第46話
「いやいや! エルミちゃん! そんな価格で交渉始める? いくらんでもその価格は――」
「いえ。それほどの事ではありませんよね? 保存食として購入されるなら大量になるので、価格交渉も致しますが、褒美の品として渡すなら少量の高級品としての価値を付与しないと。お姉様は家臣さん達に安物を褒美として渡されるのですか?」
マリアンナが提示された金額にのけぞりそうになりながら抗議をしようとするが、エルミは当然と言わんばかりの表情で金額を伝えてきた。
「ぐっ! そ、それはそうなんだけど……。ちょっと! 私だけに交渉させないでよ! 不利に決まってるでしょ。ただでさえエルミちゃんに甘いんだから。貴方、財務の長でしょ! 頑張ってよ」
「そ、そんな事を言われても……。エルミ様の説明に不備はありませんし、筋の通っている内容をひっくり返すのは私には無理です」
「この役立たずー」
マリアンナと財務の長とのやり取りを聞きながら、エルミは小さな声で呟くように話す。
「お姉様。提示した金額でカップラーメンやカップ焼きそばを購入して頂ければ、ケンタ様が用意した殺虫剤の優先購入権利をお渡しします」
あれほど自領を苦しめていたインナーゴウを一瞬で倒した異世界の道具が手に入ると聞いた、マリアンナと財務の長の動きが止まった。
「えっ? 本当!? いいの?」
「ええ。ケンタ様からも許可は頂いております」
「ねえ! ちょっと!」
「はい! 多少の高額でも致し方ありません! エルミ様。ちなみにケンタ様がバズーカタイプの殺虫剤と呼ばれていたのは試し打ちをさせて貰えますよね? それでしたら、先ほどのカップラーメンとカップ焼きそばの価格で問題ありません」
俄然、やる気スイッチが入った財務の長がテンション高くエルミに交渉をしてくる。完全に主導権を握ったエルミは、ほくそ笑みながら価格を次々と決めていった。
「お疲れさん。すまないな。面倒ごとを押し付けて」
「任せて下さい! これは我が領地にも恩恵がありますから、ケンタ様は気にしなくても良いのですよ。でも、労いのお言葉は嬉しく思います!」
一仕事終えて、満足げな表情を浮かべているエルミに、健太が近付いて礼を伝える。自領の為にもなるとの言葉に健太は感心しながらもお礼を手渡す。
「これはお礼だ。後で食べてくれたらいい」
「なんですか? 綺麗に包まれていますね? えっ! こ、これって……。紙ですか?」
健太から何気に受け取った箱を包んでいるのが紙だと気付いたエルミの手が震える。
「こんな綺麗な紙を包むためだけに使う? そ、それだけ貴重品との事ですね」
「いやいや。そんな気にする事はないぞ? 俺の国では当たり前の包み紙だからな」
健太の言葉を真に受けずに、エルミは慎重に紙を外していく。ミリ単位でのズレを許さないように綺麗に畳んでいるエルミに健太は苦笑を浮かべながら見守っていた。
「綺麗……。これってチョコレートですか?」
「ああ。果物をソース状にして表面にコーティングしているチョコレートだ。ちょっとだけ奮発してみたんだ。喜んでくれると嬉しい」
照れくさそうに話す健太に、エルミは目を潤ませながら感動していた。チョコレートをもらった事でなく、健太が自分の為にわざわざ探して買ってくれたのである。両手で抱きしめるように持つと満面の笑みで感動を言葉にした。
「ありがとうございます! 嬉しいです! これは私の宝物として一生大事にします!」
「いや。食べてくれ。チョコレートなんだから」
エルミの感動した表情を見て最初は微笑ましそうにしていたが、そのままだと一生食べないように感じた健太は素でツッコむのだった。
◇□◇□◇□
「えっ? エルミ様だけっすか?」
『私にもないのー。えー。エルミだけズルいよー』
「ああ。すまん。ゲンナディーとミナヅキの分もあるぞ」
「えっ?」
横で見ていたゲンナディーとミナヅキから抗議の声が上がる。健太は笑いながらアイテムボックスから取り出すと手渡す。エルミは自分だけでなかった事に思わず声を上げる。
『わーい。ケンタ様ありがとー。面白いー』
ミナヅキに手渡されたのは水鉄砲であり、使い方を教えてもらった彼女は嬉しそうに受け取ると、自らの魔力を充填して撃ち出していた。
「いやいやいや! なんすか! このエルミ様との違いは! あまりにも差を付けすぎじゃないですか! しかも封が開いているし、半分くらい食べてるし」
ゲンナディーには健太から宿屋で以前に配られたチョコレートの残りが手渡されていた。さすがに憤慨している様子に、健太は笑いながら謝罪する。
「すまん。すまん。ちょっとした冗談だよ。だが、エルミと差を付けるのはしかたないだろ? 俺は女尊男卑をモットーにしてるんだよ」
「意味分かりませんよ! なんすか。その『じょそんだんひ』ってのは?」
アイテムボックスから煎餅を取り出して手渡しながら、自らのモットーを伝えたが上手く伝わらなかったので滑った感じになっていた。
「ま、まあ。可愛い女性には甘くなるんだよ。俺は」
「はー。なるほど。確かにエルミ様は可愛いですからね」
健太の投げやりな感じの説明に、納得した表情で煎餅を受け取って美味しそうに食べながらゲンナディーが頷いている横でエルミは顔を真っ赤にしていた。




