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異世界に呼ばれたおっさん、異世界の知識がないけど頑張る。  作者: うっちー(羽智 遊紀)
第1章 おっさん異世界に召喚される

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第61話

「ふわぁぁぁ。よく寝た。それにしても正解だったな」


 藁の束から体を起こすと芋虫状態の寝袋のまま起き上がる。前回の藁まみれでのチクチクさに懲りた健太は、ネットショップでアウトドア用の寝袋を購入していた。


「おはようございま……。うぉ! 凄い格好っすね。それがケンタ様の国での寝具なんすか?」


 もぞもぞとしつつ寝袋から出ようと悪戦苦闘している健太を見ながらゲンナディーが声を掛ける。


「ああ。おはよう。これは俺の国ではアウトドア用の寝具だ。普段はゲンナディー達と同じだぞ。それとすまんが、この一番上のファスナーを下ろしてくれないか?」


「えっ? いいっすけど。そんな出れない状態で魔物とか盗賊に襲われたらどうすうるんっすか? まあ、俺達が守りますけどね。それでファスナーってのは――。っ! し、失礼しました! お邪魔しましたー!」


 荷台に詰め込まれてた藁の中で、もぞもぞとしている健太に笑いながらゲンナディーが近付いたが、一瞬動きを止まると真っ赤な顔で飛び降りていった。


「えっ? なんだ? おい! ゲンナディー! ファスナーを下ろしてくれ!」


「んん。なんですか? もう朝ですか? もうちょっとだけケンタ様の匂いを……」


 健太は頭まですっぽりと入る寝袋だったので気づいていなかったが、隣にはエルミが気持ちよさそうに寝ていた。相変わらず大きめの寝間着であり、無防備なほど胸元が大きくはだけていた。


「おはようございます。ケンタ様。どうかされましたか?」


 眠そうな表情で目を擦っているエルミに健太が真顔で問いかける。


「おい。なんでまた隣に寝てるんだよ?」


「えっ? ちょっとだけケンタ様の匂い……。いえ、寝る場所が偶然ケンタ様の横だったからです。駄目でしたか?」


 わざと見せてるのかと疑いたくなるような前傾姿勢で、にじり寄って確認してくるエルミに健太は慌てて立ち上がろうとした。


「ああああ。そうだった! 寝袋が邪魔して起きれない」


「えっ? どうすればいいですか? 私に出来る事があればお手伝いをさせてもらいますよ。無理な姿勢は良くないですし、我慢は駄目ですよ?」


「ちかい! 近い! 大丈夫だから! 自分で頑張るから!」


 前傾姿勢のままで近付いてくるエルミの迫力に、健太は焦った表情で無理矢理立ち上がろうとして馬車らから転がり落ちるように逃げ出した。


「……。まだ痛いぞ」


「申し訳ありません。まさかケンタ様が馬車から転げ落ちるとは。でも、安心してください! 今度、落ちられた時は必ず受け止めてみせます!」


「落ちないよ! その前にもっと考える事があるだろ!」


 握り拳まで作っているエルミの気合いの入りように苦笑を浮かべてツッコミつつ、健太は朝食を用意していた。レトルトパックのスープを開封して鍋に入れ、そこにフランスパンを切って投入していく。


「これは? 物凄くいい匂いがしますね。前食べたのと同じですか?」


「ああ。前にポタージュスープが気に入ったと言ってただろ? それにパンを入れてみた。このフランスパンはちょっと歯ごたえがあるからな」


「あのパンで歯ごたえがあると言われると、俺達が食べてる普段のパンは石っすよ。石! でも、この食べ方なら、俺らもしてますよ。材料は格段に違うっすがね」


 エルミの鼻がヒクヒクと動いているのを見て、軽く笑いながら健太が朝食の説明をする。そんな二人のやりとりを見ながらゲンナディーが会話に参加してきた。


「おお。そうなのか? 新しい調理方法だと思ったんだがな」


「こっちの保存食はとにかく堅いっすからね。なんとか柔らかくしようと試行錯誤をするんっすよ」


『するのだよー。ケンタ様! 私は大盛りでー』


 ミナヅキがゲンナディーの言葉尻を受け継ぎながら大盛りを要求する。そんな和やかな朝食が終わった一同は片付けを終えて出発する。健太にとって恐怖の馬車時間が始まった。


「大丈夫ですか? ケンタ様?」


「あ、ああ。大丈夫だ。な、なんとかな。道も綺麗になってきているようだな。もうすぐシャムシン領に到着か?」


 エルミ達の所領であるシャムシンに到着したのか、畑作業をしていた領民達が挨拶をしてくる。


「エルミ様ー。どうでしたかー?」


「みんなー。安心して! ケンタ様の威光でダヴィデンコ領主のマリアンナ姉様から塩の取り引きが出来るようになったわよ!」


 エルミの宣言に領民達が喝采を上げる。


「さすがはケンタ様だ!」

「これであのブィチコフ領の馬鹿息子を見なくて済む」

「ざまあみろ! ケンタ様! 万歳!」


 畑仕事をしていた領民は思っていたよりも多かったらしく、かなりの人数が馬車に集まっていた。そしてエルミの話を聞いて大歓声が上がる。


「こっちの世界でも万歳なんだな」


 呆然としながら呟いている健太に、ゲンナディーが近付いてきた。


「驚かれてます? それだけゲオルギーが嫌われてるんすよ」


『なのだよー』


 見当違いの発言をしているゲンナディーに便乗するように、ミナヅキが健太の肩に乗って楽しそうにする。そして周囲を沈黙が包んだ。突然の静寂に健太が周囲を見ると、全員の視線が健太と肩に乗っているミナヅキに集まっていた。


「せ、精霊様?」

「そうだよ! だって羽が生えてる!」

「おいおい。ケンタ様は精霊使いか?」

「いや。異世界の勇者様だろ?」


 徐々にざわめきが大きくなっていく中、今までの反応と違って健太が戸惑っているとエルミが小さな声で教えてくれた。


「このシャムシン領は異世界の勇者様と精霊使いが最初に訪れる地として、領民達には信じられているんですよ。そんな二人が自分達の目の前に現れたのです。それは驚きますよ」


 エルミの説明に健太は納得して頷くのだった。

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