第96話
「思った以上に盛況だったな」
健太はパン屋の駐車場で行ったマジックショーを振り返っていた。パンが出来上がるまでの間、暇つぶしで子供相手に水魔法で水芸まがいの事をしたり、アイテムボックスを活用してマジシャンの真似事をした。最初は話し掛けた親子だけだったが徐々に人が集まり、最終的には店にいたお客の他に手の空いた店員までも集まっていた。
「営業妨害になるかと思ったが、店長さんには喜んで貰ったし、『慈善事業頑張って下さい。私で手伝える事でしたら応援しますよ』とまで言われたな。まあ、慈善事業と言えば間違ってないのか? 俺に利益が出ているけどな」
健太はアイテムボックスが満載になっている事を確認しつつ、整理整頓を始める。以前のマス形よりもフォルダ構造が使いやすいらしく、パソコンでのファイルをまとめるように手慣れた感じで操作をする。
「そうだ。なおに借りているラノベを返さないとな。そう言えば、あいつの小説はどんな感じだ?」
健太は借りている本を紙袋に詰めながら、直章がアップしているサイトにアクセスする。話数は順調に伸びているようで、感想も徐々に増えてきていた。
「おお。良い感じじゃないか。ん? これは……」
最初から読み直した後で、感想を眺めると色々と書かれているようだった。
「感想もおおむね好評だな。相変わらず、俺が話した事が参考になっているようだが。まあ、俺の話が本当だとは思っていないようだから――。ぶっ!」
感想を眺めながら呟いていた健太が思わず吹き出す。
「このユーザー名は部長だよな。気になる点に『最近、仕事への情熱が薄まっているように感じます。作品に掛ける熱量と同じくらいに仕事をして下さい』と書かれているな。なおは気付いているのか?」
健太は直章にメールをすると速攻で返事が来た。
『そうなんっすよー:(´◦ω◦`):勘弁して欲しいです! 部長ってユーザー名は酷いと思いません? なんか、まとめサイトでも取り上げられて盛り上がってるみたいですし。そんな人気の上がり方は嫌だー _:(´ཀ`」 ∠):_ 』
「ははは! 確かにな。『仕事も頑張れよ。それと今から本を返しに向かいます』っと」
メールを送り、スッキリした健太は直章が住むマンションに向かった。
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「ほらよ。それと大人気作品になったみたいだな。おめでとうさん。部長にも連絡しといたぞ」
「なんでっすか! 部長に言わなくても良いっすよ! 前もストーリー展開を予測してきたんですよ。しかも会社のメールで! 感想であんな事を書いたくせに! 部長も仕事しろと言いたい」
「おぉ。すまん。ちょっと落ち着こうか。それにしても部長はそんな事をしてたのか? あの人、暇じゃないはずだけどな」
普段の業務を思い出しながら健太が呟いていると、直章がゲンナリした表情で応える。
「部長は時間管理能力が高いっすからね。仕事が終わった後で、電車の中で読んでくれてるらしいっすよ」
「あれだけ仕事をこなして、電車の中でか。俺なら寝そうだな。あ、そうだ。これを返しに来たんだよ。長い間、借りっぱなしで悪かったな」
健太から紙袋を受け取りながら、直章は問題ないと告げる。
「読み終わっている分ですから、大丈夫ですよ。他にも貸しましょうか? たしか、内政チート系の作品があったと思うんっすけどね。まあ、上がって下さいよ」
リビングに案内された健太が、本棚を見付けて近付く。そこには多数のライトノベルが並んでいた。その数に感心したように眺めていると、コーヒーを両手に持った直章がやってきた。
「なにか、気になった作品がありました? 内政チート系の作品は後で用意するので、健さんが面白そうと思うのを選んで下さいよ。エルミちゃんとの話は最近は盛り上がってるっすか?」
「ああ。順調だぞ。なおのお陰で随分と異世界の話しが分かるようになってきた。な、なんだよ……」
ニヤニヤと笑っている直章に、焦り気味になる健太。さらにからかう表情なった直章に健太が、懐から電子タバコを取り出す。
「まだ、タバコを止めてなかったんすか? エルミちゃんがいるから吸わなくてもいいでしょ?」
「いや。別に彼女が出来ないからタバコを吸ってるわけじゃないぞ?」
「ふふふ。ついに認めましたね。エルミちゃんが彼女だと! 22時11分。犯人自供によりモテ罪で逮捕。これより尋問を始める! 聞かせて貰いますよー」
直章が時計を見て健太の両腕に手錠をかける真似をする。健太は苦笑をしながらエルミが彼女ではないと説明を始めた。
「かー! 何度言ったら分かるんっすか! どう聞いても完全完璧ぱーふぇくつにベタ惚れでしょうが! なんで、このおっさんは気付かないかなー」
「はっはっは。43才のおっさんに十代の女の子が惚れるわけないだろ。ちょっとした憧れみたいなもんだよ。父親と同じとしくらいの男性がしっかりと見えるんだろう」
「いやいやいや! どれだけ鈍感系の主人公っすか! 内政チート系の作品の他にも鈍感系の作品も入れときますから、必ず読んでくださいよ! 先に鈍感系からっすよ!」
闊達しているような表情で笑っている健太を見て、直章は手で顔を覆ってあり得ないとの態度を表現すると、段ボールに自分が持っている鈍感系の作品を片っ端から詰めていった。




