第25話
しょんぼりとしている大精霊に健太はコーヒーを手渡すと、ゲンナディーには日本酒を一気に飲むように伝える。
「旨いっ! 甘い中にも酒の味がしっかりあって、しかも薄くなく、濃くもない。しかも水みたいに透明なんですね! これがケンタ様の国のお酒か」
『コーヒーは美味しいのですねー。大昔に飲んでいるのを見た事がありますが、まさかこんなに意識が覚醒するとは』
ゲンナディーの感想は理解できたので頷いていたが、大精霊の『意識が覚醒する』の発言は意味が分からなかったので確認する。
「意識が覚醒するのですか?」
『ええ。ケンタ様は覚醒しませんか? 今なら普段封印している魔法も使えますし、大魔法も連発できそうです』
物騒な台詞にゲンナディーの顔が青ざめる。健太は大精霊の話が冗談と判断して、笑いながらチョコレートを取り出すと手渡した。
「それは凄いですね。また見せて下さい。大精霊さんもチョコレートとコーヒーをどうぞ。おチビちゃん達も、コーヒーとチョコを一緒に食べて満足そうにしてましたよ」
手渡されたチョコを一口食べて、感動の表情で口を押さえる大精霊。その様子に健太は次々とチョコを取り出して手渡した。
「まだまだありますからね。お好きなだけどうぞ」
『ありがとうございます! このチョコレートをケンタ様はどのくらい持ってますか? 個別にケンタ様と取引はできますか?』
大精霊からの問いかけに健太は考え込む。自分一人で判断できないと感じゲンナディーに視線を向けたが、もの凄い勢いで視線を逸らされた。
「おい」
「無理っすよ! 御者くらいしか出来ない俺になにを期待してるんっすか! エルミ様を待ちましょうよ」
「まあ、それが一番だろうな。ここはエルミの領地なんだろ?」
二人が話をしていると大精霊が話に割って入る。
『では取り引きは、その方が来てからにしましょう。それよりもケンタ様に願いがあるのです』
「なんでしょう?」
『私に名前を付けてくださいませんんか?』
唐突なお願いに健太は首を傾げる。慌てたのはゲンナディーである。健太に目線を送るが、意味が伝わっていないと感じると身振り手振りを始めた。
「どうした? ゲンナディー。その変な踊りはなんだ?」
「ああ! もう! いいですか、エルミ様が戻る――。な、なんでもないっす。俺には無理っす……」
急に黙り込んだゲンナディーに、健太は不思議そうな顔をしているとゲンナディーを見ていた大精霊が話しかけてきた。
『さあ。ケンタ様。愛称みたいな感じでお願いします』
「うーん。そうだな。大精霊さんは水の精霊なんだよな? じゃあ、俺の国の言葉で瑞輝はどうです? 『瑞』はめでたいとの意味があって、『輝』は水面が輝くイメージです。愛称はミズキちゃんで」
軽い感じで考えた健太の名付けを気に入ったのか、大精霊は何度も『瑞輝』と口ずさむ。
『良いですね。「我が名は瑞輝。水に輝く精霊の長にして異世界の勇者を守る者」』
大精霊ミズキが健太から名付けられた名前を宣言すると、その姿が光り輝き始めた。そして健太に向かって光の線が突き刺さった。
「なっ! い、痛くない? 穴空いてない? 焦げてない?」
『これでケンタ様とコネクトが出来ました。これからもよろしくお願いしますね』
何が起こっているのか理解できていない健太は、光りが当たった箇所を確認しつつ頷きながら答える。
「ああ。チョコレートの取引ならエルミと相談して対処するよ」
「うわぁぁ。どうしようこれ。どうすんの俺。これをエルミ様になんて説明したらいいんだよ?」
とりあえず意味が分からずニコニコと笑っている健太に、全てを理解してニコニコしている大精霊ミズキ。そして、全てを理解した上でエルミへの報告をどうするか頭を抱えているゲンナディー。三者三様の表情を浮かべるのだった。
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「えっと……。これは一体?」
「おお。お帰り。エルミ。大量だな」
『『『『お帰りなさーい』』』』
『お帰りなさい。お待ちしておりました。エルミさん』
「ちょっと説明すると話が長くなるんっすよ。エルミ様。ちょっと落ち着いて聞いて下さいね」
両手に翌日の朝ご飯を抱えて満面の笑みで帰ってきた状態のエルミが立ち尽くす。狩りに出る前は居なかったはずの、見ただけで自慢が出来る精霊が4体も空を飛んでチョコを頬張っており、伝説と言われている光り輝く絶世の美女の大精霊がパンを勢いよく食べていた。
その横でゲンナディーは青い顔でエルミへの説明をどうしようかと悩んでおり、健太は苦笑しながらアイテムボックスから次々とパンやチョコレートを取り出していた。
「あの。ケンタ様?」
「ああ。一から説明するな。実は――」
理解が追いつかないエルミが愛想笑いを浮かべながら健太に視線を投げる。エルミの表情を見て、状況が理解できないつらさを十分に分かっている健太が、今までの経緯を説明した。
「はっ? 大精霊様とコネクトをされたのですか? それも名前を与えて? えっ? ちょっと待ってください。えっ?」
大きく混乱しているエルミをゲンナディーが同情するように眺めるのだった。




