第42話
「ボタンを押すだけなんて。ケンタ様。騙しましたね」
ふくれっ面のエルミの頭を撫でながら、健太が笑いつつ答える。
「ふふふ。日本人が使う道具で難しい物はないんだよ。特に家庭で使うレベルの物はなおさらだな」
「むー。ケンタ様。使い方が簡単なら私に任せて――」
「『任せてくれてもいいでしょう』なんて言うなよ。俺もエルミの役に立ちたいんだよ」
突然、気取ったせりふを言ってきた健太にエルミの顔が真っ赤になる。ちょっとだけ気障ったらしく言った自覚のある健太も、恥ずかしそうに少しエルミとの距離を開けた。
『二人とも顔が真っ赤ー』
「こら! ミナヅキちゃん!黙ってないと! 後でエルミ様に怒られるっすよ!」
岩陰から小声が聞こえる。慌てて距離を取った健太とエルミが焦ったように声がする方に視線を向けると、しゃがみ込んだゲンナディーと口元に手を当ててニヤニヤと笑っているミナヅキがいた。
「こら! 戻っているなら報告しなさい!」
「いや。無理っすよ! あんな甘い空間の前に、出たくても出れなかったですよ!」
『そうだよねー。私もそう思うー』
二人の視線を受けて、さらに真っ赤になったエルミに健太は苦笑しながら報告するように促す。
「いいから報告。インナーゴウは居たのか?」
「俺の方には居ませんでしたよ」
『私の方には3匹居たけど、一瞬で倒したー。卵もあったー』
ゲンナディーの報告を軽い感じで聞いた健太だったが、ミナヅキの内容に驚きの声を上げる。横で気楽に聞いていたゲンナディーは勢いよくミナヅキをみると確認する。
「なっ! 卵があったの? 数は? ふ化しそうだったすか?」
『んー。ちょっと分からないー』
こてんと首を傾げながら答えるミナヅキに一同は苦笑すると、卵以外のインナーゴウは倒したとの内容を確認するために卵が大量にある場所に向かった。
「ここか?」
『そうだよー』
ミナヅキの案内でやってきたのは、鉱山夫達が休憩で利用していた場所だった。程良く広さがあり、道具などを置くための棚に等間隔で卵が並んでいた。
「卵は思ったよりも小さいんだな」
「そうですか? 十分に大きいですよ? ふ化するには、あと数日はかかりそうですね」
「これはどうする?」
健太の呟きにエルミが答える。ふ化するまでには時間が掛かるとの話に、健太は安堵のため息を吐くと卵の取り扱いを確認する。
「持って帰りますよ。卵の状態なら中級回復薬の材料になりますし、卵も容器として利用できますから」
「この世界は食材や素材に満ち溢れているな……」
今のところ、出てきた物が全て食材が素材になっている事に、健太は感心した表情になる。そんな表情を見ながらエルミが恐る恐る確認してきた。
「ケンタ様。この卵を持って帰りたいのですが、ケンタ様のアイテムボックスに収納できますか?」
「ん? 俺のアイテムボックスに収納すると、こっちの世界では取り出せなくなるぞ? 試してみるか?」
健太は卵を1個手に取ると収納する。ステータス画面で収納出来た事を確認した健太は、取りだそうと手をかざした。
「えっ? 取り出せる? なんでだ?」
「凄いです! ケンタ様!」
「おお! じゃあ、これをケンタ様に運んでもらったら楽できるっすね!」
唖然として呟いている健太に、エルミが嬉しそうに飛び跳ねる。その横でゲンナディーも運搬の手間が減る事を喜んでいた。
「このステータス画面に表示されているアイテムボックスの色が違う事に意味があるのか? レベルの上がった効果? それとも、元からある性能か?」
よくよく見ると、マス目になっているアイテムボックスの縁が数個だけオレンジ色になっていた。異世界側も日本側も同じ個数があり、健太は軽く試す感じで日本側のアイテムボックスに収納していたチョコレートを取り出すと、もう一度収納してみた。
「出来た……」
「あっ!」
突然、声を上げたエルミに健太が何事かと視線を送る。顔を赤くして俯いているエルミに声をかけると、小さな声で返事をしてきた。
「チョコレートがもらえると思ったので……」
「ん? なんだって?」
「休憩でチョコレートがもらえると思ったんです!」
「ああ。聞こえてたぞ。じゃあ、休憩にしようか。インナーゴウは来ないよな?」
赤い顔をしているエルミをゲンナディーと一緒にニヤニヤと見つつ、健太がミナヅキに敵が居ないかを確認する。
『大丈夫ー』
「巣には護衛が居ますので巡回等で、別のインナーゴウが来ることは習性としてありません。それと! ケンタ様! さっきの私の声は聞こえていたでしょう!」
「はっはっは。まあ、そう怒るなよ。じゃあ、飲み物とチョコレートで休憩しよう。その後で卵の収納を考えようか」
からかわれたことに気づいたエルミが頬を膨らませながら抗議をするが、健太は笑いながら流すと休憩を告げた。
「ほら。これを飲んで機嫌を直してくれ」
「なんですか? こんな物で私の機嫌は……。美味しい! ブウドウ?」
「そうだ。葡萄ジュースだ」
アイテムボックスからペットボトルに入った葡萄ジュースを取り出してエルミに渡す。若干の発音の違いが気になったが、目を丸くしながらも美味しそうに飲んでいるエルミを見て、ゲンナディーとミナヅキにも次々と手渡していくのだった。




