第36話
「まあ、取りあえず上がれ」
「まだ痛い……。ちょっとからかったくらいで叩かないでくださいよ。それにしても荷物が重かった。よく、喫茶店まで運んだな俺」
健太の家に着いた直章が頭をさすりながら苦情を伝えてくる。
「からかうおまえが悪い。それにしても、こんなに大量の本をどうしたんだよ? やっと、捨てる気になったのか?」
「馬鹿な事を言わないでください! それを捨てるなんてとんでもない! なに考えてるんですか! 健さん!」
机をバンバンと叩きながら抗議をしてくる直章に健太は気圧されて謝罪する。
「わ、悪かったよ。そんなに怒るなよ。じゃあ、この荷物はなんだよ?」
「そんなの決まってるじゃないですか! 健さんの勉強ですよ!」
健太がキョトンとしていると、その顔を見て人差し指を立てて左右に振りながら直章が言い放った。
「ちっちっちっ。分かりませんか? エルミちゃんの為ですよ! 彼女と異世界の話で盛り上がらないと! せっかく共通の趣味が出てきたんですから!」
「いや。俺は別に趣味じゃ――」
「しゃらーぷ! 聞かん! 聞かんぞ! そんな誤魔化しは私には効果はないぞー。どうみても健さんは今回は超乗り気じゃないですか!」
「お、おう」
あまりの剣幕に押され気味になる健太に、言い負かして気分を良くした直章は大量の本から一冊を取り出すと健太に手渡した。
「まずはこれから読んでください! 前に健さんが話していたアイテムボックス関係のラノベです!」
「ふーん。アイテムボックスが書かれているラノベねー。ひょっとしてバージョンの事とかあるのか?」
パラパラとページをめくりながら内容を確認する健太。そのライトノベルには主人公がアイテムボックスを使っている描写があった。
「んー。この本には書かれてないな」
「なにがです?」
小さく呟いた健太に直章が確認してくる。その質問にアイテムボックスの横に表示されている数字の話をする。
「いや。ちょっとエルミと、そのアイテムボックスの話になってな。で、『アイテムボックスの横に数字があって2となった時の、アイテムボックスについて全く知識がない人の反応はどう書けばいいですかね』と聞かれてるんだよ」
「相変わらず、なんでそんなに具体的な質問なんですか? エルミちゃんが書いてる小説ですよね? あっ! なるほど!」
「な、なんだよ? なにが分かったんだよ?」
手を合わせて健太を見ながらニヤニヤとする直章。そんな様子を見て、思わず動揺する健太。
「エルミちゃんは健さんを試しているんですよ! ちゃんと自分との趣味を分かち合えているかを! なるほどねー。愛されていますなー。もげろ! いや爆ぜろ! くそう。俺もエルミちゃんみたいな――」
「やらん!」
「分かってますって! 本当にエルミちゃん絡みになるとムキになりますよね。それで、アイテムボックスの横に数字が出てるんだったら……。いや、健さんが考えた方がいい気がしますね。これも試練だと思って頑張ってくださいよ」
健太の態度に直章が苦笑しながら答える。
「試練……。そうだな。俺はバージョンだと思ってるんだが」
「なんでやねん! いやいや。おかしいでしょ! さすがにツッコみますよ。数字ならレベルでしょ! なんでバージョンなんですか。アイテムボックスのレベルが上がったとの回答でしょうが! エルミちゃんでも怒りますよ」
「なるほどな。レベルか! レベルが上がったんだな。で、レベルが上がるとどうなる? アイテムボックスだから強くはならないよな?」
「そうですね。単純に考えると容量が増えるとか……。後は収納できる種類が増えたり、温度管理が出来たりもする話が多いですよね」
うんうんと唸りながらレベル上昇による効果を考えている直章。その横で小さくステータス画面を出しながら色々と試す健太。
「健さん? なんで右手を突き出しているんですか?」
「い、いや。アイテムボックスを出すときのポーズだとエルミに聞いてな」
「ステータス画面を出すじゃなくて?」
慌てて言い訳をした健太の内容に、直章が軽い感じで答えた。
「ああ! なるほど! ステータス画面か。おかしいと思ったんだよな!」
「なんっすか! 突然叫ばないで下さいよ。なんで、急に納得してスッキリした顔になってるんですか? 今まで物凄い勘違いをしてた感じですね?」
急に大声で叫んだ健太に驚きながら直章が不思議そうな顔をする。
「い、いや。エルミと会話が噛み合わないと思ってたんだよ。これで問題なく話が出来るよ」
「もう。しっかりしてくださいよ。ステータス画面を表示させるなんて基本中の基本ですよ。それでエルミちゃんとの話で他に勘違いはあるんですか?」
「いや。俺が全く知識がないから勘違いしているもなにも――。お。そう言えば精霊に名付けをするのは危険なのか?」
直章の軽い感じの問い掛けに健太が答える。
「おお。エルミちゃんいいですね。やっぱり精霊とか出したいですよね。俺も使い魔的なキャラが出てくるのは大好物です。後はモフモフは必須だと思いますが健さんはどう思いますか?」
「モフモフ? それよりも精霊の名付けの話をしないか?」
「なんで、そんな必死? いいですよねー。俺もなんか書いて健さんと情報共有しようかな」
偏った感じの知識ながらも一所懸命に勉強しようとしている健太の姿に、直章は感心したように頷きながら自分も作品を書こうと思うのだった。




