第64話
「先ほどは大変失礼した。ちょっとだけ飲みすぎていたようだった。領主として恥ずべき行動だと感じている。今後は自分の限界を考えながら酒量に気を付けて飲む事にしよう。それで今回のダヴィデンコ領への訪問についての報告だね? 健太殿。エルミ。ご苦労だった。素晴らしい結果が出ているのは分かっているが、詳細を聞かせてもらえるだろうか?」
「……。いや。その前に土下座を辞めてもらっていいですか? 同い年くらいの方に土下座をされながら報告ってのも……」
「そうですよ。お父様。口調だけ偉そうにしてても威厳はありませんよ。それに、そんな生温い謝罪でケンタ様への態度についてのお仕置きが終わるわけないでしょう? 後で身長と同じくらいの穴を掘って埋める作業をしてらいますからね」
「うぉい! 実の父親に何する気だよ!」
笑顔だが目が笑っていないエルミの言葉に、領主であり父親でもあるステンカの表情が蒼褪める。同じタイミングで横にいた健太も仰天した表情になった。
「そのくらいで許してやってくれよ。俺も飲んでいたんだからな。な?」
「ケンタ様がそこまで仰るなら。お父様。特別ですよ。いくらゲンナディーが精霊使いになった祝いだからと調子に乗りすぎです。今後はこんな事がないようにお願いしますね」
なんとか宥めている健太にエルミは困った顔をしながらも渋々頷くと、ステンカに向かって舌打ちをしながら立つように伝える。
「ちょっ! エルミ! 酒を飲み過ぎた私が悪いのは認めるが、実の父親に舌打ちは酷いと思うぞ」
「なら、舌打ちされない領主、父親になってください」
ステンカは立ち上がりながら苦情を伝えるが、エルミはすました顔で軽やかに流すのだった。
「では、改めて報告を頼みますぞ。健太殿」
「エルミではなく? 俺からの報告で?」
確認してきた健太にステンカは大きく頷いた。エルミに視線を向けると、そちらも大きく頷くので了承すると領地を出てから戻ってくるまでの報告を始める。
「……。と、以上になります。途中で質問には答えましたが、その他にも疑問点等はありますか? ステンカ殿」
「い、いや。報告に感謝いたします。それにしても改めて聞いても凄いですな。大精霊様とのコネクトに大精霊と精霊様への名付け、ダヴィデンコ領の鉱山でのインナーゴウ大量発生の殲滅。マリアンナ殿との交易契約に塩の定期援助確約ですか。それにカップラーメンやエスプレッソに砂糖などの異世界食材ですか。実に羨ましいですな。私も食べてみたいです」
「いいですよ。さっそく食べましょうか。取りあえずカップラーメンから」
次々と取り出していく健太にステンカが慌て出す。ところ変わらずアイテムボックスから取り出していく健太にエルミは苦笑を浮かべながらも、鍋に水魔法で満たしていく。
「ケンタ様。量はこのくらいで?」
「ああ。そうだな。……。やっぱり魔法は便利だな。俺にも覚えられるのか?」
健太の何気ない一言にエルミは嬉しそうな顔をしながら頷く。
「もちろんです。次にケンタ様がこちらに来られる時に使い方を教えますよ?」
「そんな簡単に使えるのものなのか?」
簡単に魔法が使えるとの言葉に健太が首を傾げながら確認すると、二人のやり取りを見ていたステンカが会話に参加してくる。
「アイテムボックスを使いこなされているケンタ様なら問題ないでしょうな。500年前の勇者様もアイテムボックスの他に全属性の魔法を使いこなされておりました」
「全属性の魔法? そう言えばどこかで見た気がするな。……。あっ! 『現れよ!』これか」
ステンカの言葉に健太はなにかを思いだしたようで、ステータス画面を表示させると内容を確認する。そこには【全属性適正】と書かれていた。
「つまり俺は全属性の魔法が使えると。そもそも全属性ってのはなんだ?」
「全属性とは基本属性の土水火風、その他に光闇などもあります。ケンタ様は全属性適正との事ですので、それに属する魔法を全て使えます。後は魔力量によって、どれだけ魔法を使えるかになります。当然ながら魔力量が多いほど、沢山の魔法が使えます」
指折りながら情報を伝えてくるエルミを見ていると、アプリのアラームが鳴り始める。
「な、なにごと!」
「すまん。俺が設定したアラームだ。これが鳴ればカップラーメンの出来上がりだ」
突然の機械音にステンカが周囲を見渡しているのをみて、健太が申し訳なさそうにしつつカップラーメンの蓋を剥がして手渡してくる。
「急に大きな音が鳴ったので驚きましたぞ。それにしてもケンタ様の魔道具は色々と出来るのですね。で、では、さっそくカップラーメンの味を試してみましょう。先ほどから素晴らしい匂いがしてきて我慢が出来ません」
「エルミも遠慮するなよ。お腹がいっぱいなら軽い感じのはるさめスープでもどうだ?」
「はるさめスープですか? 色々あるのですね。私はこの黄色いのにします」
エルミが指さしたインスタントスープを手に取った健太はお湯を注いでいった。その横ではカップラーメンの汁まで全て飲み干して、それでも物足りなさそうにしているステンカがいた。




