第86話
「よし、ゲンナディー。案内してくれ」
健太の言葉にゲンナティーが嬉しそうに案内する。テンション高く道案内を始めたゲンナディーの様子に首を傾げていると、エルミが隣に立って小声で教えてくれた。
「幼馴染の子が責任者として働いているのですよ。仲も良いですからね。張り切っているところを見せたいのではないでしょうか」
「なるほどな。それは張り切るだろうな。よし、少し応援してやるか」
健太が嬉しそうに頷くと、アイテムボックスからお菓子や遊具をを取り出して、ゲンナディーに手渡す。
「ほら。これを子供達と幼馴染に渡してやってくれ。綿菓子とゴムボールだ。綿菓子は溶けやすいから気をつけろよ」
「『溶けやすい』っすか? それって……。うわぁ! 本当っすね! 直接触ると溶けるっすね! こっちのゴムボールは。おお! 柔らかくてよく弾むっす!」
ゴムボールを何度も弾ませていると、音が気になったのか奥から子供が5人ほどやってきた。
「ゲンナディー、なにしてるの?」
「うわぁ! なにこれ! 柔らかーい」
「そっちの白いのは何? え? お菓子?」
好奇心旺盛な3人ほどがゲンナディーに突撃して、ゴムボールと綿菓子に興味津々だったが、残りの2人は恥ずかしいのか遠巻きに眺めていた。
『皆の者ー! 異世界の勇者であるケンタ様であるぞー! 挨拶せぬかー』
「えー! 異世界の勇者様!?」
「チョコレートの人?」
「竹トンボの人だ! じゃあ、このゴムボールもそうなの?」
「凄ーい! 本物だー」
今まで、ゲンナディーの側にいた子供達だけでなく遠巻きにしていた子達も健太に群がる。勢いよくやって来た子供達に、健太はアイテムボックスから飴玉を取り出すと、一人ずつに手渡しながら挨拶をする。
「初めまして。健太と呼んでくれ。これは飴玉といって、硬いが甘いぞ。遠慮せずに食べてくれ」
健太の言葉に子供達は大歓声を上げると、次々に口に放り込んでいく。甘さにとろけるような顔になっている中、一人だけ食べずにいる子供がいた。
「食べないの?」
「遠くにいるお母さんにあげるの」
エルミが子供に目線を合わせて問い掛けると、恥ずかしそうにしながら答えてきた。健太は横で話を聞いていたが、ゲンナディーに視線を向けると沈痛な顔になった。
「あの子の母親は小さい頃に亡くなってるんすよ」
「そうか。まだ理解できていなんだな」
健太はゲンナディーの話を聞いて頷くと、アイテムボックスから違う飴玉を取り出してエルミと同じように目線を合わせる。
「こんにちは。それは食べていいよ。お母さんには、こっちの飴玉を渡してあげたらいい。これなら袋に入っているから、ずっと置いとけるぞ」
「わあああ! ありがとう! 大事にする!」
「ケンタ様。ありがとうございます」
健太と子供が話していると、奥から若い女性がやって来て話しかけてきた。感謝の言葉を投げてきた女性に目線を移しつつ立ち上がった健太に、その女性は頭を下げてきた。
「初めまして。ルイーゼと申します。この孤児院を任されている責任者です。ケンタ様、今回は子供達へ援助を頂き、本当にありがとうございます。それとお気遣いに感謝いたします」
「いや。気にしなくてもいいですよ。それと初めまして。健太です。異世界からやってきました。子供達が喜んでくれているなら、援助したかいがあります。そう言えば、ゲンナディーの幼馴染だとか?」
「ええ。私の方がお姉さんですけどね。ゲンちゃんも精霊使いになりましたからね。遠い存在です。もうゲンちゃんなんて呼べません」
「ちょ! ルイーゼ! ゲンちゃんはないっすよ! もう、大人なんすからね! それに呼んでるっす」
ルイーゼの言葉にゲンナディーが恥ずかしそうに抗議すると、横で漂っていたミナヅキがゲンナディーの頭に乗り、その上で仁王立ちになると鼻で笑った。
『ゲンナディーが大人なんて片腹痛いわー。もっと、私を使役できるレベルにならないとー』
「なんっすか! ミナヅキちゃんだって子供っしょ! いや、俺は大人っすよ!」
『そんな反論しか出来ないようじゃダメー』
ゲンナディーとミナヅキのやり取りを聞いていた大人たちは苦笑し、子供達はミナヅキの仲間になってゲンナディーに攻撃を始めた。最初は応戦していたゲンナディーだったが、その行動自体が子供と変わらないと気付くと、逃げ出すように去っていった。
「逃げたゲンナディーは放置するとして、ルイーゼさん。孤児院の経営状態を教えてもらっていいですか?」
「分かりました。こちらにどうぞ」
「はい。ミナヅキちゃんに依頼だ。これを報酬に子守を頼むぞ」
『これほどの報酬を貰ったのー。 頑張るのー。皆の者ー。付いてくるのだよー』
「「「「「わー」」」」」
子供の相手はミナヅキに任せる事にし、健太はアイテムボックスからお菓子や飲み物を取り出して渡す。なにも無い場所から次々と見た事のない物が取り出されるたびに、子供達から歓声が上る。そして、健太に全員が一斉に感謝の言葉を述べると、ミナヅキの先導で院内にある広場へと遊びに行った。
元気よく行進を始めたミナヅキと、その後に行儀よく付いていく子供達を見ながら微笑むと、健太はルイーゼの案内に付いていくのだった。




