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第4話

「紅茶がお気に召したようで良かったです」


「本当に、美味しいですよ。果物の香りがしますし若干の甘みも感じますが、なにか特別な茶葉を使われているのですか?」


 二杯目の紅茶を飲みながら、一息入れるために別の話題をエルミに振る。自分が作った紅茶を誉められたエルミは嬉しそうにしながら作り方の説明をする。


「まずはコウの木を狩り上げます。それとティーの草を討伐します。その二つを混ぜ合わせて乾燥させると茶葉の完成です。狩る時期を調整する事と、止めを刺すタイミングを変化させる事で味に違いが出るんですよ。この辺りのコウの木は気性が荒いので、本来なら速攻で狩る必要があるのですが、ケンタ様の為に時間を掛けて止めのタイミングを見ました。この紅茶は王都にも卸している高級茶葉なのですよ」


「そ、そうですか――」


 作成工程に気になる単語が溢れていたが、嬉しそうにしているエルミの顔をみて質問するのを諦める。


「実に美味しかった。個人的に欲しいくらいですね。では、質問の続きをしても?」


「はい! なんでもどうぞ!」


 それからも健太の質問は続いたが、納得できるような情報はなく、日が暮れる頃には二人とも疲労困憊になっていた。


「健太様。日も暮れてきましたので明かりを灯しても?」


「ああ。そうですね。もうこんな時間か。なにも分からないまま時間だけが過ぎていく――。なっ!」


 ロウソクを持ってきたエルミを何気に眺めていた健太が驚愕の表情になる。火打ち石でも持ってくるのだろうかと、冗談混じりに思っていた健太の目の前でエルミが何事かを呟くと指先から小さな火が灯った。


「な、な、な……。マジック?」


「そうですよ。生活魔法ですよ? ケンタ様は使えないのですか?」


 さも当然のように話しているエルミの指先を眺める。ライターのように指先に火が付いている状況に理解が追いつかない健太は、思わず火を触ってしまった。


「熱っ!」


「ケンタ様! 突然なにを! 見せて下さい! 火傷してるじゃない。『我、この者の傷を飛ばす。キュアリー』」


 火傷した右手に口を近付けながらエルミが呟くと、その手が柔らかく光り始め健太を包んだ。すると、今までヒリヒリとした痛みが嘘のように引いていき、一緒に転倒したときの痛みの消え去っていた。


「なっ! 痛みが消えた? 水膨れも消えた? 手首と肩の痛みも? い、今のは?」


「回復魔法ですよ。ケンタ様の国には魔法が無いのですか?」


「ないのでございますよ」


 傷が消えたことに満足げな表情を浮かべながら嬉しそうにしているエルミ。現代知識ではあり得ない事が目の前で起こり、混乱したまま呆然としている健太。全く話は進まないまま時間だけが流れた。


「お食事にされますか? お風呂にされますか? それとも――」


「そ、それとも……?」


「お休みになられますか?」


「だよな! そうだと思ったよ! い、いや。なんでもありません。では、今日は考えがまとまりそうにありませんので食事して、お風呂に入って寝ることにします」


 エルミの提案に健太は顔を赤らめながらも、空腹を覚えてお願いをする。そんな様子に首を傾げながらも、笑顔で頷くと食事の準備を始めた。


◇□◇□◇□


「さてと――」


 食事の準備をするとの言葉に健太は別室に案内された。ここは亡くなった弟の部屋とのことで、小綺麗にされていたが物はベッドと机以外には何も置かれてなかった。


「まずは情報の整理だな。スマホをフル充電にしておいて良かった。これも仕事が終わったら塚腰とゲームをする約束をしていたからだな。ここがどこかは分からんが、あいつは無事なんだろうか?」


 スマホに情報収集した内容を打ち込みながら、音のない世界になってしまった日本の様子が気になっていた。だが、現時点では何もする事が出来ないと苦笑を漏らすと小さく呟く。


「まあ、俺が心配したところでどうも出来ないけどな」


 軽く首を振りながら気を取り直すと入力を続ける。分かっているのは、この世界がセルドルフィアである事と国の名前がタージュ王国であり、この場所はエルミが住む騎士爵領シャムシンである事だけだった。


「ああ。紅茶の作り方は意味が分からなかったな。それとリンゴの発音もおかしかったが……」


 日本で店を開いたら行列が出来そうな絶品の紅茶と、一緒に出された極上のリンゴを思い出しつつ思わず口元がほころぶ。


「さて、食事をした後はなにを確認するかな。あの古文書でも見せてもらうか?」


 これから確認する事をメモした健太はベッドに横になると疲れからか自然と瞼が閉じた。


「ん? 寝てしまったのか? 今、行きます!」


 扉をノックする音で目が覚めた健太は慌てて返事をすると扉を開ける。そこにはエプロン姿になったエルミがいた。先ほどの服にピンク色のエプロンをしている姿に思わず健太は小さく呟いてしまう。


「可愛い」


「えっ! え、ええっ! あ、ああありがとうございます。こここちらに食事を用意しちょりますので……していますのでどうぞ」


 小さな呟きはエルミの耳に届いたようで、真っ赤になりながら食堂に案内する。そこには湯気が立った状態の料理が並べられており、それと一緒に芳醇な香りも漂ってきた。


「これまた豪華ですね」


「ええ。ちょっと奮発しました。異世界から来て頂いたケンタ様に美味しい物を食べていただこうと。領内の視察から戻ってきた父も着替えが終わったら――」


「エルミ。こちらが異世界の勇者様かい?」


「お父様。その通りです。こちらが異世界の勇者様のケンタ様です」


 椅子に案内され、健太が腰を掛けたタイミングで奥の扉が開き男性が入ってきた。

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