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第31話

『そこでエルミの剣が縦横無尽に走って―。そして背後に回り空豆の魔物に隙が出来た瞬間を見計らいー。ミナヅキの超特大ウォーターボールが止めを刺したのです!』


「「「おぉ!」」」


「さすがは精霊様だ!」


 宿屋の1階にある食堂に集まった一同に、ミナヅキが嬉しそうに冒険活劇風に立ち回りを織り交ぜながら説明をしていた。宿屋の主人が「精霊様の話が聞きたい」と懇願し、それにミナヅキが大喜びした結果、食堂には20名近い聴衆が駆けつけていた。


『そして、時を戻ってケンタ様との出会い編!』


「待ってました!」


「精霊使い様ー! こっちを向いてー」


「渋くて恰好いいよね?」


 好反応に気分を良くしたミナヅキは飛び回りながら、健太達と出会った話をし始める。そして、聴衆の中には精霊使いだと勘違いしている健太に熱い視線を送る女性達がいた。


「ふー! こっちみんな! ケンタ様は異世界の勇者様だって言ってるでしょ!」


「無理っすよ。エルミ様。異世界の勇者様の話は伝説になっていて、おとぎ話みたいになってますが、精霊使い様の話は50年前の話ですからね。やっぱり身近に感じますよ」


「50年前に精霊使いが居たのか?」


 ゲンナディーが笑いながら周囲を威嚇しているエルミに話す。その話を聞いていた健太が二人に向かって質問をした。


「ええ。ミズキさんのような大精霊様を使役した訳ではありませんし、ミナヅキちゃんのように精霊様に名付けをしたとも聞いていませんが、精霊様と一緒に旅をした方が居ました」


「多分。俺みたいな感じで、精霊様に気に入られた人だと思いますよ」


『ケンタ様ー。こっちに来てー』


 3人が過去の精霊使いについて話していると、ミナヅキに健太が呼ばれる。


「なんだ。どうかしたか?」


『えっと。チョコレートとか金平糖の話をしても、誰も分かってくれないのー』


 健太にもらった飴の小包装を振り回しながらプンプンと怒っているミナヅキに、健太は笑いながら近付くとアイテムボックスから大袋に入ったチョコレートを取り出す。


「これがチョコレートだ。甘くて美味いぞ」


「「「おぉ!」」」


 なにもない場所からチョコレートを取り出した健太に盛大な拍手が送られる。気分を良くした健太はチョコレートの袋を開けると、近くにいた者から順番にチョコレートを配りだした。


「全員に行き渡ったか? よし、ミナヅキ。チョコレートの説明だ」


『はーい。いい! これはケンタ様が恵んでくださった奇跡のお菓子であるチョコレートなのです!』


「「「おお!」」」


 ミナヅキの説明に集まった聴衆達が歓声を上げる。


『1個しか配られてないから味わって食べるのですよー』


「甘い!」


「一瞬で溶けてなくなった」


「もう1個欲しい」


 生まれて初めて食べるチョコレートの美味しさに歓声が上がり、1個しか食べられないもどかしさに悲しそうな表情になる。


「残念だが、もうないんだ。また、こっちに来ることがあったら用意しよう」


 あまりにも落ち込んでいる聴衆に健太が思わず声をかける。その発言にエルミは頭を抱え、ゲンナディーは他人のフリをし、ミナヅキは意味も分からずに聴衆と一緒に歓声を上げていた。


「ケンタ様ー」


「うぉ! どうした。エルミ? なんでそんなに怖い顔をしているんだよ?」


「安易な行動は駄目だと言いましたよね? この方達が帰った後で周りにチョコレートの話をしたら、次はこの人数ではありませんよ?」


「あっ」


 エルミの言葉に健太が青ざめる。さすがに大量にチョコレートを買おうと思うと、かなりの金額が必要であることに気付いた。


「ま、まあ。今日と一緒の形のチョコレートは用意できないが、似たような物は用意するさ」


「無理はしないでくださいね。必要でしたら、資金援助はしますので」


 乾いた笑いをしている健太を見ながら、エルミは心配そうにしていた。問題ないと応えた健太は日本に戻ったら、ネットショップで安いチョコレートの小包装を探そうと心に誓った。


 その後、ミナヅキによる冒険活劇は、誇張や脚色が加えられ大盛況の内に終えた。そして、聴衆の中にいた一人がミナヅキの話を元に歌を作り、1年後には吟遊詩人として名を馳せ、王都でも公演される演題にまで成長するのだった。


 ◇□◇□◇□


「今日は本当にありがとうございましだ。始まって以来の売り上げになりました。今日は皆さん無料で宿泊してくだせえ」


「ありがとうございます!」


『おじいちゃん。ありがとー。私もお礼に上げるー』


 宿屋の主人が聴衆からの注文で過去最高の売り上げになった事で、機嫌良く宿代と食事代の無料を伝えてくる。全員分の宿泊が浮いた事に満面の笑みを浮かべるエルミ。そしてミナヅキはよく分からないまま、嬉しそうな顔をすると懐から小さな球を取り出して宿屋の主人に手渡した。


「こ、これは?」


『お友達の印ー。おじいちゃんだけ触れるようにしといたー』


 気楽な感じで手渡された小さな球に宿屋の主人が震える。彼が受け取った小さな球はエルミが受け取った流水晶の小型版であり、宿屋の主人が亡くなるまで宿屋の繁栄の証として大事に飾られるのだった。

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