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第18話

「ふわぁぁぁぁ。これがコーヒーですのねー。なんと芳醇な香りがする上に、魅惑的な色なんでしょうか。今までの疲れがもの凄い勢いで癒されていきます。ふふふ。これがコーヒーなのですね」


「気に入ってくれたようで嬉しいよ。コーヒーは俺の趣味でもあるからね。嬉しいよ。お代わりはどう?」


「いえ。ちょっと口の中が……」


 おかわりの話に、エルミは少し残念そうな顔で断りを入れる。コーヒーの酸味で舌がおかしくなっていると判断した健太は、アイテムボックスから粉末クリームとコーヒーシュガーを取り出す。


「ケンタ様。それは?」


「牛乳の代わりに入れる粉だよ。こっちの砂糖はゆっくりと溶けて甘さが徐々に変わるのを楽しめるぞ。エルミはブラックで飲むのを慣れてからでいいぞ。まずはコーヒーを楽しむ事を覚えよう」


 健太から手渡されたカップを見て、エルミは思わず中身を凝視する。


「こ、これは?」


「ん? 見たことないか? それともこっちでは牛乳を入れたりしないのか? 間違いなく飲みやすいから試してくれ」


「は、はい」


 漆黒のようなコーヒーが泥水になったように見えたエルミの表情が曇る。それを見て、健太が慌ててフォローを入れる。しかし表情が変わらないエルミを見て、健太は残念そうな顔をするとカップを回収して自分で飲み始めた。


「ケ、ケンタ様!」


「ん? 見た目が嫌だろ? まろやかになって旨いんだけどな。こればっかりは、その世界の飲み方があるからな。無理しなくて良いぞ。砂糖を入れるだけでも感じは変わるからな」


「飲みます! ケンタ様! そのカップで飲みます!」


「いや。淹れ直すから――」


「むしろ、そのカップで飲ませてください! お願いします」


 健太の持っていたカップを奪い取るようにして、エルミは至福の表情で飲み始める。


「ケンタ様が飲まれた場所は……。えっ? 甘い! 美味しい! 飲みやすいです!」


「だろ! これを入れると飲みやすくなるんだよ」


「私も試して良いですかな?」


 完全に放置されていたステンカが嬉しそうな顔で会話に参加してきた。


「あら。お父様居たのですか?」


「さすがに本気で泣くよ?」


 泣き真似をしているステンカとエルミの親娘漫才に笑いながら、新しいカップを出すと彼用のコーヒーを淹れ始めた。


 ◇□◇□◇□


 3人はしばらくコーヒーを満喫していたが、突然の来訪者が和やかな空気を破る。


「これはこれは。異世界の勇者様ではないですか。もう、自分の国に帰られたと思っておりましたが?」


「ゲオルギー殿。なにか用ですか?」


 許可なく屋敷に入ってきたゲオルギーに剣呑な視線を投げるエルミ。その視線に一瞬たじろぎ、2歩ほど後退したゲオルギーだったが、塩を扱う自分の方が優位な位置に立っている事を思い出すと口を歪める。


「おいおい。未来の旦那に冷たい対応じゃないか? なあ、エルミ」


「あなたに『エルミ』などと呼び捨てにされる覚えはない! 取り消してもらおうか」


 あまりの剣幕に呆れたような表情になったゲオルギーが、ステンカに向かって困った表情を浮かべつつ語りかける。


「ちょっと、話があるんですがね。ご息女の態度はあまりにも失礼かと思いますが?」


「貴殿と話をする予定はありませんぞ。ゲオルギー殿。本日はどのようなご用件で?」


「そ、そんな口を聞いて大丈夫ですか? 私が父に話せば、この領地の生命線が断たれるのですよ?」


 ひきつった顔でゲオルギーが脅しをかげるが、ステンカもエルミも気にする様子を見せなかった。今までと違う態度に苛立ったゲオルギーは、その理由に気付くと健太を睨みつける。


「てめえが諸悪の根元か。いい度胸をしてるじゃないか。この俺に逆らおうってんだからな! それと! エルミ! 後悔するなよ! お前の領地には二度と塩は出さねえ! 生命線を断たれて領民共々苦しむがいい」


 吐き捨てるように言い放つと、ゲオルギーは荒々しい足音を立てて屋敷から出ていった。


「あー。すっきりした! 今まで散々我慢してきたんですからね! これで相手をしなくて良いなんて素晴らしい限りだわ!」


「全くだ。ゲオルギー殿の父親は悪い奴ではないのだが、一人息子にはとことん甘いからな」


 ゲオルギーが出て行った場所を睨みつけながら舌を出す。その横で同じようにステンカも舌を出しており、健太は呆れたよう表情になった。


「親子揃ってなにしてんだよ? 取りあえずゲオルギーってのは相手しなくても大丈夫なのか?」


「ええ。大丈夫ですよ。彼は塩の販売を停止するでしょうが、ケンタ様が持ってきて下さった上質の塩があります。それで領内を賄っている間に、お父様が新しい領地への道を開拓されます。ねえ。お父様。……お父様?」


 健太の質問にエルミは自信満々に答える。そして父親であるステンカを見る。


「どうかされました? お父様?」


「いや。隣の領主とは話は付いている。だが、その……」


 歯切れの悪い回答にエルミと健太が首を傾げていると、突然ステンカが土下座を始めた。


「すまん!」


「おお。こっちにも土下座があるのか」


「急にドゲザをするなんて、なにがあったのですか? お父様?」


 突然の土下座に驚いているエルミと妙に感心している健太だったが、ステンカの土下座を止めさせると理由の確認をした。

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