第84話
「お父様! ケンタ様から話を聞きました!」
「おお。そうか。それなら話は早い。エルミにも頑張ってもらう事になるが、よろしく頼むよ」
血相を変え、大慌てでやってきたエルミにステンカが微笑みながら話をする。全てを決めた表情になっている父親を見て、エルミは諦めたようにため息を吐いた。
「ケンタ様に領主を引き継ぐと決められていたのはいつからですか?」
「ん? 2回目にこちらに来てもらった時だな。あの時のケンタ殿を見て、問題ないとは思っていた。後は、何度か確認して確信に変わったよ」
「そんなに前からですか? でもお父様も領主としての役目は――」
「私のような決断力のない男より、ケンタ様のように色々と考えつつ、即実行出来る男が領主としては必要だ。特に今のような騒動が頻発している場合はね。そうは思わないか?」
エルミの言葉を遮ると、ステンカは笑いながら今後の事を話し始める。
「私は、これからケンタ様のサポート役に回る。主にはコーヒーを使った外交を。それと、細かな領地経営を教えていく。それ以外は、こちらの世界の常識だな。ケンタ様が博識であっても、それは異世界の知識が中心だ。リイインゴウもオウレンジーもご存じない方だからね。そして、エルミにも迷惑を掛ける事になる。ケンタ様が異世界に戻られたらエルミが当主として働く事になるのだからね」
「分かりました。ケンタ様の補佐として、私もしっかりと務めさせていただきます。それにお父様が当主として決められたのです。手続きを進められるのですよね?」
エルミの言葉にステンカは頷きつつ、王都に向けて領主交代の書類を書き始めた。
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「どうだった? ステンカ殿は考え直してくれたか?」
エルミが執務室から出ると、不安げな健太が確認してきた。その姿をみて、安心させるように笑いかける。
「ご安心ください。ケンタ様の補佐は私が間違いなくしますので」
「その心配をしているのではなくて。ステンカ殿は俺を領主にすると言っていた件についてだが」
「それなら大丈夫です! 私を始めとして、皆でもり立てていきますから安心して下さい!」
エルミの言葉で全く安心の出来なかった健太は、天を仰いで目をつぶる。そして、しばらく考えると平凡な質問をする。
「異世界人の俺が領主になるのは、認められないと思うが?」
「それは大丈夫です! ケンタ様は異世界の勇者様ですので、王家が認めない事はありません」
「そ、そうなのか? 俺は領主の経験なんて無いぞ?」
「それは私達がフォローしますのでご安心下さい」
「ああ。そうなのか。じゃなくて! いやいや! そんな急に決められる話じゃないだろ!」
なにを言っても問題ないとの回答しか返って来なさそうなエルミの反応に、健太は嘆息すると再び目をつぶる。
「もう、こちらに来るのは嫌ですか? 領主になって頂く方が色々と動きやすくなります。ケンタ様が考えて下さった内容も、領主の命として実行が出来ます。それに、私とも……」
「ん? エルミとも? なにかあるのか?」
健太が首を傾げながら問い掛けたが、エルミは真っ赤になって首を振ると何でも無いと伝えてきた。
「まあ。少し時間をくれ。領主になるかどうかは、俺が決めて良いんだろ?」
「はい。それは間違いなく。ケンタ様の意思は尊重します。私としては、是非とも受けて頂きたいのですが。お父様の決断も無駄になってしますので。本当に心配しないで下さい。ケンタ様は大貴族にもなれる資格があります。勇者だけでなく、契約を結びし者ですから」
「契約を結びし者?」
エルミの言葉をオウム返しに確認すると、健太に分かりやすいように説明を始めた。
「そうです。契約を結びし者です。ケンタ様が、それに該当します。契約には種類があり、『エンゲージ』『コネクト』『リンク』の3種類です。強い魔力を持つ者が、主として認める時に結びます」
エルミの説明に健太はさらに首を傾げる。
「俺が契約を結びし者として、いつの間に?」
「ミズキ様の時を覚えておられませんか? 名付けをされて……」
「ああ。あの時か。光りで打ち抜かれて穴が空いたと焦った時だな」
エルミの説明で思い出した健太は、懐かしそうにしながら思い出していた。
「それは理解したが、大精霊と契約を結んだから資格が出るのか? 前の説明では大精霊を見る事すら珍しいと聞いたが?」
「そうです。大精霊様と出会えるのは奇跡と言われております。本当はミナヅキちゃんも珍しい存在なのですよ。契約を結んでいるゲンナディーも、彼が望めばどこにでも仕官出来るでしょうね」
「そんなに凄いのか?」
健太からの質問にエルミは笑いながら再度説明する。契約を結ぶ者は人間でも、魔力が高ければ出来る事。契約すると、能力の共有が出来る事。また、契約の種類によって出来る範囲が違う事などを伝えてきた。
「リンクなら、自身の魔力の一部を対象者に融通出来ます。コネクトなら能力を少し。エンゲージは全てを捧げており、一心同体だと思って下さい。本当なら、ケンタ様にと私がエンゲージを結んでいる事に気付いて欲しかったのですが……」
契約の種類を説明しながら、エルミは残念そうな顔をしていた。




