第80話
健太主宰によるチョコレートフォンデュを主体とした宴会は盛況な状態であり、領民達は生まれて初めて食べるチョコレートやパンにスープ。インスタント麺やジュースなど、王侯貴族でも食べた事のない異世界の食事に一同は二度と食べられない事を念頭に入れながら味わっていた。
「おい。そっちの白い塊で、雪みたいなのはなんだ?」
「マシュマロらしいぞ。口に入れると雪のように溶けるが、甘くて美味しい。それと、さっきケンタ様に教えてもらったらんだがチョコレートを付けると、さらに格別の味になるんだ!」
「おお。俺も試してみるぞ!」
「そのパンはどこで?」
「エルミ様が配っていたぞ。一緒にバターが入っている小箱ももらったが、こうすると……」
「おお! 真ん中からバターが出てくるのか?」
「お前にも少しやるよ」
「いい匂いがしているな」
「口の中が甘くて困っていたらケンタ様がコーヒーをくれたんだ」
「えっ! コーヒー? あの高級品?」
「だろ!? 俺もビックリしたぞ! コーヒーなんて王侯貴族か富豪しか飲めないと思っていたが、お前ももらいに行ってこいよ」
「今はステンカ様がコーヒーを淹れているぞ」
「えっ? 淹れられるのか? あの人が?」
あちこちから聞こえてくる声を健太は楽しそうに聞きながら歩いていた。隣にはエルミが付き添っており、同じように周囲を眺めながら微笑んでいた。
「ケンタ様のお陰で領民達が笑顔になりました。塩問題も解決したので良かったです。本当にありがとうございます」
「エルミも同じくらいに頑張っただろ? それにまだ全てが解決した訳ではないからな。街道整備もあるし、隣の領主の息子とも揉めてるだろ?」
目を潤ませながら感謝の言葉を告げてくるエルミを、照れくさそうな表情を浮かべながら健太が返事をする。
「そうですが……。それでも一区切りです。本当にありがとうございます」
感謝の言葉を言い続けようとするエルミを遮るように歩みを止めると、健太はアイテムボックスから大きめの飴を取り出しエルミの口に無理やりねじ込んだ。
「むぐっ!」
「ほら。これを食べて甘い顔をしといてくれ。褒め殺しされるなんて恥ずかしすぎる。それにエルミにはしかめっ面じゃなくて笑顔でいて欲しいからな」
「むー。そんな事で誤魔化されま……。甘い! 美味しいです!」
飴を突っ込まれたエルミがビックリした顔で抗議しようとしたが、動きを止めると両頬を押させながら満面の笑みになる。飴の甘さにとろけるような顔になりそうだったが、無理やり頬を膨らませて健太を睨みつけた。
「ずるいです! こんなに美味しいお菓子をもらったら怒れないじゃないですか。そもそも感謝の言葉を伝えようとしていたのに怒る話になるのも不思議ですけどね。ふふっ」
「ああ。そうだな。だから気にせずに話は終わらせてしまおう。その方がお互いにいいだろう」
お互いに笑いあいながら歩いてたいた二人を周囲の者達は微笑ましそうに眺めていた。二人は気付いていなかったが健太とエルミのやり取りは全て見られており、邪魔にならないようにスペースが作られていた。
それに気づいていない二人は、周囲に人の輪が出来るまで話を続けるのだった。
◇□◇□◇□
「あー。恥ずかしかった。まさか皆にみられているなんて」
「本当に気付いてなかったんっすか? 物凄くいい雰囲気――」
真っ赤な顔で頬を押さえていたエルミにゲンナディーが話しかける。そのまま話を続けようとしたゲンナディーのわき腹を抜き手で突き刺して黙らせると、ミナヅキに向いて話し始めた。
「ミナヅキちゃん。孤児院はどうだった?」
『みんな喜んでいたよー。ケンタ様がくれた竹トンボも大喜びだったし、お菓子も美味しそうに食べてたよー』
「孤児院は有志で運営されているんだよな? 塩騒動で領民自体が困窮していた時はどうだったんだ?」
何気ない健太の質問にエルミが暗い顔になる。その横でゲンナディーもなにか言おうとしたが、わき腹に受けた攻撃がツラいのか、眉をしかめながら蹲ったままだった。
「その時は援助も少なくなりました。領主としてお父様も出来る限りの援助をしましたが、限界もあり……。ねえ。ゲンナディー。あなたの方が詳しいわよね? どうしたの? なにを蹲っているのよ?」
エルミが同意を求めようとしたゲンナディーは苦悶の表情が続いており、それを見て不思議そうな顔をする。その態度に酷い者を見た顔になるゲンナディーだが、痛みで声が出ずにうめき声を上げるしか出来なかった。
「体調が悪いのだったら休憩した方がいいわよ。代わりに私がお答えしますね。今は問題も解消したので徐々に支援は戻りつつありますが、それでもやはり前の水準に戻るまでには時間が掛かるかと」
「なるほどな。じゃあ、なにか俺が支援できる事を考えてみるよ。それとゲンナディーは体調が回復したらでいい。相談に乗ってくれ。ミナヅキに回復魔法をかけてもらったらどうだ? 出来るよな?」
『できるよー。でもご褒美が欲しいー』
ミナヅキの言葉に笑いながらチョコレートを一箱取り出すと手渡し、エルミに手加減をするように注意を始める健太だった。




