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第15話

「絶対に紹介してくださいよ! 俺もエルミちゃん会いたいですから! 本当に頼みますよ!」


「確約はできん!」


「どんだけ(かたく)ななんですか! ちょっとくらいは譲歩してもいいのに! それと、せっかく授けた知識ですから忘れないでくださいよ!」


 直章(なおあき)からしつこいように念を押されて、健太は苦笑混じりに別れを告げる。時間は終電間際になっており、健太は電車に乗り込むと空いている席に着いてため息を吐いた。


「ふー。それにしても激動の日だったな。向こうでは2日経っているのに、こっちでは一瞬も過ぎていないのだからな」


 手元には冷め切ったコーヒーがあった。それを一口飲んで健太は考えにふける。


(アイテムボックスはあっちの物をこっちで取り出せた。なら、こっちの世界の物はあちらで取り出せるって事だよな。家に帰って確認するか)


「とりあえず。『取り出せ』」


 健太の言葉に反応して、男性が持つには違和感のある物が右手に取り出される。蛍光灯からの光を受けて薄く輝いているイヤリングを見て健太は小さく微笑んだ。


「待ってろよ。エルミ。絶対に助けてやるからな」


 ◇□◇□◇□


 翌朝、健太は近所にある巨大スーパーに来ていた。ここは年間の入場券を購入することで入れる場所であり、大量の商品がまとめ売りされていた。


「取りあえずは塩は必須だな。25キログラムを20袋か。お、重い。これカート動くか? すいませーん」


 大量に乗せられた塩で身動きが取れない健太は近くにいた店員を呼んで、車まで運んでもらうように交渉する。


「ええ。構いませんよ。なにかご商売ですか?」


「ええ。まあ。そんな感じですね。他にも購入したい物があるのですが……」


「分かりました。まとめて準備しますので、精算前に声を掛けてくださいね」


 店員に数量を伝え、健太は買い物を続ける。


「これはいるな。こっちも必要だよな。あれはあった方がいいだろう。それにこれは喜んでくれるかな?」


 次々とカートに投入されていく商品。山積みにされていく商品に、周囲の目が購入者である健太に釘付けになっていたが、当の本人は気付くことなく買い物を続けた。


「カードで支払いを」


「本当に大丈夫ですか? 軽トラックを用意しますが?」


「大丈夫です。気遣いありがとう」


 塩だけでもかなりの数になっている上に、カート2台分の商品をなんとか車に乗せると、傍目に見ても車体が沈んでいることが分かる。心配顔の店員をよそに、車を走らせた健太は近くにあるパン屋の駐車場に停めると、周囲に誰も居ないことを確認して塩に右手をかざした。


「『納めよ』よし、この調子で収納していこう。昨日確認しておいて良かったな」


 次々と収納しながら健太は昨日の検証を思い出していた。


 ◇□◇□◇□


「それと、こっちで物を入れると表示が変わるんだな」


 ステータス画面には『収納1と収納2のどちらを選択しますか』と表示されていた。


「取りあえずは、あっちの世界で収納した石は『収納1』に入っていて取り出せた。後はパンと皿が残っているな。イメージをしつつパンを取り出してみるか。『取り出せ』おお。普通に取り出せたな」


 健太は取り出したパンを一口かじる。


「うぅ。思ったより不味いぞ? なんでだ? 昨日は旨く感じたんだが……」


 パンの不味さに首を傾げている健太だったが、一つの事に思い至る。


「そっか。昨日は極度の緊張があった上に、エルミが給仕をして楽しく喋りながら食べていたからな……」


 ◇□◇□◇□


「まさか俺がこんな気持ちになるなんてな」


 独り身が長い健太だが、少しだけ一緒だったエルミとの時間が自分の中で大きく占める事を感じていた。なぜか楽しい気分になった健太は、機嫌良く購入した品をアイテムボックスに収納していたが、途中で反応しなくなった。


「ん? 収納が出来ない? 『納めよ』……。なんだ? 『現れよ!』」


 ステータス画面に表示されているエラー画面を見ながら途方に暮れる。


「どうするよ? 『容量オーバーで収納できません』って。まだ半分はあるぞ? ま、まあ。分からない事は先送りにしてパンを買いに行くか」


 健太は収納できないことに戸惑いながらも、そのままパン屋に入ると様々なパンを購入すると車の中で収納を試す。


「おっ? 問題なくパンは収納出来たな。もう一度塩を試してみるか? やっぱり駄目か……。それにしても荷物は大量だな。次の支払い明細を見るのが恐ろしいぞ」


 自宅に戻った健太は、巨大スーパーの領収書を見て立ちくらみを起こしそうになりながら、丸めてゴミ箱に捨てるとパソコンを起動させる。


「取りあえずは組み立て式の台車を買うか」


 ネットで台車を検索しながら、使い勝手の良さそうな物を購入する。翌日には配達されるとの表示を見て安堵のため息を吐くと、部屋の片隅に積まれている塩の山を眺めるのだった。


 ◇□◇□◇□


「よし。準備は万端だ」


 部屋の中で動きやすい服装に着替え靴を履いた状態で、アイテムボックスに入りきらなかった塩が付まれた台車の上に自らも縛り付けるようにして乗り込むと時を待つ。


「そろそろエルミとの約束の時間だよな。向こうで電波時計が働くはずもないが、2日でズレることはないだ……。うっ! き、きた!」


 再び時が止まり、景色が灰色に包まれる。そして前回と同じ浮遊感と回転が健太を飲み込んだ。

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