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第5話

「初めまして。異世界の勇者様。騎士爵領の当主であるステンカと申します。このたびは娘の召喚に応えて頂きありがとうございます。五〇〇年の時を越えての偉業ですので、慌てて王都に連絡便を出しましたよ」


「初めまして。勇者との意味は分かっておりませんが、内塀健太と申します。健太と呼んで下さい。貴方のご息女に召喚? されたとの事です。そちらについては理解できてませんので、食事をしながら話を聞こう思っています」


 にこやかな笑顔で握手を求めてくるステンカに、健太は同じく笑顔で応える。一見和やかそうだが、突然『勇者様』と言ってくるステンカを完全に怪しい人物認定しており、健太は表面上だけ友好的にしていた。


「じゃあ、冷える前に食事を始めましょうか?」


「そうですね。色々(・・)と話を聞きたいですからね」


 エルミが嬉しそうにしながら給仕を始める。ワインも用意されているようで、口に含むと思った以上に美味しく思わず感嘆の吐息がでる。


「美味い」


「良かった! このワァインも、この領地の特産なんですが、中々狩り取ることが出来ないので生産量が少なくて……」


 健太の聞き違いなのか、エルミが食べ物の話をする時は『狩る』との言葉が入っており、何度確認しても間違いではないようだった。


「ところで、私は召喚とやらをされたのですか? 私の知り合いが嬉しそうに勧めてくる別の世界に呼ばれる物語のように?」


「他の世界でも異世界召喚はされているのですね。私達の世界だけだと思っていました。五〇〇年に一度しか出来ないと古文書に書かれていましたので、そんなに頻度があるとは――」


 食事も中盤になり会話も弾んできた。質問に答えてもらった内容を健太は整理する。


 ――どうやら自分は目の前の少女によって、日本からこちらの世界に召喚された。そして召喚は五〇〇年に一度の割合で行われており、前回は戦国時代の日本人が召喚された。 と。


 そして、健太は一番気になる事を確認する。


「私が召喚された勇者かどうかは知りませんが、元の世界の日本には戻れるんでしょうね?」


「当然です」


 あまりにもアッサリと答えが返ってきたので、思わず聞き返す。


「……。それは何よりですが、いつ帰れるのでしょうか?」


「それは月の魔力が満ちるタイミングになるので――。次は二日後でしょうか? そうですよね? お父様?」


「ああ。そうなるね。三つ月(みつづき)が来るのは不定期だが、次は二日後で間違いないね。それにしても――。エルミが召喚の巫女とはね。本当に我が家の誉れだよ」


「だから私なら出来ると言ったではありませんか! これで我が家の立て直しが出来ますわ! それにあのクズの要求も……」


 二日後には帰れるとの事で安堵していると、また理解できない情報が増える。立て直しについては聞くと逃げられないような気がして軽くスルーし、最後は聞こえなかったので無視して三つ月が何かを確認する。


「ケンタ様の国には三つ月はありませんか? 空に浮かんでいる月のことですが?」


「それは分かる。月が満ち欠けすることを言っているかい?」


「三つ月が満ち欠けする? それは一体?」


 認識の違いがあるのか、会話が噛み合わない状況で健太はおもむろにスマホと取り出して、インストールしていた辞書アプリで月の満ち欠けを見せる。これは子供向けの辞書アプリだが、様々な事象を動画でも教えてくれるので、面白がって入れた物だった。


「月の満ち欠けは――。ほら、こんな感じだ」


「なっ! ケンタ様の国では三つ月が一つしかない! えー! 月の満ち欠けって本当に月が欠けるの? えっ! 元に戻るの!」


「ほほー。ケンタ様の国は不思議ですな」


 スマホの画面に釘付けになっている二人を健太は苦笑を浮かべて眺める。


「私からすれば三つも月があるこちらの方が不思議ですけどね」


 開け放たれた窓から見える三つの月を眺めながら健太は呟くのだった。


 ◇□◇□◇□


 その後、スマホの画面を見てテンションの高くなった二人は、アルコール摂取も多かったようで一時間ほどで完全に出来上がっていた。


「わかりゅましゅか? わたしゅがどれだけ、きょもんじょもぎゃんばってきゃいどくしたんでしゅよ! そえをあのきゅずはわらいやがらっのでしゅよ」


「分かった! 分かった! その話は何度も聞いた。おい! ステンカさん。娘を止めろ!」


「はっはっは! さすがはエルミ! 我が家の才媛よ! これで、ご先祖様に顔向けが出来る! わーはっはっは! 健太様の力をお借りして侯爵へと復活するのだ! 我が家の未来は明るいぞ! わっはっは。さすがエルミ! 我が家の才媛よー」


「ダメだ! こっちも使えねー」


 その夜。三人で開催された酒宴はエルミが酔った勢いで激しいボディダッチを行いながらグチりまくり、ステンカが真顔で同じ事を繰り返すなど、二人を部屋に叩き込むまで続いた。そして一人になった健太はやけ酒をしながら考えを纏め始める。


「とりあえず追加で分かった事は、この家は元侯爵である。そしてなにやら問題を抱えているという事か。それにしても元侯爵とはなんだ? 位が下がるって事か?そんな事があるのか? あっ。それとステンカさんは単なるバカ親だったな」


 食堂に戻った健太はスマホにメモを取りながら呟く。そして、二人から何度も呼ばれる呼称を思い出して苦笑を漏らす。


「それにしても『異世界の勇者様』とはね。なおが喜びそうな展開だな。あいつなら色々と嬉々として対策をしてやるんだろうな。エルミさんも可愛らしかったからな」


 最初に会った時と紅茶の説明を嬉しそうにしている時の表情、民族衣装やエプロン姿、宴会での酔っぱらった可愛らしさなどを思い出していた。その背後から忍び寄るエルミの姿に気付かずに。

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― 新着の感想 ―
[一言] Ⅰ話では打塀健太でしたが、5話では内塀になっています。 この先どちらにしているか分かりませんが、どちらかを修正を。
[一言] 「しちょります」とな? 方言なら作者は長州か?
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