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第13話

「ではいきます。『この世に現れし勇敢なる者を時の流れに戻す。次なる邂逅を喜びをもって待ち続ける』」


「おお。光り出した。うっ! ちょっと気持ち悪いぞ」


 エルミが詠唱を始めると地面に描かれている魔法陣が輝き始める。最初は驚きと共にテンションの上がっていた健太だったが、光が強くなるごとに浮遊感が襲ってきて気分が悪くなっていった。


「しばらくはそのままでお待ちください。私は魔法陣に入れませんので、ここで見送りを致しますね」


「次は三日後だぞ!」


「分かっております。ケンタ様から預かっているウデドケイがありますから間違いません。三つ月の魔力も大丈夫ですから! ケンタ様のニホンがどのような場所かは理解できませんでしたが、無理だけはしないでください! 次お会いするときは! 次は! お元気な姿を見せ――」


 必死に涙を堪えながら語りかけるエルミを見ていた健太だったが、徐々に声が聞こえなくなり、それに反するように光と浮遊感が強くなっていく。そして目が開けられないほどの光量が健太を包みこむ。


「くっ!」


 前回の召喚と同じ強烈な浮遊感が健太を襲う。今回は身構えていた事もあり転倒せずに済んだ。そして、光が収まると共に徐々に周りの景色が見えてくる。


「これは、時間が止まった時と同じ状況か?」


 そこはエルミといた場所ではなく見知った会社だった。ただ灰色の光景が広がっており、音はなく、時計の針もPCも動いていなかった。当然、人間も。


「おい! なお! まだ動けないのか? くそっ! 何かすることが……。そうだ。『現れよ!』よし。アイテムボックスに表示されている内容に何かあるはずだ」


 相変わらずステータス画面を勘違いしてる健太だが、それに気付くことなく画面の確認を行う。


「なになに。『再開まであと30秒』だと? 待っておけばいいな。ん? これは『再度、異世界に向かいますか?』だと? これは『はい』を押せばいい」


 画面を見ながら健太が操作をしていると、突然大きな音が響く。


「うぉ! な、なんだ?」


「びっくりした! どうかしました? 他にも必要なのがあります?」


 急に灰色の景色に色が戻り、音が動き出す。そして、何事もなかったかのように、むしろ健太の様子がおかしいと言いたげに首を傾げながら直章が確認してくる。


「い、いや。なんでもない。ちょっと、コーヒーは甘めにしてきてくれ。いや。俺が買い物に行こうか?」


「急に? どうしました? 健さんが急にそんな事を言うなんて」


 いつもと違う上司に心配げな顔を向けてくる直章に、慌てて手を振って説明する。


「いや。久しぶりに煙草が吸いたくなってな」


「えー。去年止めたって言ったじゃないですか! また吸い始めたら女の子を紹介出来ないですよ? 煙草が嫌いな子は多いんですから」


「ああ。もう構わない。紹介はして貰わなくても良いぞ。取りあえずはシステムがエラーを出さないかを見ててくれ。買い物に行ってくるわ」


 煙草を吸いたいとの発言に呆れた表情を浮かべた直章だが、自信満々で紹介はいらないと言い切ったのを聞いて、この数分で何があったのかと興味が沸いたようだったが無言の拒絶をしている健太に何も聞けず、預かっていたプリペイドカードと現金を手渡すのだった。


◇□◇□◇□


「ブレンドコーヒーを特大サイズで。トッピングに豆乳を追加。3割が豆乳で頼む」


 コンビニで大量の弁当やパン、飲み物やお菓子を購入してコーヒーショップにやって来ていた。エルミやステンカがコーヒーは嗜好品であるとの話を思い出していた。


「ふふ。二人がこの店を見たら仰天するだろうな。安い値段でコーヒーが飲めるんだからな」


「お待たせしましたー」


 手渡されたコーヒーを持って会社に戻った健太を呆れた表情の直章が向かい入れた。


「お帰りなさい。俺に何日残業させるつもりですか?」


「おお。すまん。ちょっと考え事をしてたら少しだけ買いすぎた。残ったのは持って帰っていいぞ」


「本当ですか! さっすが健さん! そこに憧れる-」


 自分の言葉に表情を緩める直章をみて健太は軽く笑う。無事にシステムのメンテナンスは終わっており、後は後片付けをして帰るだけになっていた。


「明日は休み―!」


「嬉しそうだな」


「当然ですよ! 俺はこの連休でため込んでいるラノベを一気に読むんですからね! 異世界が俺を待っている!」


 パンを咥えながら休日に何するかを熱く語る直章を見る。今までならアウトドア派になれと言っていた健太だったが、今は少しでも情報が欲しくさりげない感じで質問をする。


「あ、あ―。なお。そのラノベは面白いのか?」


「え? なんです? いつもなら『おい! 家で本ばっかりを読んでるなよ! 外に出ろ! 外に!』と凄い形相で言うじゃないですか? 本当になにかあったんですか?」


「い、いや。知り合いの子がアイテムボックスとか全属性とか言っていてな。話をするためにも色々と知識があった方がいいだろ? 本当にそれだけだからな」


「いやいや。どう見ても気になる子が出来たんでしょ? そしてラノベ好きと見た! 良いっすよ! 俺の知識を全て伝授しましょう! その代わり……」


 しどろもどろに説明する健太の姿をみて直章はニヤニヤと笑うと事情を説明するように詰め寄った。

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