第69話
「りゃいたいねー。異世界で領地改革ってなんっっしゅか! しょんな簡単に出きるわけないっしょ! 出来るんっだったら今でもやっているちゅうの! だしょ! そう思わないっすか? 健さん! お姉さん! お代わりー」
「おいおい。飲み過ぎだろ。もう5杯目だぞ?」
生ビールをジョッキで勢いよく飲んでいく直章に、健太が声をかける。いつもと違う勢いで飲んでいる様子を心配そうにしている健太を余所に、直章は小さな声でぶつぶつと呟き始めた。
「だいたいねー。俺が書いた小説に感想をするなら、気を付けて欲しいんっすよ! いいっしゅか! あらすじにもふったーにっも『処女作ですので優しくお願いします。作者豆腐メンタルです』とかいてるんしゅよ!」
「おい。ちょっと待て。お前、小説を書いてるのか?」
唐突の告白に健太が驚いた顔をすると、直章は覚束ない手つきでスマホを取り出してサイトを表示させる。
「これっす! これ!」
「どれ。『おっさん美少女片手に異世界無双』? この『なお』がペンネームか」
サイトにはタイトルとペンネームが表示され得ており、その下にはあらすじが書かれていた。
「なになに。『おっさんこと健太は突然異世界に飛ばされてしまう。神様からの説明もなく、訳も分からぬまま健太が目を開けると異世界でした。美少女のエルミと手を取り合って異世界を救っていくストーリーです』……。確かに『作者豆腐メンタル』と書かれているな。これに感想が来てるのか?」
健太があらすじを読んでいると、直章がスマホを奪ってなにか操作をすると、もう一度手渡してくる。
「ん? もう一回見ろと?」
無言でつきだしてきたスマホを受け取りながら内容を確認すると、朝に話したようなチートについて、否定的な感想が十数件並んでいた。
「結構酷い事を書かれているな」
「だしょう! 本当に酷いんっすよ。途中までは返信してたんっすけど、途中で心が折れましたよ」
「軽く流しゃいいのに。これなんか『読むまでもなく意味が分かりません。書くの止めてください』だぞ? 読んでないのに感想か? こんなクレームなんてほっとけ」
「分かってますよー。でも、こいつは直接メッセージでも送ってくるんすっよ!」
机をバンバンと叩いている直章を見ながら健太はサイトを確認していく。そして何かを書き込んだ後に、何度がタップしてからスマホを返却する。
「ほら。これでいいだろ。とりあえずブロックしておいたぞ」
「えっ?」
「機能があるんだから利用しろよ。取りあえず、さっきの奴には『読みもせずに感想は書かないで下さい。脳みそありますか?』と返してからブロックしたぞ」
「ちょっ! なにしてんっすか! そんな事を書いたら別アカで入ってくるかもしれないじゃ……。そっか、またブロックしたら良いのか。なんだ。簡単な話じゃん」
直章は急に酔いが覚めたような表情になると、スマホを見てニヤニヤとしだす。そして、ソフトドリンクを注文すると一気に飲んでスッキリした声で話し出す。
「ありがとうございます。健さん。なんかすっきりしました。これで再開出来ますよ。しばらく更新止めていたもんで」
「そうなのか? それにしても意外だったな。なおが小説を書くなんて。読むだけじゃなかったんだな」
「いえいえ。読み専でしたよ。健さんがエルミちゃんの話をするから、妄想が働いて書き始めたんっすよ。それで連載していたらポイントが付きだして。ポイントが増えたら感想も荒れ出したんっす」
健太の意外そうな顔に直章が首を振りながら否定して、創作の原動力は健太とエルミだと熱く語りだす。結局、居酒屋の営業が終わるまで直章の公私に渡る愚痴と、小説の展望について話を聞かせれるのだった。
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「うー。頭痛い。飲み過ぎですよー。……。健さんは元気ですね」
翌朝、直章が青い顔をしながら出社してきた。そして健太の顔を見て艶々としているのを見て羨ましそうな顔をする。
「ああ。ちょっと良い薬が手に入ったからな」
「なんっすか? ヤバい薬ですか?」
「そんなヤバい薬を飲むわけないだろ! なおも飲んでみるか?」
健太は異世界でも地球でも両方取り出せる赤枠のアイテムボックスに保存していた解毒剤を取り出す。試験管のような容器に薄い青色の液体が入っており、ちょっと見は飲む気が失せる物体だった。
「えっ? け、健さん? これを飲むっすか?」
「ああ。すっきりするぞ」
健太からキラキラとした目で勧められ若干引きながら確認するが、さらに爽やかな笑顔で頷かれ、引けなくなった直章は決意した表情になると一気に飲み干した。
「ん! あれ? ちょっとミント味? おぉ? おお! 凄い! 胃の中の気持ち悪さが急激に治まっていく。凄いじゃないですか! どこの薬ですか?」
「おお。それは良かったな。仕入れ先はエルミの国だ。そう言えば作り方を聞いてなかったな」
あまりにも劇的に効果があったので、直章が興奮気味に聞いてくる。健太はエルミから貰った事は伝えたが、製法については自身も知らない事を思い出した。




