第38話
「思った以上に儲かったな。これは異世界に輸出するだけで生活が出来るんじゃないか?」
ホクホク顔で金属買い取り業者の店から出た健太は、車に乗り込みつつ機嫌良く呟いていた。
「これだけあれば遠慮なく買い物が出来るな。そうだ! 今回は塩の購入以外にもお菓子を大量に買おう。種類も今まで以上に増やそう。ポテチの他にも塩味の物も買おう。ミズキなら喜んでくれるだろうしな」
財布がはちきれんばかりの状態になっている事で気分良くしている健太は、ホームセンターに到着すると塩売り場に向かう。前回とは違う店にきていたが、前の店と同じように大量購入する姿に店員から好奇の視線を向けられつつ質問を受ける。
「もし宜しければ利用方法を教えてもらっても? この店で働いて20年近くになりますが、これほど塩を購入された方を見るのは初めてなもので」
「あー。ちょっと色々と試していることがありまして。詳細は言えませんが、お店を開こうと思っております」
「塩を使ってですか?」
「ええ」
詳細を伝えずに誤魔化しながら話す健太。要領を得ない内容に店員は曖昧な表情で笑うと、カート数台に積み上げられた塩を健太の車にまで数人がかりで運んでくれた。
「店長の山本と申します。また、ご利用される際はご連絡下さい。必要な量を用意させてもらいますので」
荷物を運んだ一人は店長だったようで、名刺を受け取った健太は名字は伝えずに名前だけを伝える。
「店長さんでしたか。健太です。まだ軌道に乗っているわけではないので、あまり期待しないで下さい。ここまで運んでいただきありがとうございます。まだこちらで買い物があるので」
「そうでしたか。それはありがとうございます。店の者にもお客様の事を気にするように伝えておきます。なにかあれば私を呼びだして下さい」
気になるはずだが、それ以上は追求せずに気さくな感じで去っていく店長に好感を持った健太は、この店を贔屓にしようと決めた。
「よし。じゃあ、今度は虫対策を考えるか」
健太が殺虫剤のコーナーにいると、近くにいた店員が近付いてきた。
「なにかお探しですか?」
「ああ。ちょっと入り組んだ洞窟にいる虫を退治したくてね。なにかお勧めはある?」
「はっ? ど、洞窟ですか? い、いえ。失礼しました。洞窟の中でお店でも開かれるのですか?」
想定ではない回答が健太からやって来たことに店員が素っ頓狂な声を上げる。
「そりゃ変な声にもなりますよね。ちょっと特殊な状況なので放置してもらって大丈夫ですよ」
「いえ! お客様のどんな要望であろうとも、全力で応えるのが私達の店の目標です!」
「お、おう。それは心強いな」
力説している店員に健太は若干引きながらも話を続ける。
「それで、結構大きな洞窟なんだが……」
「それでしたら範囲を限定しながら煙幕系の殺虫剤はどうでしょうか? こちらでしたらスイッチを押すだけで大丈夫ですよ。それと一定の距離で置けば、さらに効果的に駆除出来ますよ」
持ってきた殺虫剤を見ながら説明をする店員の話に説得力を感じた健太は購入することを決める。
「じゃあ、それを予備も含めて50個もらうよ。それと噴射式のも欲しい。遠くから攻撃できるといいのだが」
「ご、50個! ちょっと在庫を確認してきます! それと噴射式ですよね! 射程の長いのならバズーカ砲タイプのがあります。無風状態なら10メートルは届きますから安心ですよ」
「よし。それも10個もらおう」
健太の言葉に店員はバックヤードへ向かって在庫の確認をするのだった。
◇□◇□◇□
「お買い上げありがとうございました! またのお越しをお待ちしております」
殺虫剤の在庫がなかったが、近くの支店から取り寄せてくれた事に健太は感謝しながら車に乗り込む。
「ああ。また来るよ。大量の時は店長の山本さんに事前に連絡するようにするから。ありがとう」
「いえいえ。こちらこそ多くのご購入ありがとうございました。お店が上手くいく事を祈っております」
丁寧に頭を下げる店長に健太はすっかりファンになったようで、次も来る事を伝えながら車を出した。前回パンを買った店に到着すると、周りに車が止まっていない事を確認して健太は後部座席に移動すると次々と塩の収納を始めた。
「前はこれを収納出来なかったが……。おぉ! 出来た。やっぱりアイテムボックスのレベルが上がったからか? ――。塩も他の荷物も全部収納出来たな。これって、なんとか収納量が分からないのか?」
ホームセンターで購入した物を全て収納出来で安堵しながらも、限界が分からな事に焦燥感を覚える。
「『現れよ!』なんとか出来ないのか? 少しくらいは融通を聞かせてくれてもいいじゃねえか! 容量を表示してくれよ!」
苛々しながらステータス画面を確認していた健太だったが、画面が切り替わった事に戸惑いを覚える。
「なんだ? 画面が切り替わった? これは一覧と容量なのか?」
ステータス画面には容量が91パーセントと表示されており、一覧には四角い枠の中に収納した物が納められていた。
「ひと枠に一個なのか? すると前に塩が入らなかったのは枠に余裕はあったが、容量をオーバーしたからか? じゃあ、今回のレベルアップで容量と枠が増えたのか? 前を知らないから検証も出来ないな」
本来なら喜ぶ話なのだが、健太は微妙な表情を浮かべながらステータス画面を眺め続けた。




