第91話
「それにしてもケンタ様の魔力は底がないのでしょうか?」
「そうね。私も本当にそう思うわ。いった水魔法を何度使っているのかしら? ゲンナディー、数えてる?」
「10回までは数えてたんっすけどね。途中で止めちゃいましたよ。かなりの数を撃ってるっすよね? エルミ様なら何回くらい撃てるっすか?」
ルイーゼとエルミ、それとゲンナディーが、少し遠巻きに諦めたり表情で健太を眺めていた。子供達やミナヅキからの要望で、常人なら倒れている数の水魔法を健太は撃ち続けている。
しばらく一同は様子を見ていたが、健太は全く魔力枯渇状況にはならないらしく、楽しそうにしながら子供達に向けて撃っていた。
「あれって攻撃魔法じゃないっすね」
『そうだよー。ミナヅキの力を使っているから攻撃力なんてないよー』
ゲンナディーの呟きに、それまで子供達と一緒に遊んでいたミナヅキが近付いてきて会話に参加してくる。
「あれ? ミナヅキちゃんは『よく分からない』と言ってなかったっすか?」
『うん。でも、ケンタ様が魔法を使いだしたら分かるようになったー』
「そ、そんなもんっすか?」
「もう、これ以上ケンタ様を見ていても意味は無いわね。私達で出来る事から始めましょう」
あまりにも軽いミナヅキの回答に一同は苦笑を浮かべ健太達から視線を外すと、ゲンナディーを含めたエルミとルイーゼは孤児院の運営や困っている事の再確認を始めた。
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「すまん。思ったよりも楽しくて遊び過ぎた。子供と遊ぶのがこれほど楽しいとはな。同僚や部下達が結婚を勧める理由が分かった気がするぞ」
全身びしょ濡れになりながらも、エルミ達の元にやって来た健太が楽しそうに喋っていた。健太の濡れ姿に顔を真っ赤にしているエルミと、それをみて微笑ましそうにしているルイーゼ。そのルイーゼを真剣な目で眺めているゲンナディー。
三者三様の表情を浮かべている中、エルミが軽く咳払いをしながら健太に話し掛けた。
「ケンタ様は子供好きみたいですね。将来、子供は何人くらい欲しいですか?」
「うーん。まずは結婚を考えないと駄目だろうが、子供は多い方が楽しいのだろうな。今は楽しい部分しか見えてないなから、気楽な発言だけどな。まずは相手を見付けることが必要なのに何を言ってるのか」
「そ、そうですか。なるほど。ケンタ様の為に沢山子供を産まないと……」
健太の回答にエルミは顔をさらに赤らめながら、ブツブツと呟き始める。その横でルイーゼとゲンナディーは顔を見合わせて笑い合うと、ルイーゼが代表する形で話しを始めた。
「エルミ様はしばらく妄想の世界に旅立たれたので、私が代わりに話しをしますね。孤児院の経営につてですが、ケンタ様はどのように改善出来ると考えておられますか?」
「そうだな。敷地は大きいし、建物の傷みも少ないから修繕する必要はないと考えている。後は、不足している費用だな。主に足りないのは食費と人件費か?」
「そうですね。やはり人件費が大きいですね。孤児院に住んでいる子もですが、預かっている子達も多いです。私一人で見るには限界があります。お手伝いで来て貰っていますが、無給と言うわけにはいきません。ですが、預かっている子供の親御さんから、今以上の金額を請求出来ません。皆さんもギリギリの生活をしていて、その中から支払いをしていますから」
「なるほどな」
ルイーゼの回答に健太は頷くと、アイテムボックスからペットボトルに入ったコーヒーを次々と取り出す。そして蓋を開けてコップに入れると説明を始めた。
「このペットボトルに入っているコーヒーを売りに出そうと思う。こんな感じで容器に入れて提供して、使い切った容器は水筒として売り出せば良いだろう?」
「確かに目新しいですが、そのような高級品を皆さんが飲みに来るでしょうか? それにお客様が来たとして、その費用を運営に回すとしても原価が掛かりますよね? この孤児院には、それほどのお金はありません。その点については、ケンタ様はどう考えられますか?」
ルイーゼが難しい顔をしながら質問すると、安心させるように健太が説明する。
「コーヒーについては、まずは『異世界のコーヒー』を知ってもらう為に、お試し価格との名目で格安で提供しよう。そもそも、俺の国では安くでも飲める物だからな。それと当面は俺の持ち出しで大丈夫だぞ? 金貨30枚くらいを資本金にして運営を始めれば人件費も賄えるだろ? それに保管はエルミやゲンナディーに一任するから安全だろ?」
「金貨30枚は多すぎます! それに、そこまで援助して貰うわけには――」
「いいんだよ。気にしないでくれ。俺が金貨を持っていても、あまり役に立たないからな。俺自身は金貨10枚もあれば問題ない。それに、利益が出るようになったらキッチリと取り立てるから安心してくれ」
「そうっすよ! ケンタ様がここまで言ってくださっているのだから、甘えたらいいんっすよ! ルイーゼは頑張りすぎっす! これで孤児院の運営が楽になれば自由な時間が増えるっすよ! 俺も協力するっすから!」
「ゲンちゃん……。分かりました。ではケンタ様を経営者として、私は孤児院の運営責任者として働きますね」
健太とゲンナディーの話を聞いて、ルイーゼは気合いを入れると提案を受け入れ、さっそく行動に移す為に動き出すのだった。




