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第6話

「にゃあにしてりゅんですかー」


「うぉ! ビックリした! な、なんだ。エルミさんか。どうしたんだい?」


「にひひー」


 まだ酔っているのか、呂律(ろれつ)の回らない口調でエルミが話ながら食堂に入ってきた。


「ちょっとにょみすぎたのでおみずを飲もうと思いましたー! にゃはははー」


「お、おう。そうか。コップと水だな――」


 頬を桜色に染め、目が潤んでいるエルミは思わず唾を飲み込むほどの妖艶さを醸し出しており、健太は瞬きも忘れて見つめてしまう。


「にっひっひっひ。にゃに見てるんですか? 私の可愛しゃにメリョメリョでしゅか?」


「飲み過ぎだな。酒は適度にしないと後で後悔するぞ」


「だいじょーぶっ! です! 意識はしっかりとしてましゅよ。ほりゃ! 『我、水の側で(たわむ)れるものなり。リフレッシュウォーター』」


 ニコニコと笑いながら近くにあるコップに手をかざして呪文を呟くエルミ。その透き通ったような白い手から透明の水がコップに注がれる。


「何度見ても不思議な光景だな。この魔法と言うのは……」


「ケンタ様のせきゃいでは魔法はにゃいんですよね?」


「ああ。そうだな。魔法はないが科学が発展してる。さっき月の動画を見せたスマホのようにね」


「うーん。凄いですよね。無詠唱で火がおこしぇたり、遠くまで移動できる乗り物があったいしゅるんですから」


 健太から聞いたり見せてもらった、ライターや電車の話を思い出してエルミが微笑む。少し酔いも醒めてきたのか、口調もマシになってきており、その様子に安堵した健太は小さく吐息をだす。


「じゃあ、そろそろ休もうとしようかな」


「え? は、はい! 初めてでしゅので優しくお願いしましゅ!」


「何をだよ!」


 酔った状態の頬を桜色に染めた状態から、耳まで真っ赤に変化させてモジモジとしだすエルミを見て健太が叫ぶ。


「お、お休みされるとのことでしたので……」


「ああ。そう言った」


「お休みされるなら夜伽がひちゅようかと!」


「なんでだよ!」


 真っ赤な状態で握り拳まで作って力説している姿も可愛いと思いながらも、エルミのぶっ飛んだ発言を自覚してもらうために大人の対応で健太は話し出す。


「いいかい。君はまだ若い。そんな年の子が『夜伽』なんていったらダメだ。ん? なんで震えているんだい?」


「私は16才ですよ! どうせ行き遅れですよ! 分かりました! ケンタ様の夜伽の相手は村一番の若手で人気のあるアンにしましょう! 彼女ならケンタ様のお気に召すかと――」


「じゅ、16才! 俺の世界なら十分に若いわ! ちなみに、そのアンって子は何才だ?」


 泣きそうになりながら顔を覆いつつ別の相手を提案してきたエルミに、慌てて見当違いの質問をする健太。


「10才です! ご満足ですか!」


「ご満足じゃねえ! 犯罪になるわ!」


「ではもっと年上がいいと? ならマダンさんにお願いを……」


「ちなみに、そのマダンさんの年齢は?」


「50才を越えてから20年は数えてないとのことです!」


「お前。もう酔い醒めてるだろ? 大人で遊ぶな!」


 顔を覆っている手をどけると、そこには笑顔のエルミがいた。小さく舌を出して首をすくめている姿に思わずドキリとする。


「本当にいいのですか? 五〇〇年前に異世界召喚された勇者様は、毎日夜伽を希望されたと古文書に――」


「最低だな! その前の勇者様は! 俺はそこまで飢えてない。2日後には帰るんだから気を使わないでくれ」


 健太からの何気ない返しにエルミの目が沈んだように見えた。思わず顔を確認しようとした健太が改めてエルミを見ると、先ほどと同じ笑顔があった。


「では、私の酔いも治まってきたので今日は寝ましょう。ロウソク代も馬鹿になりませんので」


「ああ。そうさせてもらう。明日は7時起きで構わないだろうか?」


「ななじ? ニワトットリーが泣く時間の事でしょうか?」


「……。よく分からんが、その時間に呼びに来てくれ」


「はい。畏まりました。ケンタ様。では、お休みなさいませ」


「ああ。お休み」


 エルミの口調が従者のようになっている事に健太は気付かずに寝室に向かった。



 夜も更け、全ての生物が寝静まるころ。熟睡中の健太の部屋を訪れるエルミ。気持ちよく寝ている顔を見て、慈母のような表情を浮かべつつ目には罪悪感を浮かべながら健太の唇に自らの唇を重ねる。


「『主として汝に生涯仕えることを誓う。エンゲージ』……。ごめんなさい。ケンタ様」


 頬を染めながらも涙を流し、嬉しそうにしながらも辛い表情も浮かべるエルミは、健太の頬を恐る恐る触れる感じで撫でると、意を決したように布団に潜り込んだ。


「……。んん。スマホ。スマホはどこだ?」


 雨戸の隙間から差し込む柔らかな光と、スマホが震える動作で目が覚める。


「場所が変わっても寝れるものだな」


 小さく苦笑しつつ呟きながら、寝ぼけ眼で自己主張を続けているスマホを取ろうと手を伸ばす。すると、いつもとは違う温かさと花のような芳香。それと右手に極上の柔らかさが伝わってきた。


「なんだ? この感触は?」


「んん! んっ! やっ!」


 柔らかさの正体を確認するため、手を動かしていると健太の耳に艶やかな声が届く。柔らかさの正体を一瞬で理解した健太は、覚醒してベッドから飛び降りると尻餅を付いた状態で口をパクパクとさせた。

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