第60話
「野営の準備できたっすよー」
ゲンナディーの声に健太とエルミは夕食の準備を始める。食事に付いては健太が用意したインスタント食品となっており、お湯を沸かしている間、ゆったりとした時間が流れていた。
「なんか久しぶりにくつろいでいる感じがするな」
「そうですね。ケンタ様を召喚してから、これほど色々な事が起こるとは思っておりませんでした。異世界の勇者様として活躍してもらう予定でしたが、まさか自領の問題が一瞬で解決するとは」
エルミの言葉を聞きながら健太は首を傾げていた。
「一瞬で解決したか? 塩の問題は1週間以上かかっているぞ?」
「いえいえ。普通に考えてください。領地の問題ですよ! 半年や1年は掛かりますからね! それに精霊まで味方に付けるなんて! ケンタ様は本当に凄いっす! ところでカップラーメンはまだ出来ませんかね?」
ゲンナディーの言葉に苦笑しながら健太が答える。
「カップラーメンが食べたいだけだろ! そんなに賛辞を送っても出来上がりまでに時間は掛かるんだよ。それと、エルミはこっちを食べればいい」
「これは? 先ほど、ケンタ様が水を入れておられた袋ですよね? 熱い!」
事前に健太が水を入れているのを見ていたエルミが、袋を触って熱さに驚く。
「ああ。これは水を入れるだけでお湯になって、中の食品を温めてくれる非常食だ。お湯すら作れない際に活躍するぞ」
嬉しそうに封を開けながら、具材をご飯に掛ける健太。
「ほら。牛丼の出来上がりだ。豚汁も用意したから一緒に飲めばいい」
健太から牛丼と豚汁が乗ったお盆を受け取ったエルミは席に着くと、一緒に手渡されたフォークを使って一口食べる。
「美味しい。美味しいです! お肉も、この白い穀物も味が濃くて幸せです。それにこのスープも野菜や肉がたくさん入っていて美味しいです。これが非常食なのですか? こちらでは非常食と言えば干し肉か堅パンくらいです」
「だろうな。乾パンはこっちにもあるが、それほど美味いもんでもないからな」
「ちょっと! ケンタ様! エルミ様だけズルいっすよ! 俺にも食べさせて下さいよ!」
エルミが美味しそうに食べているのを見て、カップラーメンを食べていたゲンナディーが自分も欲しいと言い始めた。
「カップラーメンがあればいいんだろ?」
「絶対に分かって言ってますよね! そっちの方が美味そうじゃないっすか! それを見てからカップラーメンを見たら、具だくさんスープにしか見えないっすよ!」
ゲンナディーの必死の表情に健太は笑いそうになりながら、もう一つ用意していた非常食の牛丼を取り出すと作り始めた。
『あれー。ケンタ様。なに作っているのー? 私も食べたいー』
空を飛んで追いついたミナヅキが、健太の肩に止まると牛丼を興味津々の表情で眺めながらお願いする。慌てたゲンナディーが必死の形相で止めようとした。
「な、なん……だと! ダメっすよ! ミナヅキちゃんでも譲れないっすよ! これは俺がケンタ様に――」
「ああ。いいぞ。ゲンナディーにも、この後で作ってやるから」
気楽な感じで答える健太に、ゲンナディーが愕然とした表情を浮かべて崩れ落ちる。さすがのミナヅキも驚いたのか、健太の肩からゲンナディーに飛び乗ると慰め始めた。
『ごめんね。ゲンナディーがそんなに楽しみにしてるなんて思わなかったのー。一緒に食べよ』
「ミ、ミナヅキちゃん。なんて良い子なんっすか! そうですね! 一緒に食べるっす!」
「いやいや。慰めているようにみえて、キッチリと自分のは確保してるぞ? まあ、ゲンナディーが喜んでいるなら良いか」
二人のやり取りを眺めつつ呟いた健太の声はゲンナディーには届かなかったようで、出来上がった牛丼を二人で美味しそうに食べ始めた。
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「ケンタ様は食べないんですか?」
「ああ。俺はパンとコーヒーで構わないよ」
健太はアイテムボックスからドリップ用の一式を取り出すと、お湯を沸かしつつ準備を始める。
「とは言っても、パンは炙ってハムとチーズも乗せるけどな」
パン屋で購入したパンを取り出して切れ目を入れると、そこに炙ったハムとチーズを挟み込み食べ始める。
「美味い。やっぱり軽く火を通すのがミソだよな。もう一つ食べよ……。どうした?」
「美味しそうです……」
「なんでケンタ様は俺達が美味そうに食べているものよりも、さらに美味そうなのを出してくるんっすかね?」
『ケンタ様ー。私もパン食べたいー』
3人からヨダレが垂れんばかりの視線を向けられた健太は、苦笑しながらパンを取り出すと自分と同じように作り始めた。
「それで、コーヒーも要るのか?」
「嬉しいです! お願いします」
「俺も、ウインナーコーヒーが飲みたいっす!」
『なにそれー。私もウインナーコーヒーが飲みたいー。美味しいのー?』
コーヒーが必要かとの問い掛けに、さらなる追加要求が3人から上がる。
「ここ数日で、1年分くらいのコーヒーを淹れたような気がするな。こっちで店でも開けるんじゃないか? よしよし。美味いウインナーコーヒーを淹れてやるよ」
冗談交じりの言葉にエルミが目を輝かせているのを見て、健太は嬉しそうに作業を始めた。




