第32話
「おはようございますだ。昨日はお楽しみじゃったな」
「いやいや。昨日は終わったら速攻寝ましたよ? さんざん昨日楽しんだのはご主人ですよね?」
ニヤニヤとした表情で朝の挨拶をしてくる宿屋の主人に、健太は苦笑をしながら返事をする。ミナヅキによる冒険活劇は大盛況の内に終わり、その後も宿屋の主人が流水晶(小粒)をもらったテンションのまま飲み会が開催されていた。
「ご主人は酒が強いですな」
「いやー。年甲斐もなくハシャいでしまいましたな。それにしてもケンタ様が持っておられたニホンシュは美味かった。水のように透き通っているのに酒の味がする。まさに命の水でしたなー」
酔った勢いで日本酒の一升瓶を出した健太だったが、酔っぱらっていた一同は特に気にすることなく受け入れていた。
「昨日見た酒瓶は珍しい形をしておったが、あれは一体?」
「ああ。あれは特別な容器でしてね。エルミの実家で借りたのですよ」
昨日の記憶を掘り起こし、一升瓶の存在を思い出した宿屋の主人を適当に煙に巻くと健太は金平糖を取り出して手渡す。
「これは昨日の宴会のお礼です。こんな物が感謝の印で申し訳ないですが――」
「おお! 昨日、ミナヅキちゃんが言っておった神の恵みですな! こんな貴重な物を頂けるなんて、さすがは精霊使い様のケンタ様だ」
いまだに健太が精霊使いだと勘違いしている宿屋の主人に、苦笑を返しながら用意された朝食を食べ始めた。
「おはようございます。ケンタ様。お早いですね」
「おはよう。昨日は飲み過ぎだったようだな。エルミ」
まだ眠たそうにしているエルミに健太が笑いながら話しかける。宿屋の主人にお湯を頼むと、鞄から粉コーヒーを取り出してカップに入れて手渡した。
「苦いです! でも目が覚めますね。ありがとうございます」
「そりゃ良かった。口の苦さはこれで解消してくれ」
鞄からラムネを取り出して手渡す健太。新たなお菓子を手渡され、食べてみて美味しさに驚きの表情を浮かべるエルミ。そして、少し遅れて起きてきたゲンナディーとミナヅキにもラムネを振る舞って大喜びされた。
「なんすか! これ! めちゃ美味しいですよ!」
『なにこれー。美味しいー。ケンタ様! もっと頂戴ー!』
今まで食べた事のない味に朝からテンション高く踊っているミナヅキを見て、宿屋の主人がありがたそうに拝んでいた。
「朝から精霊ミナヅキちゃんの踊りがみれるとは」
『おじいちゃん。おはよー。踊りくらいだったらいつでも見せるよー』
朝食を持った状態で感動している宿屋の主人の周りを飛び回るミナヅキを、一同は微笑ましそうに眺めるのだった。
◇□◇□◇□
「お世話になりました」
「いやいや。こちらこそ宿泊いただいて感謝しておりますぞ」
健太の言葉に宿屋の主人が答える。ミナヅキから流水晶(小粒)をもらった話は、すでに有名になっていた。一目見たさから宿泊する者が続出しているそうで、次の宿泊予約は3ヶ月後とのことだった。
「ちなみにミナヅキちゃんが泊まった部屋は特別室として、通常より高くしましたわ。ふぉっふぉふぉ」
「ちゃっかりしてるっすね」
闊達に笑う宿屋の主人にゲンナディーがツッコむ。そしてミナヅキがゲンナディーの懐から飛び出して挨拶をした。
『おじいちゃん。ばいばーい。またゲンナディーと来るね!』
「えっ? ケンタ様でなく? なぜ共の者の中にいるんじゃ?」
不思議そうな顔をしている宿屋の主人にエルミが苦笑をしながら事情を説明する。ゲンナディーが精霊使いだと知った宿屋の主人は、平謝りしながら何度も頭を下げた。
「気にしてないっすよ。それに名付けをしたのはケンタ様っすからね!」
「いやいや。ほんに申し訳ない。次にミナヅキちゃんと来たときには宿代は取らんから安心して下せえ」
宿屋の主人の言葉にゲンナディーが笑いながら頷く。それを合図として一同は宿屋から旅だった。
「なんか慌ただしかったな」
「そうですね。でも楽しかったですよ」
『私も楽しかったー。またお話ししたいなー』
馬車に揺られながら呟いた健太に、エルミが笑いながら答える。そして、もらった金平糖を美味しそうに食べつつ、健太の周りを飛び回っているミナヅキを見て。一同は微笑んでいた。
「開門を願う! 我は騎士爵領の娘エルミ。ご当主との約束に従って参上した」
「お待ちしておりました。エルミ様。我が主がお待ちです」
到着を告げたエルミに、門番が恭しく答える。馬車を預けた一同はやってきた執事に案内されて領主の元に案内された。質素堅実の手本だといっても通じる内装を見ながら待っていると、一人の女性が入って来た。
「エルミちゃん! 久しぶりー! 元気にしてた? 会いに来てくらないから寂しかったわ!」
「お久しぶりです。お姉様。中々こちらに来れずに申し訳ありません。お元気にされてましたか? 今日は色々と話をしにやって来ました」
扉が開いて、突然抱き付いてきた女性にエルミも嬉しそうに抱きしめ返す。そんな2人の仲良さに健太は微笑ましそうな顔をするのだった。




