第50話
「ポトフが出来るまで、もう少し時間が掛かるから別の物でも作ろうか。料理人さん。お肉ってあります? コレくらいの大きさに切って欲しいんだが?」
「ボリス。俺の名前はボリスだ。どんな肉がいい?」
健太の調理手順を一所懸命眺めていた料理人のボリスが確認してくる。この世界の肉について詳しくない健太は、少し考えるとスマホを取り出して唐揚げの作り方のページを開く。
「ほら。これを見てもらっていいか? こんな感じの肉で大きさはこれくらいにしてもらえると助かる。それと食用の油ってあるか?」
「こ、これは……。な、なんとも凄い魔道具だな。この中に閉じこめられているのか? これを取り出せばいいじゃないか? えっ? 取り出せないのか? 見るだけ? 不便なんだな。それと油は大量にいるのか?」
健太からスマホの画面を見せられたボリスは、スマホを残念な物を見るような顔になりながら確認してくる。その凄さに気付いてないボリスの様子にmマリアンナは苦笑しながらフォローする。
「なにを言っているのです。目の前に見られない物が、この場で見れるのは凄いことなのですよ」
「そんなもんですかね。あっしには分かりませんね。肉の形は分かりましたんで油と一緒に用意してきます」
軽い感じでマリアンナの話を流して、ボリスは収納場所に肉と油を取りに行く。その間に健太は並べている調味料の他に、試そうと思っていた漬け込み式の唐揚げの素を取り出した。
「ケンタ様。それは?」
「ああ。これは唐揚げの素だよ。これを混ぜて揚げるだけで料理が完成だ」
健太が取り出した一袋の唐揚げの素を眺めながらエルミが不思議そうな顔をする。健太は周囲から漂う「なにを作る気?」との微妙な空気が流れる中、気にすることなくアイテムボックスからパンや飲み物を取り出す。
「これくらいを取り出しとけばいいか。後は肉を待つだけだな。ちなみにボリスさんが持ってくるのは何の肉になるんだ?」
「この時期でしたらモウモウの肉でしょうか?」
「そうね。我が領にある肉ならモウモウでしょうね」
健太の質問にエルミとマリアンナが答える。モウモウがどんな肉か、なんとなく想像出来た健太は思わず顔をしかめる。
「そっか。牛肉か。どうする? 牛肉で唐揚げにするのか? うーん。別の料理にしようか。カレーだったら、こっちにもあったしな」
ケンタの呟きを聞いたマリアンナが少し慌てた様子でお願いをする。
「いえ。ケンタ様。出来れば唐揚げでお願いします。カーレは普段、私も食べることはありますので、我らが食べた事のない料理を希望します」
「そうですか? 分かりました。取り合えずボリスさんが持ってきた肉を見て考えるとしますね」
健太は頷きながら、牛肉を使ったレシピもスマホのアプリで検索を始めた。
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「持ってきましたよ。ケンタ様。これくらいでいいですか?」
「ああ。ん? 鶏肉だな。見た目は間違いなく鶏肉だな」
モウモウの肉と聞いて牛肉をイメージしていた健太が拍子抜けした表情になる。スマホの画面を見て、似ている肉を持ってきたにもかかわらず、変な顔になっている健太にボリスは顔を傾げながらモウモウの肉を手渡した。
「いやいや。俺の知っている肉の名前だと、別の肉になるんでね。その肉だと唐揚げに向いてなかったんだ。だから別のレシピを考えていたんだが、この肉だったら唐揚げに出来るな」
ボリスに説明しながら肉を受け取り、ボウルに入れると唐揚げの素を投入して混ぜ始める。
「ボリスさんが、いい大きさに切ってくれているから混ぜるだけで済んだよ。この大きさを覚えてくれたらいい。あと数袋あるからボリスさんに全部渡しておくよ」
「えっ? 全部? 俺に? 作れるのか? ケンタ様は簡単そうにやっているが?」
「まあ。その辺は作っているのを見て、実際に食べてから判断しようか」
健太は適温になった油に、漬け込んだモウモウの肉を入れながら話す。調理場に広がる食欲を刺激する匂いが充満する中、健太はポトフが煮込めたのを確認すると、出来上がった唐揚げをボリスに食堂に運ぶように伝える。
「分かりました。それにしてもいい匂いですな。これが俺にも作れるようになるのか?」
「まずは唐揚げの素で味を覚えてくれ。そして作り方は教える。とは言っても混ぜるだけだけどな。一通り出来るようになったら、唐揚げの素を使わないやり方を説明する。それまでは自分で試行錯誤するを止める気は無いから頑張ってくれ」
健太の言葉に、ボリスはやる気に満ちた表情で手渡された唐揚げの素を大事そうに握りしめながら、次々と出来上がる唐揚げを食堂に運んだ。
「じゃあ、さっそく食べてみようか。マリアンナ殿」
食堂全体に漂っている匂いが暴力的に鼻腔をくすぐる状態で、一同はヨダレが流れんばかりに釘付けになっていた。食堂に運ばれたポトフに唐揚げやパンが並べられたのを確認して、今にも料理に襲いかからんとしているマリアンナに挨拶するように促す。
「ん? ああ。そうだった。では、ケンタ様の恵みに感謝して頂こう」
食事開始の合図に、我慢の限界を超えた一同はもの凄い勢いで食べ始めるのだった。




