第55話
「うん! 美味い。エルミは調理も上手いんだな」
取りあえず健太は爆発する野菜についてはスルー対応とし、料理だけを無心に味わっていた。そんな様子を眺めながらエルミは嬉しそうに何度も頷く。
「良かったです! ケンタ様の為に剣技と精神を研ぎ澄ませた甲斐がありました」
「剣技? あ、ああ。実に美味いよ。お代わりが欲しいくらいだが、他の者も食べただろうからね。さあ、皆も一緒に朝食を食べよう」
健太の言葉にゲンナディーやミナヅキの他にも食堂に集まっていた一同全てが席に座って食べ始める。
「あ、あの。ケンタ様。私の料理も食べてもらっていいでしょうか?」
「このスクランブルエッグか?」
おずおずとした感じで話し掛けてくるマリアンナが話し掛けてきた。健太がスクランブルエッグに視線を向ける。そこにはトロトロ状態で湯気を上げている黄色いスクランブルエッグが鎮座しており、美味しそうな匂いを醸し出していた。
「これの作り方を聞いても?」
「作り方ですか? ボウルに入れて塩で味付けした上で、よくかき混ぜます。そして熱したフライパンに油をしいて入れた後は、火を弱火にしてユックリとかき混ぜるようにして火を通していきます」
健太の質問にマリアンナは首を傾げながら作り方を説明する。作り方は自分と同じ事に安堵し、さらなる質問として素材の確認をした。
「ちなみに材料は? やっぱりニワトリの卵なのか?」
「えっ? ニワトットリーは関係ないですよ? これはスクランブルエグゥを使っています。てっきりご存じだと思っていました。スクランブルエグゥとおっしゃっていたので」
「違う。俺の知っているスクランブルエッグとは違う」
疲れた表情をした健太から材料の再確認があったので、マリアンナは首を傾げながらも説明する。
「えっと、スクランブルエグゥは獣道が交差している場所によく現れます。そこに風魔法を撃ち込むと、慌てて飛び立ちますので弓を使って撃ち落とします。その際に魔法を使うのはダメです。破裂してしまいますので」
「そうなんです! お姉様はスクランブルエグゥを狩り取るプロなのですよ。矢の傷一つで、それ以外の傷は付けない事で有名です。お姉様がとったスクランブルエグゥは『マリアンナ印』としてブランドにもなるくらいですから!」
「ちょっと、エルミちゃん。そこまで言わなくていいのよ。ケンタ様。私の領地ではスクランブルエグゥは特産品です。お気に召したのでしたら、いつでも用意させてもらいます」
マリアンナが恥ずかしそうにしながらも、エルミの説明に嬉しそうにしつつ健太にいつでも準備すると伝える。
「あ、ああ。俺の知っているスクランブルエッグとはちょっとだけ違うが、実に美味しいよ。こっちに来る時には食べさせてくれ」
「はい! 喜んで! よろしければ今後一緒に狩りに行きましょう」
マリアンナの誘いに健太は曖昧な表情で頷いた。
◇□◇□◇□
「では、お姉様の領地を視察しましょう」
「ああ。よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
無事(?)に朝食の終わった健太はエルミとマリアンナに護衛の兵士を連れて領内の視察を始める。ゲンナディーとミナヅキは昨日に続き、インナーゴウの解体作業のため鉱山に向かっていた。
マリアンナの領地に来てから宿屋と屋敷、鉱山にしか足を運んでいない健太としては市場や店などを見て回りたかった。
「まずは――」
「おお。ケンタ様ではないですか! ミナヅキちゃんは一緒じゃないのですか?」
健太に見覚えはなかったが、宿屋でミナヅキの冒険活劇を聞いた客の一人だったようだ。何気に近付こうとした男性だったが、健太の隣にマリアンナがいる事に気付くと驚いたようで、恐縮した表情になると軽い挨拶をして去って行った。
「ケンタ様は、すでに領民と交流があったのですね」
「交流って俺がじゃなくて、ミナヅキがちゃんが宿屋で冒険活劇を語ってただけだけどな」
「ああ。あの。兵士達も楽しんで聞いていたようです。近い内に王都でも話題になるかもしれませんね」
ミナヅキの冒険活劇を思い出したのか、マリアンナがクスクスと笑っていた。鉱山の問題が解決したのが原因か、最初に会った時とは見違えるほど表情豊かになっており、年相応の幼い感じに見えていた。
「どうかされましたか? ケンタ様?」
「いや。そうやって笑っていると可愛らしいと思いまして」
健太の唐突な台詞にマリアンナは真っ赤になると、下を向いてブツブツと言い始める。
「領主になってから恋愛は諦めていたのに。エルミちゃんがリンクなんて結ばすから意識して……」
健太には聞こえないように呟いているマリアンナの腕を取ると、エルミが離れた場所まで引っ張っていく。
「お姉様。ダメですよ。その気持ちは抑えて下さい。お姉様の魔力ではリンクが最初です。コネクト出来るタイミングになれば連絡しますので」
「わ、分かってるわ。でも、突然あんな台詞を吐かれたら意識しちゃうじゃない!」
健太としては軽い社交辞令程度の台詞だったが、恋愛経験がほとんどないマリアンナからすると天地がひっくり返るほどの出来事だった。




