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第90話

「うぅぅ……。酷いっす……。エルミ様」


「分かっているのに、ケンタ様を止めないゲンナディーが悪いのです。ケンタ様は私達とは住んでいる場所も違えば、知識や常識も異なるのです。これからは十分に注意しなさい。注意していても、驚かされる事が私も多いのですから」


 膝と手を突いて恨み節を吐き続けているゲンナディーにエルミが答える。その様子を見ながらミナヅキは楽しそうに飛んでいたが、何かを思い出したのかエルミに話し掛けてきた。


『エルミー。ケンタ様に力を授けたのー。後はよろしくねー』


「え? ちょっ? ミナヅキちゃん?」


 パタパタと飛び去っていく様子に慌てて声を掛けたエルミだったが、ミナヅキは気にする事無く子供達に混じると結成したばかりの団について会議を始めた。


『いいかー。ミナヅキ団はケンタ様をサポートする団となるのだー』

「「「おおー!」」」

『団としての鬼の規則はただ一つ! 「美味し物をケンタ様にもらえるように頑張るのだ!」にするのー』

「「「おおおお!」」」

「やったー!」

「俺、頑張る!」

「私はクッキーが欲しい!」

『まずはチョコレートなのー』


「……。なにを目指しているのかしら?」


「子供らしくて良いと思いますけどね」


 遠目に見ながらエルミとルイーゼが会話をしていると、数字の練習を終えたのか健太がやって来た。


「おお。ミナヅキ達は盛り上がっているようだな。これは良い感じのバッチを大量に用意してやらないと」


「ケンタ様。文字は覚えられたのですか?」


 エルミの問い掛けに健太は紙を見せる。そこには大量に書かれた数字があった。


「不思議な数字だな。書き方も変わってるし。文字も似たような感じになるのか?」


「私からすれば、先代の勇者様や、ケンタ様が書かれた文字のほうが不思議ですけどね。これってミナヅキちゃんの名前ですよね? そうだ! ケンタ様、ミナヅキちゃんから『ケンタ様に力を授けたのー。後はよろしくねー』と言われましたが?」


「おお! そうなんだよ。ミナヅキちゃんから光りを受けたが、特に変わった感じはないんだよ。どう思う?」


 その時の様子を聞かされたエルミはしばらく考え込んでいたが、隣で一緒に聞いていたルイーゼが話しに参加してきた。


「エルミ様。ひょっとして水の精霊様からの加護が付いたのでは? ゲンちゃんのように」


「コネクトやリンクとは違うって事かしら? 大精霊のミズキ様の時はコネクトだったわ。ひょっとしてケンタ様の母国語で書かれのを、ミナヅキちゃんが読んだ事と意味があるのかしら? ケンタ様、アイテムボックスでの使い方に変わりはありませんか?」


 二人の会話は何気に聞いていた健太だったが、エルミからの質問に首を傾げるとアイテムボックスを起動させる。


「いや。特に変わった所はないな。容量が増えたわけでもないし、出し入れ出来る量も増えていない。ん? そう言えばステータスはどうなって居るんだ? 『現れよ!』」


 健太は独り言を呟いていたが、ステータス画面を表示させると内容の確認のを行う。アイテムボックスのレベルは上がっていなかったが、よく見ると水属性と項目が増えている事に気付いた。


「水属性が増えているようだな。エルミ、これってなんだ? どうした? 微妙な顔をしているな?」


「ミナヅキちゃんの加護で、ケンタ様が魔法を使えるようになったのですよ。……。ありえない。全く訓練をしていない人が、魔法を使えるようになるなんて」


「さすがは異世界の勇者様ですね」


 呆然としながら、呟いているエルミの横でルイーゼが感心したように頷いていた。そこに立ち直ったゲンナディーが近付いてきて、ルイーゼに話し掛ける。


「なにかあったんっすか?」


「ゲンちゃん。ケンタ様が水魔法が使えるようになったらしいよ。さすがは異世界の勇者様ね」


「え? ミナヅキちゃんのアレで? 凄いっす! ケンタ様。魔法使って下さいよ」


「いや。『使って下さいよ』と言われてもだな」


 ルイーゼから事の顛末を聞いたゲンナディーが興奮した様子で話し掛けてくる。魔法など学生の頃に漫画でしか見た事のない健太は、困惑した表情を浮かべながらも少しテンションが上がっていたようで唐突に詠唱らしきものを始める。


「魔法の詠唱は、こんな感じだったよな? 『我、放つは水の力』なんてな……。な、なんだ?」


 いい年したおっさんが魔法を唱えたと気付いた健太は、急激に恥ずかしくなり顔を赤らめる。だが指先に違和感を感じ何事かと見ていると、指先からシャワーくらいの水が勢いよく出だした。


「おお。なんか凄いな。お。止まった?」


 しばらくすると水が止まる。ちょっとした水たまりになっているのを一同が眺めていると、子供達が歓声を上げて集まってきた。


「ケンタ様、凄いー! 魔法使いだ!」

「ばか! ケンタ様は勇者様なんだぞ!」

「もう一回! もう一回見せて!」

『ケンタ様ー。チョコレートが欲しい』


 水たまりに飛び込みながら遊んでいる子供達に健太は楽しそうな表情を浮かべ、リクエストに応える為に水魔法を放つ。そして大歓声をあげて遊び始めた子供達と、何度も水魔法を放つ自分を呆然とした表情で見ているエルミやゲンナディーにルイーゼを楽しそうに健太は眺めた。

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