第35話
「ふう。やっぱり慣れん。この送り迎えはちょっと無理がないか? 500年前に召喚された尾張の国の勇者はよく頑張ったよな。それとも一度召喚された後は戻らなかったのか?」
エルミによって日本に帰ってきた健太はふらつきながら軽く頭を振って意識をはっきりとさせる。しばらくして落ち着いた健太は、確認のために時計を眺めた。
「ん? 前に比べると少し時間が経過している? 呼ばれた時間から1時間ほど経っているな」
時計と携帯の時間がズレている事を確認して、健太は不思議そうに首をかしげる。
「前回の時は時間は全く進んでいなかったがなにあるのか? 1回目と2回目の違いは? ちょっと違いを確認する必要があるなアイテムボックスを開くか『現れよ!』」
健太はステータス画面を表示すると画面を眺め始める。
「うーん。特に違いを感じられないな。ん? アイテムボックスが『2』になっているな。違いはなんだ? バージョンが上がったのか? 上がったとして何が上がったんだ? 容量か? 性能か? 両方がつながったとか? それはなさそうだな……」
ステータス画面には前回と同じ文字が表示されており、相変わらず画面の内容が理解できていない健太は首を捻るしかなかった。
「おっ? スマホの時刻同期が終わったみたいだな。なおから連絡? 珍しいな?」
スマホのランプが点灯しているのを見て、画面を確認すると直章からメッセージが届いていた。
『けーんさーん(´・ω・`)あーそーびーまーしょー』
「なんで、あいつはオフの時のメールはいつもこうなんだ? まあ、いいか。『おう。ちょっと聞きたいこともあるからな、暇になったら連絡くれ』」
苦笑しながら通知時間を見ると転移した直後だった。丁度聞きたいことのあった健太は返信すると連絡があるまで掃除を始めようと腰を上げた。
「ん? もしもし? なんで電話なんだよ?」
『健さん! 俺がメッセージを送ったのは1時間前ですよ! 待たさないでくださいよ! なにしてたんですか? あっ! エルミちゃんとビデオチャットでもしてたんでしょ!』
「はいはい。それで用事はなんだよ? もう準備はできているのか?」
『もちろん! 近くまで来てるから迎えに来てくださいよ! 健さんの最寄りの駅の喫茶店で待ってますから! じゃ!』
「おい! ……。ったく。相変わらず自由人だなあいつは」
話したい事だけを伝えて電話を切った直章に健太は苦笑しながら着替えると喫茶店に向かう。最近オープンした最寄りの駅の喫茶店は人も少なく、奥の席で直章が元気よく手を振っているのがよく分かった。
「急にどうした? こんな場所で?」
「あっ! 健さん! 待ってましたよ。あれ? ひょっとして歩いて来たんですか?」
「ああ。それがどうかしたか?」
「そっかー。車で来てくださいと! と言っとけばよかった!」
健太が徒歩でやって来た事に気付いた直章がガッカリとした顔になる。なに事かと足元を見ると、大量の紙袋に本や色々な道具が入っており、よくここまで一人で持ってきたなと感心するレベルだった。
「おい。こんな大量の荷物をよく持ってきたな」
「でしょ! ここまで来るのは大変でしたよ! コロコロを使って運んでも重いわ。職務質問を受けるわ。『こんなに大量の本を運ぶ? それを一人で? ちょっと中を確認しても?』って、若いお巡りさんに言われた上に、『ライトノベルがお好きなんですね』と言われたんっすよ!」
「知るかよ! 俺も注文するかな」
笑いながら直章の前に座ると、日本に戻ってから異様にお腹が減る事に気付いた健太は、我慢できずにコーヒーとトーストを注文する。
「あれ? 珍しいっすね。健さんが喫茶店でコーヒー以外を頼むなんて」
「ああ。朝食を食べてないからな」
適当に答えながら、ポケットから電子たばこを取り出すと吸い始める。いつもと違う様子に直章が心配そうな顔になる。
「本気で心配になってきましたよ。いつもと違いすぎるでしょ? 話くらいなら聞きますよ?」
「ん? ああ。タバコは久しぶりに会った友人が吸っていたから思わず再開させたんだよ。とりあえず、コーヒーとトーストを片付けたら移動しようか? 荷物は半分持ってやるからな。おっ! トーストが来たな」
突然、喫茶店でアイテムボックスや魔法などのファンタジーな話をするのは恥ずかしいと思っている健太は、適当に話を誤魔化すとトーストを頬ばり始めた。
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「結構食べましたね。そんなにお腹が減ってたんですか? いつもにマシて食べてますよ?」
「ああ。俺もまさか4枚もトーストを食べるとは思わなかったな」
ビックリするほどの健啖家ぶりを発揮した健太を直章が呆れた表情で眺めていた。健太自身もそれほど食べるとは思っておらず、それほどの食欲を見せる自分自身に驚いていた。
「やっぱり、エルミちゃんの影響ですね!」
「え、えっ? ど、どういう事だよ? エルミがなにか関係するのか?」
「いやいや。なにかあったんでしょ? 健さんの慌てっぷりはおかしいですよ」
直章の指摘に慌てたような表情になる健太。そんな様子をニヤニヤした表情で眺める直章に渋い顔をしながら誤魔化すのだった。




