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第44話

 大量に設置した煙幕系の殺虫剤から、それに見合った量の煙が噴出する。最初は羽音を立て、健太達に襲いかかろうとしていたインナーゴウの群れだったが、煙が身体にまとわりついた瞬間にのたうち回りだした。


 鉱山を振るわすようやな羽音が断末魔のように巻き起こる。その音に健太は恐怖心をかき立てられながら必死の表情で走る。


「おお。超怖すぎる! これってヤバくないか!」


『走るのー。私もこの音嫌いー』


 健太が久し振りの全力疾走をしている横をミナヅキが飛びながら檄を送る。振り返る事なく入り口まで走りきった健太は肺が痛む程、息が荒くなっていた。もの凄い勢いで飛び出してきた様子に、マリアンナが焦った表情で近付いてくる。


「ケンタ様! どのような状況ですか?」


「ぐっ! はぁぁ。ふ、普段の運動不足が……。うぇぇぇ! マ、マリアンナ様。ね、念のために、ここにいる戦える人に戦闘準備を!」


 息が整わない状態の健太は盛大に嘔吐(えず)きながらも、深呼吸をして大きく息を吸うと心配顔のマリアンナに指示を出す。事態を重く見たマリアンナは周囲にいた兵士達に命令を下す。


「総員戦闘配置に付きなさい! 魔法兵は詠唱の準備を! 私は鉱山に入ります!」


「マリアンナ様! それは!」


 マリアンナの突入宣言に戦闘配置をしていた一人が慌てた表情で止めに入る。健太も一緒に説得しようとしたが、エルミが心配で堪らないマリアンナは周囲の制止を振り切って叫んだ。


「エルミとゲンナディーさんが出てきていません。救助に向かわないと!」


「ごふぉ! うぇぇぇ! ごほ! ぐ、苦しい……」


「こほこほ! け、煙が目にしみて痛い……」


 マリアンナと健太達が揉み合っている中、ゲンナディーとエルミが入り口から飛び出してきた。二人とも目には涙を浮かべており、喉も痛めたのかガラガラ声になってた。


「エルミ! 無事か!」


「はい! 大丈夫です! 後はここを蓋すれば一網打尽が出来るかと」


「そうか! ちょっと下がってろ!」


 健太は近くにあった岩を赤枠のアイテムボックスに収納すると、入り口に積み始める。意図に気付いた魔法兵達が土魔法で入り口を一緒に塞ぎ始めた。


「よし。これでしばらく様子を見よう。中の様子は?」


「何体か、煙を吸ってもこちらに向かって攻撃を仕掛けてきました。ゲンナディーと防ぎながら後退をしつつ、これのボタンを押していたのですが、あまりにも煙が充満したので途中からは逃げの一途でした。たぶんですが襲ってきてのはインナーゴウの王女と王などの王族だと思われます」


 健太からミネラルウォーターが入ったペットボトルを受け取ったエルミが一気に飲み干して、声の調子を整えると鉱山内での報告を始める。


「私達に攻撃を仕掛けてきたのはかなり大きな個体でした。なんとか傷を付けずに防御に徹していたので、後で回収が出来ればマリアンナ様の屋敷に飾れば良いかなと思いまして」


「えっ? アレを飾るのか? こっちでは魔物を飾る習慣があるのか?」


 エルミの提案に、健太がビックリした表情でマリアンナを見ると慌てた表情で必死に顔を左右に振って否定してきた。


「いえいえ! 我が家に飾るつもりはありませんよ! 魔物を飾るなら、もっとこう! なんというか! 分かります! インナーゴウじゃなくて! こうですね!」


「ああ。分かった。言いたい事は分かった。安心してください。エルミならではの提案なんですよね?」


「そうです! 良かった! 通じた! エルミちゃんはちょっと、その辺りの感性が違うのです」


 あまりにも強烈に否定をしてくるマリアンナに健太は納得して深く頷きながら答える。自分の主張が理解して貰えた事にマリアンナは嬉しそうに健太の手を握るとブンブンと音が鳴る勢いで上下に振った。


「お姉様! ケンタ様の手を握るなんて! それになぜお二人は意気投合をされているのですか? 先ほど、お姉様は必死に否定されていた理由も分からないのですが?」


 二人が手を握っている様子を憤慨(ふんがい)しながらも、マリアンナが必死に否定した理由が理解出来ないエルミだった。


 ◇□◇□◇□


「では、しばらくは様子を見る必要があるので休憩をしましょう」


「分かりました。では準備していた保存食を――」


 マリアンナが控えていた兵士に保存食を出すように命じようとしたが、それを健太が止める。訝しげな表情を浮かべているマリアンナに、アイテムボックスからカップラーメンを取り出して説明を始めた。


「これは俺の国での保存食で、お湯を注いで3分待つだけで麺になります」


「え? どういうことですか? お湯を注ぐだけで料理が作れる? ウードンの用にですか? しかし、あれはかなり取り扱いに難がある食材ですが……」


 ウードンを思い出して苦笑しながら、健太はカップ麺の蓋を少し剥がして粉や乾燥野菜等を入れるとお湯をもらって注ぐ。


「どうぞ。これが俺の国のカップラーメンですよ。マリアンナ様からどうぞ。皆さんの分も用意しておりますよ」


「こ、これがケンタ様の国の保存食。物凄く良い匂いがしますね。ん! 麺も美味しい! それにこの軽さ。えっ? それほど保存が可能なのですか? ケンタ様! このカップラーメンの取り扱いを求めます!」


 恐る恐るな感じで食べ始めたマリアンナだったが、スープの美味しさと麺の食感が気にいったようだったが、それよりも軽さとなによりも保存期間を聞いて導入を健太に頼むのだった。

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