第14話
「ほー。それで、その子が召喚とかアイテムボックスなどに興味があると。そして紅茶を嗜み、ワインも好きで、それに剣の扱いが上手だと? 家は騎士爵で、元侯爵? ふむふむ――。なるほどですね。分かります! って、そんな子が居るかー!」
健太の話を聞いていた直章は、最初は興味深そうだったが、徐々に険しい顔になり最後はちゃぶ台返しをする勢いで突っ込んできた。
「うぉ! ど、どうした? なんで急に叫んだんだよ。落ち着けよ。なお」
「これが落ち着いてられますか! そんな子が居るわけ無いでしょうが! なんすか! 俺に対する挑戦ですか! 証拠はあるんでしょうね! 写真とか! ん? なんで急にそっぽ向くんです? あっ! その表情だと写真ありますね! 健さん顔に出し過ぎ! 早く写真を見せてください! どんな子ですか早く見せて下さいよ!」
健太の表情を見て、何かを確信した直章はニヤニヤと笑いながら写真を出すように手を出す。しばらく悩んでいた健太だったが、諦めたかのようにスマホを取り出すと直章に手渡した。
「えっ? めちゃくちゃ可愛い……。なんすか! この子! 可愛すぎるでしょ! しかも金髪碧眼……だ……と? ちくしょう! そりゃ、俺の紹介なんていらないですよね! しかもコスプレまでしてるし! こんな彼女欲しいー」
「い、いや。そんな感じの関係じゃなくてな――」
「しゃらーっぷ! 黙れ! こんちくしょう! どこから見ても健さんに恋する乙女の表情じゃないですか!」
のたうち回る勢いで写真をガン見している直章。次々と写真をめくっている直章の様子に、なぜか誇らしげな表情で見ている健太。次々と写真を見ていた直章の動きが急に止まる。
「健さん。これってどこですか?」
「ん? どれだ? うっ? そ、それはだな。彼女の――」
「なんと! 彼女ガチじゃないですか! 床に魔法陣まで書けるなんて! 名前! 名前を教えてくださいよ! 俺、ファンになりますから!」
召喚された部屋の写真を撮っていた事すら忘れていた健太は、冷や汗をかきながら誤魔化そうとする。だが、その前に直章が都合良く勘違いをしてくれたので事なきを得ていた。
「彼女の名はエルミだ」
「エルミちゃんかー。俺に紹介してくださいよ」
「ならん!」
軽い感じで言った直章だったが、かなり焦った表情で真剣な声で断られたことに驚く。
「いや。『ならん!』って。大丈夫ですよ? 取らないですよ?」
「いや! 駄目だ! ならん!」
「わ、分かりましたよ。じゃあ、紹介してもいいと思ったら頼みますよ」
あまりの形相に直章は苦笑しながら話を変更する。
「じゃあ、そのエルミちゃんの趣味に合わせるために、健さんも異世界の知識やチートを覚えたいと? 涙ぐましいですねー。これだけ可愛かったら気持ちは分かりますが。この子の出身は北欧の国ですか?」
泣き真似をしている直章に、健太は苦笑を深めつつ返事をする。
「ああ。そんな感じだ。そ、それでだな。例えば、アイテムボックスに『納めよ』と唱えると収納できるが、その異世界で上手く取り出せない時はどうしたらいいと思う? 『基点が違うため取り出せません』とエラーが出るんだ」
健太の例えが具体的すぎて、呆気に取られる。
「なんすか? その具体的な設定は? エルミちゃんはなろう作家ですか?」
「なんだよ? そのなろう作家ってのは?」
健太に全く知識のないのを思い出して、直章は説明をする。
「ほほー。そんな小説を書いているサイトがあるのか?」
「本気で知らないんですか? アイテムボックスと言えば、なろう小説ですよ!」
豆乳入りのコーヒーをすすりながら感心している健太に、直章は呆れた表情を浮かべる。
「仕方ないだろ。本気で興味が無かったんだから」
「エルミちゃんに感謝ですね。俺の趣味を理解してくれる上司が出来た」
「それで、さっきの質問だが……」
うんうんと頷いている直章に健太が申し訳なさそうに尋ねる。
「そうでしたね。えっと、アイテムボックスに収納した物が取り出せないんですよね? アイテムボックスのレベルが足りない? 取り出しキーワードが違う? 取り出すイメージが固まっていない? んー。どれもしっくりこないなー」
「そうそう。そう言えば取り出すキーワードは『取り出せ』だが……」
右手をかざした健太が話していると石が突然現れた。
「石?」
「石っすね」
「なんで石?」
「いや。俺もそれ知りたいですよ。まさか健太さんが出した? はっ! まさかアイテムボックスの話は本当の――」
「いや! そんなこと無いぞ! 俺じゃ無いぞ!」
石を眺めつつ話していた二人だったが、直章がなにかに気付いたかのように目を見開く。その視線を受けて焦った表情を浮かべる健太を見て大笑いを始めた。
「なに焦ってんすか。俺の演技に合わせなくていいですよ!」
「はっはっは。これからエルミとこんな話をするからな。練習しておかないと」
「ちっ! ちょっと可愛い彼女が出来たからって調子に乗りやがって! リア充爆ぜてください! お願いします」
直章の表情や話し方が演技だと分かった健太は、背中に冷や汗をびっしりとかきながら安堵するのだった。