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第12話

「アイテムボックス出てきましたか? 私には見えませんが出ているなら問題ありません。後は出し入れですね」


「そうか。これがアイテムボックスか。思ったような道具箱じゃなかったな」


 ステータス画面を眺めながら満足げに頷いている健太を見て、エルミも嬉しそうな顔をする。


「よし。アイテムボックスも出せたことだから、使い方を覚えないとな。どうやって物を収納するんだ?」


「古文書によると『自らの意志で動く物は収納出来ず、それ以外の物は収納できる。収納時は対象に手を添えながら「納めよ」と呟く』と書かれています」


 ステータス画面を見ながらアイテムボックスの仕様を確認している健太に、エルミも古文書片手に説明をする。


「なるほど。何かで試してみようか。エルミ。その食器を借りてもいいか?」


「念のためにマドレおばさんに確認してきますね」


「――。行ったな。さすがに初めての実験にエルミを付き合わすわけにはいかないからな」


 個室から出て行くエルミの足音が遠ざかっていくのを感じながら、健太はポケットから拾った石を取り出すと小さく呟いた。


「『納めよ』おお。収納が出来たの……か? 取り出すにはどうすればいいんだ? アイテムボックスの画面はなにも変わらないないぞ?」


 相変わらずステータス画面をアイテムボックスだと思いこんでいる健太が、画面を触ろうとするが手を近づけただけ画面は離れていく。


「やっぱり触れないな。どうしたもんか……。取りあえず、『取り出せ』! 『出ろ』! 『開け』! 『納めるな』『お前の本気はそんなもんか! 出るだろ! 出せ!』だめか。ん? 画面に何か表示されているな」


 健太がステータス画面を見ると、赤字でエラーが表示されていた。


「『取り出し方が違います』? 『基点が違うため取り出せません』? このアイテムボックスは処理を失敗するとエラーを表示させるのか? だったら最初のエラーは合い言葉が違うだよな。さっきの内、1つはあっているのか。だが、次のエラーは全く分からないぞ。基点が違う? どことだ?」


 検証を続けている健太だったが、収納した物を取り出せないのは確認できた。用意していた石が無くなり、する事が無くなった状態で考えにふける。


「取りあえず収納は出来た。それと『取り出せ』が出すためのキーワードなのは間違いない。後は収納した石をどうやって取り出せるかだが……」


「お待たせしました。どうされました? ケンタ様?」


「いや。たまたま石を持っていたから色々と試していたんだが、収納は出来るが取り出せなくてな」


 健太の言葉にエルミの動きが思わず止まる。気まずい空気が流れる中、思い出したかのように健太が確認する。


「次の召喚時は手荷物でも大丈夫なのか?」


「たぶん大丈夫としか……」


「だよなー」


 申し訳なさそうに伝えてくるエルミに、健太は料理の食べ残しを収納してみる。突然に消えたパンを見てエルミが驚きの声を上げる。


「凄いです! 収納出来てます!」


「ただ取り出せないんだよ。『取り出せ』やっぱりエラーが出て『基点が違うため取り出せません』と表示されるんだ。このアイテムボックスは使い道がないかもしれない」


 どうしても取り出せない状態で諦めの表情を浮かべている健太に、エルミは自分が付けていたイヤリングの片方を手渡す。


「これも入れてください」


「いや。これは貴重品だろう。取り出せないんだぞ?」


 健太の手にあるイヤリングは泪の形で水色の宝石が散りばめられおり、エルミによく似合っていた。


「いいのです。ひょっとしたら異世界に帰られたら取り出せるかもしれません。私が身に付けていた物をケンタ様に持っておいて頂きたいのです。二人がいつも繋がっているように願いを込めました」


「――。分かった。向こうで取り出せる事を期待しよう。『納めよ』」


 手にあったイヤリングは一瞬で消え去った。嬉しそうに眺めているエルミを見て、健太も微笑みを浮かべた。ふと気付いて視線を外に向けると街は夕焼けでオレンジ色に染まっていた。


「もうこんな時間ですね。時間も遅くなりましたので屋敷に戻りましょう」


「ああ。そうだな」


 マドレに別れを告げて食堂を出た二人はゆっくりと歩きながら屋敷に向かう。途中にある建物や畑に植えられている作物などの話をしながら歩く二人。徐々に無口になり歩く音だけが周囲に響く。

 エルミは自然と健太の腕を組みながら寄り添うように身体を近づけた。そんな彼女の行動に何も言わず、健太は服越しに伝わってくる人肌を感じながら腰に手を回すと、エルミを助けるためにどうするかを考え始めた。


◇□◇□◇□


「それでは送還の儀式を行います。ケンタ様は魔方陣の上に立って下さい」


「これでいいのか?」


 夕食の時間にステンカは戻ってきた。エルミから報告を受けたステンカは厳しい表情を浮かべて話を聞いていたが、健太が塩の調達を任せて欲しいと伝えると申し訳なさそうな顔をしながらお願いをしてきた。その際、購入資金として金貨5枚が手渡される。


「金貨の価値は分からないですが、これは多いのでは?」


「問題ありません。塩を調達して頂けるなら」


 話に聞くと4人家族が1ヶ月は豪遊出来る金額との事で、最初は遠慮していた健太だったが最後は押しに負けて受け取った。今後の対応についての話しも終わり、召喚された場所に移動する。


「では、さっそく送還を始めます。ケンタ様。――。無理をしないで下さいね」


「ああ。分かっている。めんどくさがりの俺が出来る範囲のことをするよ」


 この場にはステンカはおらず二人だけだった。二人は身体が密接するほど近付くとエルミが小さな声で語り掛ける。


「召喚したのがケンタ様で本当に良かったです。再びお呼びしますが、それまではしばらくのお別れです。次に会えるのを楽しみに魔力を練っておきますね。それと……」


 突然、エルミが首に手を回し、健太が逃げないようにすると唇を塞いた。


「んん! お、おい!」


「ふふふ。これで忘れたくても無理ですよね?」


 嬉しそうにしているエルミを見ながら健太は苦笑を漏らすのだった。

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