飲んだ後も自宅に飾ったり、コップ目当てでコーヒーを買う人間まで出てくる始末。仕方が無いので持ち帰りは、自分のコップのみとしております」
「なるほど。プラスチックコップは、こちらでは珍しいのですね。仕方がないですね。紙コップもダメだと言われましたからな……」
ステンカの話を聞いて、健太が頭を悩ませているとゲンナディーがミナヅキと共にやってきた。
「何を悩んですんっすか?」
『どうしたのー。悩みがあるのなら私に話してスッキリとするがよいのだー』
「それは心強いな。実はな……」
軽い感じのゲンナディーと胸をそらしているミナヅキを見て、苦笑を浮かべながら健太は状況を説明した。
「なるほど。コーヒーよりもコップが有名になっているんっすね。ケンタ様の国では、ぷらすちっくコップは安いんっすか?」
「ああ。そうだな。銅貨1枚で10個は買えるか? それくらいだ」
「え? 思った以上にお安いっす。ケンタ様は、こっちでぷらすちっくコップを販売した方が儲かるんじゃ?」
近所のスーパーで特売購入した値段を元に伝えた健太を、ゲンナディーは驚愕の表情で眺め、しばらく沈黙が続いていたが気を取り直すと話し出す。
「……。最初は大量にばら撒けば価値がなくなるかと思いましたが、止めときましょう。それよりも自分のコップを持ってこさせるか――」
「そうだ! ポイント制にしよう」
ゲンナディーは良い案が思いつかずに、ステンカと同じようにコップ持参案を出そうとしたタイミングで、健太は何か閃いたのか大声で叫ぶ。
『ビックリしたー。声大きすぎるー。ケンタ様、ぽいんとせいってなにー。それと驚かせた罰にチョコレートが欲しいー』
ゲンナディーの頭の上で寝転がっていたミナヅキが、健太の声に驚いて転がり落ちる。慌てて飛び上がると、頬を膨らませて健太の肩に乗って質問をしてくる。
「すまん。すまん。じゃあ、ミナヅキちゃんには絵の描いてあるチョコをあげよう」
『わーい。良く分からない絵が描いてあるー。チョコレートも美味しいー』
満足げにチョコレートを舐めているミナヅキを見ながら、健太は話を続ける。
「今は用意していないから、すぐには準備できないけど、カラープラスチックコップもあるから、それを用意しよう。各色で100個をナンバリングの登録制にして、台帳を作って管理しよう。持ってくる毎にポイントを付けて、10ポイントでオプション無料。20ポイントで1回コーヒー無料とかにしてみたらいい。本当ならバーコードなどで管理出来れば一番なんだろうが、読み取り機を持ってくるのも大変だからな。いや、紙での管理の方が面倒くさいのか……。いや、だったら……」
一人でぶつぶつと呟いているのを眺めていたゲンナディーにミナヅキ、ステンカ達は、一人の世界に入った健太をコーヒーを飲みながら見学するのだった。




